トタン馬鹿

 10月も半ばを過ぎると、めっきり秋らしくなった。
 秋といえば、スポーツの秋であり、食欲の秋であり、何より芸術の秋である。そんな訳で、俺は愛用のクロッキー帳を小脇に抱え、のんびりと学校への道を歩いていた。
 時刻は昼過ぎ、普通なら級友と昼食後の雑談でも交わしている頃だが、今日は異なっていた。試験明けの休日、なのである。故に家でのんびりしていても誰も文句は言わないのだが、それでも制服を着て学校に向かうのは、ひとえに秋だからだ。

「流石に人気は少ないな。ま、休みだし」
 校門を抜けて昇降口に向かい、靴を履き替えて部室へ。俺は美術部所属であるからして目指すのは当然ながら美術室だ。俗に旧校舎と呼ばれる老朽化した建物の1階奥。普段から人の寄り付かない場所で、隣の第二理科室と併せて肝試し際には重要チェックポイントともなる。まあ、美術部員に限っては自分達の根城なのだが。
「って、誰かいるのか?」
 今日は1人静かにデッサンの練習でもしようと思っていたのだが、肝心の美術室からは、何故だか人の声が聞こえてくる。それも女の、しかも助けを求める叫びだ。
 人気の無い校舎の片隅で、まさか。まさか――!
「まさか、とは思ったが。やっぱりお前か、桜井」
「あ、先輩っ! サクライが大変です。助けて下さいっス!」
 駆け寄ってドアをガラリと開けると、中には一匹の珍妙な生物が床に転がってもがいていた。見た目からして人間ではあるまいが、その顔には見覚えがあった。美術部の後輩、桜井智子である。
「いや先輩! サクライは人間っス。れっきとした人間ですってば」
 自称人間でサクライを名乗る生物が俺のモノローグに盛んに抗議しているようだが、やはりどうみても珍獣である。恐らくはヤドカリの一種だろうか。
「ヤドカリ違う! 自分でもそう思いましたけどヤドカリ違いまス!」
「はぁ。まあ、何でも良いけどな。ちゃんと後片付けしておけよ」
「ちょ……先輩ーっ! 帰らないで、帰らないでーっ!」
「はああぁぁ……」
 さて、深い溜息を吐いた所で状況を説明しよう。
 一応人間の桜井智子は、どういう経緯でそうなったのか、体を折り畳んで金属の筒にすっぽりと嵌って転がっていた。筒はトタンかブリキか、薄い鉄板を丸めた物で、長さは40センチ弱、直径は30センチもないくらい。一方の端から桜井の肩から上と両足の先が出ており、もう一方からは小振りの尻がにゅっと出ている状態だ。制服姿のようだが、スカートが筒の中で引っかかっているのか、尻の方はパンツが丸出しだ。これを写真にでも撮れば、一生強請れそうな光景ではある。まあコイツはこの程度では恥にも思わないだろうが。
「いやいやいや、めっさ恥かしいっス! うわーん、先輩にパンツ見られたー」
 ゴロゴロと器用に床を転がって身悶えしている桜井。コイツを一言で表せ、と聞かれたら十人中十人が「バカ」と答えるだろう。そういう女生徒だ。
 元気が有り余っているのか、彼女は普段から珍妙な行動が多い。と言うか、思い付きを即行動に移そうとするのだ。後先を全く考えずに。結果、大事になってしまう場合もママあり、新聞に載ってしまった事が2回ある。街中で突然ビル登りを始めて降りられなくなった時と、トラックの荷台に捕まって高速に入ってしまった時だ。それぞれ、消防と警察が出動して大騒ぎになった。その他、桜井が後先考えずに行動して進退窮まった事例は枚挙に暇が無い。
 で、今日もまたバカを始めて二進も三進も行かなくなったワケだ。
 ベソかいて喚いている彼女を他所に、椅子の一つに腰を下ろした俺は、改めて深い溜息をついた。
「で、今日は何だって缶に嵌ってるんだ?」
