宵闇の散華譚

 怪人の朝は早い。
 午前6時にセットした目覚まし時計を、鳴る前に止めるのが日課である。日によっては夜も遅くまで仕事に勤しむ彼が、こんな時間に起きられるのも、やはり怪人であるからに他ならない。
 目を覚ました後は顔を洗って歯を磨く。怪人も年頃の男の子だ。17歳である。故に身だしなみには気を使う。次に犬の散歩だ。名はヨシツネ。柴犬とシベリアンハスキーの間に生まれたハイブリット。
 散歩から帰宅すると朝食が待っている。彼が働きに出るようになって家計が楽になったと最近機嫌の良い母は根っからの和食党。白い御飯にアジの開き、ホウレン草のお浸しと若布の味噌汁が定番である。
 そして制服に着替え、学校に行く。
 さて、今日はどんな一日になるのか――。

   /

 某県某市、某県立高校に通う俺は、一見すると極普通の男子高校生である。だが、それは仮の姿。怪人化して以来、俺の素顔はどちらかと言えば、身の丈3メートルの全身つるっとしたのっぺら坊である。実の所、人間形態は変化の一種に過ぎない。
 ただ、それでも、真っ当な人間だった頃の名残は消えず、やはり人の姿が自分にとって一番落ち着く事に変わりは無い。これは他の怪人の皆さんも同じなようで、やはり誰もが普段は人の姿で生活している。
 だから――組織のアジトでしか会わない怪人などは、街ですれ違っても気付かなかったりするのだ。油断できないとはこの事で、案外、直ぐ近くに同僚は潜んでいるかもしれないのである。

「おはよーっス」
「はよー」
 口々に挨拶を交わし、俺はいつも通りに自分の教室にやって来た。心なしか今日はざわめきが大きい。鞄を置いて友人に話を聞くと、なるほど、転校生が来るらしいとの事だ。
 確かに、教室の窓際から二列目の一番後ろには見慣れない机が運び込まれている。男か女か、美人かイケメンか。そんな会話があちこちで囁かれていた。俺にとっては隣の席になる人物だ。性別や外見はどうあれ、話の分かるヤツだといいのだが。
「席につけー。HRを始めるぞ」
 担任の国語教師(♀・28歳独身)が例によってタバコ臭い息を撒き散らしながら入ってくると、教室は一斉に静まり返った。廊下にいるであろう何者かに注目しているのだ。
「あー、もう気付いているとは思うが。転校生を紹介する。水科、入って良いぞ」
 ガラリと音を立てて扉が開かれ、全員の視線が一点に集まった。そして僅かな歓声。主に男連中から。
 噂の転校生は、女だったのだ。
 緊張で赤くなった顔を伏せ気味にし、しずしずと教卓まで歩いてくるその姿。天然のブラウンと思われる波打った髪は長く、そして柔らかそうだ。肌は白く、襟元からチラリと見える首筋が艶かしい。スカートから覗く足は黒のストッキングに覆われているが、細く華奢なのが大変に素敵だ。
「み、水科倫子です。よ、よろしくお願いします」
 正面を向いてペコリと頭を下げるその顔は、すっきりとして可愛らしい。やや垂れた目元と大きな丸い眼鏡が大人しそうな印象を与える。
 簡潔に言えば、おっとり系の美人だ。加えて言えば、俺にとって、ストライクど真ん中でもある。
 ボーっと見惚れる俺だが、悲しむべきは我が身の境遇。怪人に真っ当な恋愛は許されないのだ。許されない事も無いのかもしれないが、少なくとも秘密を抱えての恋愛は辛い。
「うっ、うー」
 思わず、水科嬢と付き合った挙句、悲恋に至った想像をしてしまい、涙する。何て可哀そうなんだ俺。
「えー、水科の席は、あそこで泣いてるトンチキの隣だ。うざかったら言え、変えてやる」
「あ、えっと。その、いえ……大丈夫です」
 担任の軽いジョークをジョークと見抜ける冷静さも素晴らしい。隣に座るや、俺の方を向いて困ったように軽く微笑む所など、大変に可愛らしいではないか。
 ビバ青春。ビバ高校生活。悲恋でもいいからアタックしてみようか。
 凄い勢いでニヤケそうになる顔を無理に押し留め、俺は隣人に最初の挨拶を交わした。
「よろしく、水科さん。何か困った事があったら言ってね。何でも力になるよ」
「ぁ……はい。有難う御座います」