「ええとですね。昨日の晩にインターネットで中国雑技団の動画を見たんですよ。それでですね、ちっさい女の子が筒を潜ってまして」
「で、今日学校に遊びに来たら手ごろな筒を見つけて、思わず挑戦してみた、と」
「そーなんです!」
「アホの子め」
「うわーん! 出来ると思ったんですよぅ」
 普通は思わない。だがそれを思ってしまって、かつ実行してしまうのが桜井智子という女の子である。
 ちなみに、コイツの珍妙なセンスが美術方面に炸裂すると面白い作品が出来上がる事がある。その天然バカにしか為し得ない作品はプロの審査員を唸らせるほどで、春の展覧会では彼女の作った塑像が審査員特別賞を受賞した。で、桜井の意外な才能に内心で驚愕した俺は、一時期、彼女に美術の基本を叩き込もうとマンツーマンで基礎を教えていた事がある。結局の所、何一つ物にならず、バカが俺に懐いただけという有様だったが。
「あのー、先輩? 助けてくれると嬉しいなー、なんてサクライは思うんですが」
「分かった分かった。仕方ない」
 とは言った物の、どうすればこの筒は外れるんだろうか。当初のコイツの予定通り、肩と頭を押し込んで潜らせるのはどうだろう。
「ギャー! 先輩、痛い。痛いっス! か、肩、肩外れそう!」
 そう思って押し込んでみたが無理だった。肩だけなら通りそうな物だが、両足も一緒に潜らせるには如何せん幅が足りていない。となると逆に、腕を掴んで引っ張り出す方向で責めてみるか。
「ちょ、ちょ、待っ! 腰が、腰が砕けるっス。お、お尻が引っかかって」
 引っ張るのは無理だった。であればアレだ。引いてダメなら押してみろ、だ。桜井入りの筒を脇に抱え、片手で尻を押し込んでいくしかない。
「あ、あの、先輩! わわわ、私のお尻、触ってます! ささ、触りまくってますよね!?」
「ええい! うっさいぞ桜井。ちょっと黙ってろ」
「うわー。何かスッゴイ台詞言われてる気が。あ、でも先輩なら……。って、あの! つ強すぎっス。出来ればもう少し、ソフトなタッチで」
「それで抜ければ苦労無いだろう! アホの子め」
「ちょ――ッ! い、嫌ぁ。叩かないで、お尻叩かないでーっ!」
 パンツ丸出しの尻をパチンパチンと平手で打つのは、まあ照れ隠しの所為だ。バカではあるが桜井もこれで高校1年生の女の子である。生尻まで薄い布一枚を挟んだだけという姿には、俺の男心も疼くという物。あまつさえ、それを手で触れるとなれば――。
 いやいやいや。落ち着け、俺。相手は桜井だ。何か新種の生き物だ。
 そう心に念じて、一旦彼女を床に転がす。そうそう、コイツを扱うには多少ぞんざいなくらいで丁度良い。
「うむ! 無理だな」
「見捨てないで下さいよぅ」
「そう言ってもなぁ。大人しく119に連絡して助けを呼んだほうが」
「ダダだ、ダメっスよ! 今度大事になったら、サクライはママンから1ヶ月夕御飯抜きの刑にーっ!」
 押してもダメ、引いてもダメというなら他にどんな方法があると言うのか。うーむと頭を捻っても出てくるのは溜息ばかりである。
「う……。あ、あの――先輩」
 美術部員らしく考える人のポーズで彼女の救出方を思い悩む俺に、当のバカ本人はさっきとは打って変わって小声で、だが困った事を言い出した。
「あの、た、大変な事が……」
「何だ? 筒の中で骨でも折れたか? それなら問答無用で救急車を呼ぶが」
「い、いえ。サクライこう見えて体は丈夫なんで、怪我は無いんですが。そのですね……割とこう、緊急事態が迫っておりまして」
「うん。だから何さ」
「えっと、ですね。その……お、お手洗いに。行きたいかなー、なんて」
「お手洗い――だと?」
 俺が沈痛な面持ちで頭を抱えたのは言うまでも無い。筒に嵌ったままで、どう用を足すというのか。とは言え、こればっかりは生理現象なので文句も付けられない。