 こうして水科倫子嬢は俺のクラスメイトとなった。読書を愛し、空いた時間には本を広げる彼女だが、性格の良さは正に折り紙つきで、男子連中の下らない冗談にも屈託なく笑い、女子同士の話の輪にも直ぐに溶け込んだ。隣人の務めとして初日に教科書を見せた俺には、お礼として手作りクッキーを渡す程だ。
 天使降臨。
 その優しげな微笑に魅せられた俺が、思わず怪人である事を忘れ、毎日の登校を楽しみにしてしまうのも無理はない。
 だが、そんな俺の浮かれっぷりも、そう長くは続かなかったのである――。


宵闇の散華譚 二夜目


「イーッ! ニャルボーン様。作戦準備完了です」
「よし。じゃあ、ちゃっちゃと始めよう。現金と金目の物の回収も忘れないように。後、怪我もしないように」
「イーッ!」
 水科嬢の転入から暫くが経ったある日の22時30分。
 俺は例によって戦闘員を引き連れて街に繰り出していた。本日の目標は某代議士の選挙事務所である。いわゆる二世議員で、地元での影響力が強い。が、その割に身のある活動もせず、献金ばかりを募っている。その上、先の国会中継で本会議中に居眠りしている所を全国に晒してしまい、大恥をかいた男だ。悪の組織的にこの業績を讃え、一つガニメデ辺りで休暇を楽しんでもらおうというのが今回の趣旨である。
 さる情報筋から件の代議士が東京のマンションを離れて地元の選挙事務所に寝泊りしている事を知った我々は、いつものように専用バスに揺られて、寝静まったオフィス街の一角まで来た。そこまでは良かった。
「イーッ! 見つけました、ニャルボーン様。目標の某代議士です」
「よし確保。予定通りに箱詰めお願い」
「イーッ! 了解。で、こっちの女はどうしますか?」
 女? 秘書か何かかと振り返ってみれば、それは如何にもな年恰好のお姉さんだった。茶髪にピアス、アイラインバッチリのメイク。派手な服に派手な装飾品の数々。いわゆるコンパニオンというやつだろう。俺を見てガクガクと恐怖に震えている所は確かに女らしいが、正直な所、学校で出会った天使とは比べようも無く、俺のロマン回路も動かない。
「えーと。皆で好きにしていいや」
「イーッ! あざーす」
 早速じゃんけんが始まるチームワークは、いつもながら素晴らしい。俺はそんな戦闘員さん達を横目で眺めながら、ツカツカと箱詰めされた代議士に歩み寄った。
「イーッ! 準備完了。いつでもいけます」
「おう、ご苦労さん。所で、君はじゃんけんに加わらなくて良いの?」
 一人箱詰め作業を行っていた24号はコンパニオンの順番争いに加わっていない。そんな彼は不敵に笑ってこう答えた。
「イーッ! 犯られるだけ犯られて疲れきった女を介抱して綺麗にしてあげてからするのが好きなんスよ」
「……そ、そう」
 意外に奥が深い男だ。
 気を取り直して、俺は代議士の入った鉄の箱を持ち上げた。そして多分ガニメデがあるであろう方向に狙いを定めて、投擲――。
「そこまでよッ!」
 しようとした所で邪魔が入った。
「貴方達の悪行、見過ごしてはおけない。大地と海の恵が満ちるこの星に、栄えるは正義と知りなさい!」
 例によって月明かりを浴びて、電柱の上に立った一人の少女が大見得を切った。
 逆光でシルエットになっているが、声と背丈からすれば、この間のアクアマリンよりは大分年上らしい。16か17くらいだろうか。
 まぁ、見得を切られた以上は乗ってあげなければなるまい。
「何者だ! この俺をダークネス・オーガストの怪人ニャルボーン様と知ってのセリフか!」
「私は光と水の代理人、正義の使者、魔法戦士ヴァイオレット・リン! 貴方の事なんて知らないし、知る必要も無い。何故なら貴方は、これから塵に帰るのだから」
 如何にもな名乗りと語り、そして名前通りのヴァイオレットのコスチューム。そして現実感に乏しい、派手なアクション。言うだけあって立派な魔法少女だ。
「というか、その歳で魔法少女は無いんじゃないのか?」
「ち、ちち違うわよ! 少女じゃなくて戦士! 魔法戦士!」
「そうなんだ。ゴメン」
「い、いいけど……」