「あの、せせせ、先輩。サクライ、実はかなり緊急事態でカウントダウンが、がが」
「分かった。ちょっと待ってろ、誰か女の先生を探してくるから」
 仕方なくそう言って腰を上げたのだが、彼女に足首を掴まれて俺は立ち止まった。一体何が問題なのかと思ったが、どうもその猶予すらないらしい。顔を真っ赤にしてゴロゴロと右に左に転がっている。
「む、無理っスーっ! 実はサクライ、先輩が来る前から耐えてたっスー! でも先輩が来てくれて助かったーと思ったら、意外に頼りにならなくて、女の子1人助けられないのか、この態度ばっかりデカイ先輩はーなんて、ちょっとだけ思ったり何かして」
「じゃあな桜井。俺、帰るから。戸締りよろしく」
「わーっ! 嘘っス、サクライってば先輩の事、凄く頼りになると思ってるっス。だから帰らないでーッ! ていうかもう限界っス! ホホホ、ホントのホントに危険領域突入っス! お願い、トイレに連れてってプリーズ!」
「ええい、仕方の無い!」
 実は余裕あるんじゃ無いかとも思ったが、どうも本当に限界のようだ。長台詞の合間合間に本気の顔で歯を食いしばっている。流石に放っておいて漏らさせるのも哀れだし、美術部室を汚されては俺も困る。取り敢えずは何を置いてもトイレまで彼女を運ぶべきだ。そう判断した俺は、缶入り桜井を小脇に抱えて美術室を飛び出した。
「って、ここ男子トイレじゃないですかーッ! サクライこれで花も恥らう乙女なんで、出来れば女子トイレが良かったなー、なんて思うわけですけど、うわあ、男子トイレってこうなってるんですね、また一つ要らない知識が増えてしまって、あああ、せせせ、先輩ーッ! 呆れないでッ!」
 一瞬、捨てて帰ろうかと真剣に思った。が、これもアホな後輩を持ってしまった先輩の定めだ。思い直して、大きい方用の個室に入り、洋式トイレの便座を上げて、そして迷った。どうすりゃいいんだ、これから?
「う、ううううう! せせせ先輩ぃ、サクライ限界っス。も、もう出るっス!」
「おい。いや、むう。仕方ない。これは自業自得だからな」
「えッ! あ、ちょ。せ、先輩、アンタ何ばしよっとデスかあああ、……あふー」
 肝心の桜井はトタンの筒に収まっているわけで。ただ尻と腰は前述の通りパンツ丸出しなわけで。ただ、問題は本人の手がパンツに届かないという所にあるわけで。
 俺はあくまで緊急時の措置として、彼女のパンツの股間部分を横にずらして性器を露出させた。これには彼女もギョッとしたようだが、尿意の決壊が先んじたらしい。チョロチョロと黄色い液体がほとばしり、その排泄感に桜井は思わず頬を緩めた。
「あのー、先輩。これって何だか道を踏み外したカップルのアレなプレイみたいで」
「バカ言ってないで、さっさと済ませなさい」
「うぃーッス」
 何かを超越してしまったような顔で、またバカがバカを言う。さて、困ったのは俺だ。前にも言ったが、バカはバカなりに女の子なわけで、その大事な部分が目に見える状態にあるというのは、ちょっとした興奮体験である。加えて言えば、パンツをずらし続ける為に、かなり割れ目から近い位置に指があるワケで。
「あのー、先輩。もしかしてジッと見つめてたりしませんか?」
「うっさいわ、ボケ」
「うわああん! サクライ、おしっこしてる所、先輩に見られてるーッ! 見つめられちゃってるーッ!」
「まあ、この際だし」
「ひ、開き直ったーっ!? ちょ、あの、先輩っ! 先輩ってばーっ! う、うう……」
「あ、ああ。分かった。悪かったよ。見ないから、もう見ないから」
 この期に及んでのバカ発言に、俺も思わず乗ってしまったが、アレはアレで彼女なりの照れ隠しだったようだ。普通に涙ぐんでいる。これは俺が悪いだろう。反省して横を向いた。が、それで終わりとはいかない物で。
「あの、先輩。お、終わったので、その……。拭いて欲しかとでス」
「おう。って、俺がか?」
「はぁ、サクライ手が届かないっス」
「むうぅぅ。い、いいけどよ」
「あ、でも。喜んじゃダメっスよ」
「黙れ、珍妙な生物め」
 便座を下げて、そこに缶入り桜井を下ろし、トイレットペーパーを巻き取って切り取る。紙越しではあるが女の子の秘裂に触れるわけで、割と緊張の一瞬だ。そんな内心の動揺を悟られぬよう、勤めて冷静に手を伸ばし、そして拭いた。
「こんなモンか?」
「そんなモンっス」
 事が事だけに彼女も言葉少なげだ。と思ったら当の桜井は、何だか悟りを開いた坊さんのような顔をしていた。何も考えないようにしているのだろう。意外に賢いやつだ。
 ずらしたパンツを戻し、拭いた紙を捨てる。紙に染み込んだ液体の感触が指先に残るが、彼女に習って考えないようにしよう。それがいい。
「じゃ、戻るか」
「うぃーっス」
 トイレを出て、一度廊下に桜井を転がし、戻って手を洗って拾い直す。酷いと喚いた彼女に拳骨を食らわしながら、俺は美術室へ戻った。
 さて、振り出しに戻ったのだが、果たしてこの生き物を、どうやったら人間に戻せるのか。差し迫った危機を脱した当人は今の状態に適応しだしたようで、変に楽しげに部室内をうろつき回っている。
「器用なものだな、おい」
「てへへー。実はサクライ、楽しくなってまいりました。ヤードーカリー、ヤードカリー、私は愉快なヤードカリさーん」
 筒の一方から出た両手両足の先をかさかさと動かし、俺の周りを歌いながら行進する桜井。バカだバカだとは分かっていたが、ここまでとは。
 ただ、実の所、バカなのは俺も同じである。先ほどトイレで見た彼女の秘所と、拭いた時に触った感覚が頭にちらついて消えないのだ。その上、さっきから目の前でパンツ一枚に覆われただけの尻がユラユラと揺れているのである。
「うー、むむむむむ」
 マズイマズイとは思いながら、目は尻を追ってしまう。桜井はこれで黙って大人しくしている分には意外に可愛らしい女の子である。顔立ちも愛嬌があるし、よく動き回るだけに無駄な肉も無い。で、その割には肌も白くて滑らかだ。まあ、今は珍妙なヤドカリ行進を楽しんでいるわけだが。
 困った事に、意識しだすと余計にバカが可愛く見えてきた。ああ、いかん。あの尻に触りたくなってきた。今度はこう、撫でる感じで。
 うむ。よし、救出を名目に触っちゃろう。
「というわけで、ていっ!」
「ひゃあ。って、先輩、何スか? 今サクライ良い所なんですけど」
「何がどう良い所なんだ。いい加減にヤドカリ踊り止め。人間に戻れ、手伝ってやるから」
「うぃーっス」
 目の前を暢気に四足歩行していた桜井を捕まえ、俺は座ったまま彼女を膝に乗せた。そして左手でトタンの筒を押さえ、右手で尻を押す。最初は敢えて全力でグイグイと。
「い、痛いっス! 先輩、ササ、サクライの腰が、腰がーッ!」
「ええい、惰弱な。と言うか、どっか引っかかってるのかな」
「はぁ、あの。押して頂けるのは有り難いんデスが、角度がちょこっと違うんではないかとサクライは推測します」
「こうか?」
「いやン」
「それとも、この方向か?」
「あふン」
「変な声出してないで、ちゃんと答えなさい」
 とは言うものの、俺としては望ましい展開ではある。押し込むべき角度を推し量るという理由をつけて、後輩の尻を触りまくれるのであるからして。少しずつ手の平の位置を変えながら、俺は彼女の小振りながらも弾力のある尻を撫で回した。