 ヒュルリと生暖かい風が吹き、妙な沈黙が辺りを支配する。やがてどちらからとも無くゴホンと咳払いをして俺とヴァイオレット・リンは仕切りなおした。
「んと。こ、このヴァイオレット・ソードで切り裂いてあげるわ。覚悟しなさい」
「あ、あー……。おのれ猪口才な。返り討ちにしてくれる」
 右手を夜空に掲げるリン。そこに花びらが舞い、虚空から細身の剣が現れる。しっかとそれを握った彼女は、ジャンプ一番、電柱から飛び降りた。
 カウンターで触手を伸ばしてとっ捕まえればいいのだが、それでは味気ない。折角なので活劇も楽しもうと、俺は敢えて後ずさり、側にあった道路標識を圧し折って投げつける。
「ふっ! やーっ!」
 ほう、大した物だ。リンは高速で飛んできた標識を細身の剣で真っ二つに切って見せた。切り口は滑らかで、熱したナイフでバターを切るが如しだ。剣の材質もさることながら、彼女自身の体捌きが素晴らしいのだろう。
「むぅ、やるな。それではこれはどうだ」
 俺は片手を突き出し、指先から雷を放った。怪人ニャルボーン1024の必殺技の一つ、ライデインである。勇者でもないのにデイン系の呪文を使えるのが正に外道と言えよう。
「くっ、何て非常識な。えいっ! ローズ・ハリケーン!」
 咄嗟に雷を避けるリンだったが、完全とはいかず、左腕に軽い衝撃を浴びたようだ。しかし彼女の闘志は萎えず、またもジャンプして宙を舞うと、華麗にバラの花ビラを撒き散らした。その花の竜巻に巻き込まれた戦闘員が3人ほど吹っ飛ばされているというから、中々威力のある技なのだろう。大した物だ。で、あるなら、直撃を食らった俺も吹っ飛んであげなければ。別にダメージは無くとも、だ。
「ぬあーっ! やられたぁ。お、おのれー」
 棒読みのセリフとワザとらしい吹っ飛び方に、戦闘員24号が苦笑している。だがヴァイオレット・リンは信じたようだ。天然の迂闊なのか自分に自信があるのか。彼女は倒れた俺を見て、気を良くしたようだ。小さなガッツポーズが可愛らしい。
「怪人ニャルボーン! 貴方のあるべき場所に帰りなさい! 必殺、ヴァイオレット・エクスキューショナリー・アタック!」
 リンは細身の剣を両手に持ち替え、頭上に掲げた。すると剣は派手に赤く輝き、辺り一面を光の渦が照らし出す。これが彼女の必殺技らしい。察するにアレをこっちに向けて振ると、剣に集まったエネルギーが飛んでくるのだろう。
 と、思う間もなく、俺の胸に赤い光の奔流が当たる。かと言って核ミサイル以下の攻撃が効くはずも無いのだが。
「ぐわわーっ! やられたー」
「やった! 正義は勝つのよ!」
「なんちゃってー」
「えーっ!?」
 倒れた振りをした俺は、だがピョコンと立ち上がり、両手を挙げてワーイと走り回った。戦闘員24号が「あんた子供ですか」と言わんばかりに頭を抱えているのが印象的だ。
 さて、正義の味方をからかうのもこれくらいにしよう。ここからはお楽しみの時間だ。俺の、俺による、俺と組織の為の。
「さーて、ヴァイオレット・リンとやら。その顔をもう少し明るい所で拝ませてもらおうか。――ッ!? え……」
「イーッ! どうしたんです、ニャルボーン様」
「コイツは……。お、お前はーッ!」
 触手に手足を拘束された敵の顔を見て愕然となった俺の様子に、24号が不審がる。ワナワナと震えるのは俺の触手だ。知らずの内に力が籠もってしまい、リンの顔が苦痛に歪む。
 そう、変身のお陰か髪の色が変わっていた所為で気付かなかったが、魔法戦士ヴァイオレット・リンの、その顔、その身体つき、その声。
「そうか、そうか。その為に、お前はっ!」
 転校してきたのだ。この街の、あの学校に。水科倫子は――。
「おおおお、オオオオオオオーーーッ!」
 そんな巡り合わせが悲しくて、俺は夜空に向かって咆哮を上げた。だって、そんなの酷いだろう。最初から結ばれない二人だとは分かっていたが、それでも。彼女は転校以来、俺の天使で、幾度と無く微笑んでくれて、いつかサヨナラしても、幸せになって欲しいと、そう思っていたのに。まさか敵として俺の前に現れるなんて!