「はうッ。あの、もうちょい下でして、あ、そこ。そこっス。そこから真っ直ぐ横に押し出して頂ければ」
「分かった。……こう、かッ!」
「いい、痛ったー! ち、ちょ、待った、待ってプリーズ!」
 名残惜しくはあるが、いつまでも触っていると俺の内心がバレる。まあ十分堪能できたのでいいかと思い、桜井の言う通りの場所を強く押し込むが、例によって本人からストップがかかった。今度は何かと思ったら、どうも太ももの肉が引っかかっているらしい。
「えっとですね。サクライの適度に発達したモモ肉を、ちょっと筒の中に押し込んで欲しかとデスよ。そのままだと痛いので」
 なるほど確かに、背中側を上にしていたので分からなかったが、太ももの裏、足から尻にかけての辺りが筒の縁に引っ掛かっていたようだ。生意気にも白い肌に、痛々しく赤い筋が出来ている。つまりこの辺の肉を先に筒の中へ入れればいいわけだ。
 缶入り桜井を半回転させて問題の部位を確かめたわけだが、よくよく見ると、いわゆる女の子の一番大事な場所のすぐ横である。つまり彼女は足をグッと折り畳んで筒に収納されているわけで、位置的に太もも付け根の裏がそこに来てしまうのである。
「あの、せせ、先輩。もしやサクライのシークレットプレイスを観察とかしちゃってませんか? いや、その辺りがつっかえてるのはサクライも承知なんですが」
「とめどなく気のせいだ。今からお前のブヨブヨの太ももどうにかするから黙っとけ」
「ブヨブヨは酷いっスー。せめてプニプニくらいに……あ、んっ」
 さて、ミッションを開始すべく俺は彼女の裏モモに手を伸ばし、先ず指先でギュッと押さえつけてからスライドさせるように筒の中に押し込んでみた。が、本人曰くプニプニの太ももは変に弾力があって、押し込んでもまた元に戻ってしまう。で、何度か同じ事を繰り返して見るわけだが、場所が場所だけに、アレだ。すぐ横のアレを手が掠めてしまうのは決してワザとではないのである。
 ワザとではないのであるが、健全な男子高校生の手は持ち主の意図しない動きを勝手にしてしまう事もままあるわけで、気付いたら親指の腹が桜井の割れ目をパンツ越しになぞっていたのも、やはりワザとではないのである。
「と言うわけなのですよ。桜井君」
「嘘だーッ! ぜったいワザとだー……って、んっ、あ、ぁ」
 一応はモモ肉押し込め作戦も継続中なので、これはれっきとした救助行動の一環である。人工呼吸が口と口を合わせてもキスでないのと同じで、これも性的愛撫というわけでは決して無い。
「んっ、あ、あぁ、サクライなんだか切なくなってきましたよぅ。んあっ、って先輩! あんたモロに触ってるじゃないっスかーッ!」
「うむ」
「うむって、ちょ、待って。ホントに待って。このままじゃサクライ、んっ……あぅ」
 あくまで救助の一環なのだが、俺もまた人である故に思わず我を忘れてしまう事もあるのだからして、いつの間にかマジ触りであった。しかしながらこのバカにゴメンと謝るのは先輩として人としてどうなのか。相手がコイツでなければ謝って済む問題ですらないとしても。
 こうなったらもう、適当な理由をつけて誤魔化すしかない。
「俺が思うにだな」
「はぁ、何でしょう。と言うか先輩、目が獣になってるような気がして怖いっス」
「俺が思うに! このままじゃ無理だ。お前の足はプヨプヨ過ぎる」
「あ、ブヨブヨからプヨプヨにレベルアップしました。これはつまりサクライの魅力的な太ももに、流石の先輩もクラッときているという何よりの証拠ではと推測しマス」
「黙れズンダ餅弁当」
「ズンダ餅弁当! 言葉の意味は分かりませんが、とにかく凄い屈辱だ!」