「おおおおおおおおおッ! うぉぉぉおおおおんっ」
「イーッ! ちょ、落ち着いて、落ち着いて下さい、ニャルボーン様!」
 バサッと翼を広げ、天に向かって高らかに咆える俺に、慌てて戦闘員達が駆け寄る。もし俺が我を忘れて本気で暴れだしたら、この街どころかアジア全域くらいは一晩で壊滅してしまうのだ。
「イーッ! ニャル様、ニャルボ」
「良し、落ち着いた」
「イーッ! 早いなオイ。マジでか」
「うん。悪い、ちょっと取り乱したね」
 まぁ、こうなってしまった物は仕方ないのだ。そして仕方ないとなれば直ぐに気持ちを切り替えられるのが怪人である。咆えるだけ咆えて気が治まった俺は、改めて魔法戦士ヴァイオレット・リンこと水科倫子嬢に向き直った。
「いやいやいや。ごめんなー、ちょっとした青春の暴走ってヤツさ」
「な、何? 一体何なの? やだ、助けてぇ」
 そうだ。俺は怪人。怪人なら怪人らしく、悪事を通じて彼女と接すればいいのだ。先ずは怪人らしく、善良な彼女をたっぷり楽しませてもらおう。
 すっかり脅えきったリンを触手で持ち直し、大の字に手足を広げさせて宙吊りにする。短いスカートがヒラヒラ揺れて、大変に扇情的な光景だ。戦闘員達も、コンパニオンさんと小洒落たトークを楽しんでいる者以外は俺とリンの周りに陣取っている。
「ヒッ! や、やぁぁ……気持ち悪いっ。うっく、ぐす」
 背中から伸ばした無数の触手が細かい蠕動をしつつ、ゆっくりと吊るされたリンの手足を這う。例によって半数は舌、半数は手の感覚を備えており、つまり俺は、自分の手と舌で彼女を味わっているのだ。
「むぅ。このしっとりとした肌。華奢なのにモチっとした感触が素晴らしい」
 僅かに浮いた汗が雌の香りを微かに含み、俺の魂を根底から揺さぶる。最早人ではない俺だが、やはり魂レベルでは今尚、ヒューマンの雄なのである。
 細い手足を伝い、いよいよ服の中へ侵入を開始する触手の群れ。その内一本はリンの首筋を執拗に舐め上げ、もう一本は唇から口腔に入る。どちらも俺の舌だ。何と素晴らしい我がボディ。良くぞ怪人になった物だ。邪神様に感謝を。
 余談だが、我が家の神棚には手の平まで黒く塗って、顔を削り落とした観音像を祭ってある。
「んぐッ! んやぁ……口の、んぐ――中にっ! んっ、ぁああ」
 口腔に入った触手は、先端をまんま舌に変化させ、彼女の温かい舌と絡み合う。それだけでなく、細く枝分かれした舌が2本、左右に分かれて頬の内側やらツルツルした健康的な歯やらを余す所無く舐めて回っている。
 それにしてもリンの唾液の甘い事、甘い事。これを甘露と言わずしてどうしよう、というくらいだ。こんな物が始終口の中に溢れているというのだから女の子はズルイ。
「おやおやおや、ヴァイオレットの。これはどうした事かな?」
「んぁ、あっ! ややや、止めて……ぁ、あっ」
 服の中に潜った触手の一本が、柔らかな膨らみの先端に硬い肉の芽を見つけ出した。あろう事か、この状況で乳首が充血しているのだ。
「んぁ、あっ……ダメ、ダメ。そんな所触ったら、あっ! ん」
 彼女の体をまさぐる触手を2本、先を細くして形を変える。一つは指、一つは舌だ。その2本で硬く盛り上がった乳首をいじり倒し、舐め上げる。これがかなり効くらしく、リンの声色が徐々に甘みを帯びてきた。
「魔法少女と威張ってみても、やっぱり女だのう。うん? ここか、ここがええのんか?」
「イーッ! ニャルボーン様。あんたどこのオッサンですか」
「いや、こんな時は、こう言うもんでしょ?」
「イーッ! 語彙が少なすぎです。今度エロ小説とか貸しますから。勉強しましょう」
「うん。ありがと」
 などなど、24号とバカ話をしている間も触手の責めは止まらない。口の中を掻き混ぜ、首筋からうなじを舐め上げ、豊かな乳房に巻きつき、乳首を弄っている。下半身は敢えて局部を避け、腹から尻、そして太ももに無数の触手が張り付いて細かく動いている。多くの触手は謎の液体を分泌している為に、彼女の体はスライムのシャワーでも浴びたようにベタベタだ。
「んっ、やぁぁ……気持ち悪い――っく。んっ、ぁあ」
 言葉とは裏腹に、リンの声はいよいよ甘くなってきた。全身を刺激されて感じ始めているのだ。表情こそ苦しそうだが、目は熱を帯び、頬は赤く染まっている。強張る四肢も、時折スッと力が抜けてしまう。その度に力を込め直しているようだが、完全に弛緩するのは時間の問題だろう。
「何で、私……何で、こんな。んっ、体……熱く、や――あっ、ん」
 何でか、と問われれば、実は答がある。触手が吐き出している謎の液体の所為だ。実は俺の唾液と催淫剤の混合液なのである。粘度を多少高めてあるが。経口投与が基本の俺の催淫剤だが、体中に塗りたくられれば流石にそれなりの効果もある。一気にとはいかないが、徐々に彼女の体が反応しだしているのはこういうカラクリだ。他に強いて理由を挙げるなら、それは本人の素質かもしれない。
「ふむ、大分良くなって来たようだな。魔法少女リン」
「違っ、こんなの。私……あっ、ぁ。それと、んっ――魔法、戦士」
 高校生として魔法少女がアウトなのは自分でも分かっているらしい。気力を振り絞って訂正を求める根性は見上げた物だ。が、それが仇になったのか、リンの抵抗が急速に弱まってくる。瞳もドロンと曇り、焦点は虚空を彷徨っているようだ。
 と、突然――彼女の体が輝きだした。
「お? お、おおー。仕組みは分からんが、そういう事か」
 光が治まったと同時に、リンはヴァイオレットで無くなった。赤い髪はブラウンに、派手なコスチュームは地味な洋服に、地面に落ちた剣は溶けるように消えた。
 気力を失って変身が解けたのだ。
 アクアマリンとは変身のメカニズムが違うらしいが、詳しい事は良く分からない。正義の味方業界も、色々なのだろう。
「うーむ。嬉しいような、ほろ苦いような……ま、いいか。それより」
 すっかり変身が解けて水科倫子に戻ったリン。かと言って容赦は無い。進むと決めた以上、俺は進むのだ。ただ、何となく気を使ってしまうのは青少年だけに許して欲しい。
 俺は、水科の私服を破らないように触手を使って丁寧に脱がせた。
「イーッ! あれ、破らないんスか?」
「あああああ、あれだ。前回、破っちゃって困ったし」
 相変わらず24号の突っ込みが的確で憎い。
「い、いやぁ……。助けて、助けてぇ」
 靴下まで脱がされて下着姿になった水科の哀願は酷く弱々しい。魔法少女状態とは精神的にも変化があるようだ。こうなってしまうと、ただの気の弱い女子高生である。えぐえぐとしゃくり上げる彼女は、先日の小学生、アクアより芯が弱いらしい。
「ふっふっふ。可愛いのう。大人しく受け入れれば優しくしてやるからな」
 そんなセリフに頷いてしまうほどだ。
 気を良くした俺は、触手でソロリソロリとブラジャーを取り、愛撫を再開した。乳房を中心に、ヌルヌルになった倫子の身体を嘗め回す。同時に、いよいよパンツの中にも侵入を開始、柔らかい恥毛を掻き分けて涎を溢す割れ目に辿り着く。
「あっ……ぁ、あっ! そ、そこは――やぁ、そこは、ダメぇ」
 鼻に掛かるトロンとした声に、見守る戦闘員達も思わず前かがみだ。いつの間にか沸いて出ていた撮影班が集音マイクを伸ばしているのがGJ過ぎる。倫子は特に声が良い事を早い段階で察していたらしい。何という才能の有効活用。
「うん? ここかな、こっちかな?」