 話がそれそうなので、一度彼女の尻をピシャリと叩く。例の如く抗議が返ってくると思ったが、桜井は無言で震えただけだ。切なくなって云々は本当らしい。
 よし、この流れなら、後は有無を言わさず勢いで押していこう。
「でだ。もっとこう、テンションを低くしてだな、グデーッと力を抜かないと、どうにもならない」
「はあ、確かにそうかもしれないっスけど。この状況で力抜けって言われても、中々に難しい物がありまして。普段なら脱力はサクライの得意とする所ではありますが」
「そういうわけで、アレだ。お前、一度、イけ」
「は? あの、サクライは先輩の言わんとしている事の真意がイマイチ掴めないんですが……」
「うむ。つまり、性的絶頂を迎えた後にグッタリした所を押し込めば、スポーンと抜けるのではないかと」
「なるほどー、流石は先輩。漫画的手法を敢えて実践するわけですネ。って、えええええっ!? いや、如何に敬愛する先輩と云えども、真顔で性的絶頂とか言われるとサクライびっくりと言うかドン引きと言うか。確かに漫画的手法はサクライとて望む所ではありますが、成人向けとかいうシールがついちゃうような漫画は割りとこう、サクライ苦手にしておりまして」
「黙れ雌豚」
「うわああんっ! 何気に酷い事言われたーッ!」
 バカなりに本気でへこんだようで、缶入り桜井は涙目だ。泣かれては困るので、よしよしと頭を撫でる。そして落ち着いた辺りで今度はイかせるための愛撫を本当に開始。もう一度膝の上で彼女を半回転させ、背中を上にする。そして左手で筒を押さえ、右手を尻に当てた。
「うわっ! こ、この人ホントにやってる。ちょ、せ、先輩、冗談じゃなかったんですか? サクライ大弱りなんでスけど……んっ、んんっ! あ、あっ」
「勿論だ、いつも言ってるだろう。俺はいつだって本気だ、と」
「そんなの初めて聞いたっスー!」
 さわさわと尻を撫で回し、指先を伸ばして割れ目をなぞる。余り力をいれず、中指を上下にスライドさせるように。こうなってしまうと俺の方はノリノリだ。なけなしの遠慮も次第に消えてくる。
「あうっ、んっ。……せ、先輩、あの。ぁ、ああっ、サクライ、何だかホントに――んっ」
「うむ、それでいい。何かして欲しい事があったら言え」
「あ、じゃあ……もうちょっと上の方を重点的に――じゃなくって! ややや、止めて欲しいっス。ね? ね?」
「勘違いするな桜井後輩。これはお前の為に、お前の為にやっているんだ。で、上の方って、この辺か?」
「はぅ……そ、そこっス。あ、何だかジンジンするぅ。って先輩ーッ!」
 割れ目の最上段付近、いわゆるクリトリスの辺りだろうか。指を立ててそこを突付くと、セリフはともかく、彼女の様子は目に見えて変わってきた。筒の反対側から出ている足先がモゾモゾと動き、顔は紅く染まっている。息遣いも荒い。
「む、ん? ありゃ。これは……」
「あっ、ん……だ、ダメっス。そんなに触ったら、サクライは、何かこう、液体のような物を」
「いや、もう出てるけど」
「え、えええっ! だ、だからダメって言ったんスよーっ」
 指が湿っぽいなあと思ったら、本当に濡れていた。俗に愛液と呼ばれるものだ。バカでも女の子なんだなあ、と改めて感心し、調子に乗って愛撫を続行。そうしたら、出るわ出るわ。最初は湿っぽい程度だったが、徐々に水気が増して、いつの間にやら彼女のパンツがビッショリになっていた程だ。続けて割れ目を擦ると、それは更に量を増し、ついには床に小さな水溜りを作るまでになった。
「むう。冷静になってみると凄い物だな」
「れ、冷静にならないでくださいよぅ……んっ、んんっ! あぁ、あう」
 相当感じてしまっている桜井は、時折ピクリと体を震わせ、性の快感に耐えている。耐えなくて良いのに。