 パンツの中に伸ばした触手を枝分かれさせ、一方は秘裂に潜り、もう一方で陰核をつついて刺激する。トロトロとした愛液が次第に量を増し、暫く愛撫を続けたらびっしょりになってしまった。体質的に多い人なのかもしれない。地面に落ちて水溜りが出来たくらいだ。
「んっ、んあっ! ……んああっ、いいっ! いいのっ。あ、あああっ」
 弱点の乳首を左右一片に舐め上げると、彼女は更にヒートアップ。我を忘れて性の快感に身悶えしている。最早キリリとした魔法少女の面影は何処にも無い。個人的にも、一目惚れの相手が自分の愛撫で気持ち良くなってくれているのは大変に気分が良い。悪人冥利に尽きるなあ。
「さて、そろそろ。最後の工程といきますか」
 中空で大の字になっている倫子の足を閉じさせ、濡れたパンツをスルスルと脱がせる。大人しい彼女にはぴったりの清楚な白。放り捨てようとして思い留まり、俺の体内に収納した。今日という日の記念である。
 そして今度は閉じた足を再び開かせ、拘束の位置を膝に変える。見事なM字開脚に、戦闘員達の視線も釘付けだ。
「うんうん、初々しいなあ」
 大きく足が開いて、零れるように花弁が顔を覗かせる。綺麗なピンクは彼女の純潔を伺わせた。真っ白な太ももとのコントラストも美しく、撮影班が急いで正面に回ってデジカメを構えた。某大型家電量販店を襲撃した時に強奪した最高級品だ。
「イーッ! これは良い作品が期待できますね」
「うむ。タイトルは『夜に咲く一輪のバラ』だな」
 写真が出来たらパネルにしてアジトに飾ろう。みんな喜ぶぞ。
 眩いフラッシュと小気味良いシャッター音が一段落した所で、俺は倫子の花弁に細い触手を這わせた。口の中を蹂躙したのと同じ、極細舌べろタイプだ。最初は一本でチロチロと。だが徐々に本数を増やしていく。大小の陰唇から膣口、尿道周り、そしてクリトリスを、一斉に細い舌で嘗め回される刺激は堪らない物があるだろう。加えて乳首を始めとした上半身の性感帯も余さず刺激しているのだ。
「んあーッ! あっ、あっ、あっ! い、いぃっ……ふぁああんっ」
 倫子の理性は完全に崩壊。髪を振り乱して首を振り、ひたすら甘い絶叫を夜のオフィス街に響かせている。
「では、止めといこうか」
 自慢のチンコ触手を股間から伸ばした俺は、無数の舌べろ触手に道を空けさせ、彼女の膣口に狙いを定めた。因みに今回はノーマルサイズだ。散々弄られた倫子の女性器は完全に出来上がっており、もう焦らすまでも無い。良い感じに力も抜けているし、これなら挿入にも不備はあるまい。
「ひ、ぐっ! あ、あああっ……入って、入ってくるぅぅぅ! わ、私の中に何か、あっ――あ、ぐっ!」
「むむぅ。それでも結構キツイな。しかも熱い」
 ギリギリと締め付けてくる秘肉を掻き分け、ペニスが奥へ奥へと埋まっていく。入り口付近の抵抗は強い物があったが、一度入ってしまえばどうという事は無い。大量に分泌された愛液が、スムーズな抽送を手伝ってくれる。それでもやはり初めてペニスを受け入れる膣だ。こなれていない感じは否めない。まぁ、その初々しさこそが喜ばしいのだが。
「はぁんっ、あんっ。んっ、んっ! あ、ああぁうぅぅ……」
「そろそろかな。――って、あれえ? リン、リンさん?」
 倫子の様子はどうかと思った所で、どうも絶頂まで達してしまったらしい。序盤から擦り込んだ催淫剤の効果もあってか、達しやすくなっていたようだ。膣壁がヒクヒクと淫らに蠢いて精子を要求している。
「迂闊! ま、いいけど」
 こちとら悪人である。女性が達したからといって止めてあげようなどという温い人間性は持ち合わせていない。
 収縮する膣内部を擦り上げるようにペニスをスライドさせる。達したばかりで敏感になっている倫子は、この刺激が気持ち良さを通り越してしまっているようだ。悲鳴すら上げられず、背中を反らして喘いでいる。
「そろそろいいか。これ以上は水科にも酷だろうし」
 俺は暫く彼女の中を楽しんだ後、射精準備に入った。チンコ触手の先端を細く伸ばし、子宮の入り口を探す。首尾よく見つかった所で、スパゲッティ程の細さになった触手が侵入を開始。子宮頸部を通り、子宮内部に到達した所でストップ。だがこのままでは細すぎるので、伸ばした触手を鉛筆くらいにまで太くした。これで準備完了。
「ひぃっ! い、いやああ! 何かが……中に、私の中にっ!」
「落ち着け、リンよ。決してお前を傷つけたりはしない。大人しく力を抜くんだ」
「うっ、ぐす。本当?」
「うん。ホントホント」
 膣は兎も角、本来異物を受け入れる筈の無い子宮に触手が伸びた事で、流石に危機感を感じたらしい。倫子は己を取り戻して暴れだした。が、手の平触手でポンポンと頭を撫でると子供のように頷いて大人しくなる。何やら幼児退行の傾向があるようだ。人の精神は本当に奥が深く、面白い。
 すんすん、と鼻を啜る彼女は「じゃあ、どうするの?」と言いたげに、上目遣いで俺を見ている。となればこの際だ。疑問を解消してあげよう。
「ちょっと子宮の中で精子出すだけ」
「そうなんだ。……だ、だめぇぇぇっ!」
 と、そんな遣り取りの後、倫子の絶叫を聞きながら俺は射精した。彼女の胎内に、たっぷりと。具体的に言えばコップ一杯半くらい。日本人の平均的射精量が3ccだとすれば、およそ100倍。まぁ、赤ん坊が育つ場所だけに潜在的キャパシティはもっと高かろうが、それでも良く受け止めたものだ。
 気持ち良く一仕事終えたペニスを引き抜く。その際、結構な量の精液が零れてしまうのは勿体無かった。今度は栓とか試してみよう。
「はふっ、はっ……もう、許して」
 吊り下げられたままの倫子がポロポロと涙を溢しながら呟いている。こちらとしても一応の満足を見たので、これ以上は蛇足だ。
 俺は傍らに控えた戦闘員24号からタオルを受け取って、丁寧に彼女の身体を拭った。タオルは前回の轍を踏まえた用意である。保温バッグに入っていた蒸しタオルと、乾いたバスタオルの両方を用意してある芸の細かさが24号の素敵な所だ。
 一通り綺麗にした所で服を着せる。ただしパンツだけはなくした振りをして返さなかったが。
「イーッ! やけに優しくないですか?」
「そそそ、そんな事無いですよ? ホラ、沢山虐めたし」
「イーッ! 顔、ニヤケまくりですよ」
「ええ? 目も鼻も無いのっぺら坊フェイスなんスけど!」
「イーッ! 最近、分かるようになって来ました」
 24号は怖ろしい男だ。もし女に生まれていれば良い嫁さんになれただろう。
「イーッ! 勘弁してください」
 などと俺達が遊んでいる間にも撤収準備が済んだようだ。撮影機材はバスに運び込まれ、金目の物の取り忘れが無いか確認も済んでいるとの事。失神して意識のないコンパニオンも、既にロープでグルグル巻きになってバスに運び込まれている。後で意識が戻ったら皆で楽しむのだろう。
「じゃあ、後はこれだけか。よっと」
 最後に、放ってあった鉄の箱(代議士入り)をガニメデに向かって放り投げ、今回のミッションは無事終了だ。
 地面に下ろされ、うずくまってえぐえぐと泣いている倫子を残し、俺達は颯爽と帰路についた。
 倫子が妙な連中に捕まったりしなければいいのだが。正直、我々以上に妙な連中もいないだろうけど。

   /

 さて。こうして俺と魔法少女ヴァイオレット・リンの邂逅は終わりを告げた。
 アジトに戻った我々は今日もまた互いの健闘を讃え合い、それで本日の勤務終了。お楽しみの連中を残し、俺は先に帰宅した。
 が、個人的に問題なのは、むしろ翌日である。何しろ、リンこと水科倫子はクラスメイトなのだ。彼女の今後の動向は気になるところ。
 その待望の翌日。
 果たして彼女は学校にやってきた。だが、一晩中泣き明かしたのだろう。化粧で一応は誤魔化しているようだが、可愛らしく垂れ下がっていた目元は腫れ上がって痛々しくすらある。ふにふにと柔らかそうだった頬もげっそりとこけ、酷い消耗具合だ。恐らく化粧の下は土気色なのだろう。いやはや、可哀想に。
「水科さん、大丈夫? 調子悪そうだけど」
「ぁ……っ! ご、ごめんなさい。大丈夫です。ちょっと、寝不足で」
 ちょこっと肩に触れただけでビクリと彼女は震えた。相当なトラウマになっているようだ。無理も無いが。しかし気丈にも隣の席の男子生徒、つまり俺に微笑んで見せる辺りは流石である。
 まさか目の前の男が内心で、妊娠してたら面白いなぁ、などとワクワクしているとは夢にも思っていまい。
 そんな感じで授業が始まったのだが、始終俯いて唇を噛んでいる彼女の様子に、ついに豪を煮やした担任が保健室に行く事を命じた。
「こらー、隣の男。ボーっとしてないで付き添ってやれ」
「うぃス。水科さん、立てるか?」
 隣の男とは勿論俺の事だ。学校では大人しいベビーフェイスを通しているので、妙な信頼があるらしい。迂闊な教師だ。そして、それ以上に迂闊なのが――。
「御免なさい、迷惑かけて。……ありがとう」
 などと言いつつ、自分を陵辱した張本人に礼まで言って肩を借りてしまう魔法少女なのだが。
 各教室からの授業の声をBGMに、俺は水科嬢に肩を貸して廊下を歩いた。彼女は最初こそ肩に手を掛けていただけなのだが、徐々に俺の腕にしがみ付くような姿勢になる。誰かに頼りたいという気持ちが抑えきれないのだろう。お陰で腕に豊かな胸が当たっているが、それを指摘したりはしない。何故なら気持ち良いからだ。
「頑張って、水科さん。もう少しだから」
「……うん」
 おお、可愛い可愛い。やはり彼女は切羽詰ると精神年齢が退行するようだ。最終的に保健室に着いた時には、俺の腕をキュッと抱き締めていた。
「って、あちゃー。先生がいないな。まぁ、仕方ないか。ホラ、水科さん。ベッドに横になるといいよ。先生いないから薬は出せないけど」
「うん……うんっ」
 勤めて優しく彼女の肩を抱き、窓際のベッドに横たえる。更に一押しとして、子供をあやすように頭を撫でると、水科嬢はついに堰を切ったように泣き出した。俺の胸板にすがり付いて、だ。
「うわあああっ。私、私……頑張ってるのに、何で、何でこんな事――。う、うう。うええええぇ」
「よしよし、水科さんは頑張ってるんだな」
「うっ、ぐす。うん……私、私はっ――」
 言ってしまいたいのだろう。魔法少女である事を、全部吐き出して「もう嫌だ」と叫びたいのだろう。それでも彼女の中の責任感がそれを許さない。絶望的な内心の叫び声が痛いほど良く伝わる。
 だから俺は、そんな彼女の頭を抱き締め、撫で擦りながらこう囁いた。
「大丈夫。頑張っている人は、いつか必ず報われるよ」
 何故なら、本当に絶望されてしまうと俺が楽しくないからだ。
 水科倫子は、そんな俺のセリフに僅かでも希望を見出してくれたらしく、俺に撫でられながら安心したように眠ってしまった。
「ふっふっふ。これからも頑張れよう、魔法少女リン」
 俺は暫くの間、彼女の寝顔を楽しんだ後、ちょっとだけ胸を揉んでから保健室を出た。
 首尾は上々。アフターケアもバッチリだ。
 彼女はこれからも俺に様々な楽しみを提供してくれるだろう。

 教室に戻る途中、フッと振り返る。
「戦士、だっけ?」

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 余談だが。
 水科嬢の開脚写真はパネルに引き伸ばされ、今現在、アジトの廊下に飾られている。
 ポスターにして欲しいという声も多いとか。



 ――了。

モ ドル