 さて、これ以上の事をするか否かの選択肢が脳内に浮かんだのだが、ここに至っては考えるまでも無い。俺は濡れたパンツの中へと指を侵入させた。そして割れ目を探り当て、中指を第一間接まで入れてみる。
「くあッ! ちょ、先輩……んああッ。そ、そんな事まで」
 文字通りの手探りに流石の桜井もバカを言う余裕はないようだ。全身に力を入れ、体内に侵入した異物の感触に抵抗している。ただ、性感の方も急上昇したようで、苦しげながらも高い嬌声が室内に響いた。
 順調である。最早目的が何であるかなど意識の向こう側に行ってしまったくらい順調である。気を良くした俺は彼女の中に入った指を僅かに抜いて、また入れるという行為を繰り返した。その度に桜井も甲高い鳴き声を上げる。うむ、これは止められん。
 止められないのではあるが、如何せんのっぴきならない事になっていたのが、俺の股間だった。もう大分前から完全に屹立し、ズボンを押し上げている。何らかの手を打ってあげないと若さが暴発しそうだ。
 そして、その何らかとは、やはり今現在、右の中指が入っている場所ではないのかという提案が脳内議会で提唱されているわけで。
 俺はおもむろに指を抜くと、改めて彼女に問いかけた。
「あのな、桜井。入れて良いか?」
「はぅ? んくっ……? な、何をっスかー?」
「チンポ」
「……はぁ? あ、あああ!? いやいやいや、かかか、勘弁して下さい、ちょ、ちょ、先輩! 何かジーッて音が聞こえたんスけど。具体的に言うと、チャックを開けた時みたいな!」
 それは正しい。正しくチャックを開けた音だ。ギンとそそり立つ俺の物が解放された音でもある。
 俺は缶入り桜井を持って立ち上がり、少しばかり場所を変えた。そして戸惑う彼女を、机の上に寝かせる、というか置く。検討の結果、背中が上だ。
「あの、こう見えてサクライ、割とデリケートな生き物でして。その、あんまり乱暴にされると困っちゃうなー、と思うわけですが、どうでしょう先輩、その辺り」
「安心しろ」
「はぁ……えっと、それはひょっとして優しくするから、とかいう意味でしょうか? それはまあ優しくはして欲しいですけど、ちょっと今日はご勘弁願いたいかなー、なんて。出来ればこう、先輩から告白を受けて三日三晩サクライが考えた末に、交換日記から始めて、手を繋ぐ、キッス、熱いキッス、深いキッスの順序を経て、お付き合い一周年記念にベイフロントのホテルのスカイバーなんかで、街の光が綺麗です、いやお前の方がもっと綺麗さ、何ていう甘い会話の後で実は先輩が部屋を取ってあるんだ、今日は帰さないよ、なんて感じの展開がサクライ的に宜しいんじゃないかと思う次第でありまして」
「安心しろ」
「ですから何を安心すればいいんでしょうか?」
「安心しろ」
「安心できねぇぇぇっ!」
 いわゆる学校用の机に安置された桜井は途端に騒がしく喚き始めたが、これは緊張と照れ隠しだろう。優しく声を掛けてポンポンと頭を撫でると安心したのか、うぐぅと唸って大人しくなった。
「だから安心してねぇっての!」
 さて、向こうの具合も良いようだし、そろそろ始めよう。俺は机に置いた缶詰を片手で支え、もう片方の手を伸ばして彼女の濡れたパンツをずらす。おう、ヒクヒクと微かに蠢くほころんだばかりの花弁が大変にエッチだ。
 そこへペニスを慎重にあてがい、侵入角度を見定める。
「う、うわあーっ! 何か、何か当たってまス。私の大変な所に何か奇妙な物体が当たってまス」
「奇妙とか言うな。長年連れ添った俺の相棒に対して失礼な」
「こりゃスイマセン。先輩の相方さんでしたか。私、サクライと申しますって、イヤァァっ! たたた、助けてーッ」
 取り乱す桜井にちょっとだけ気がそがれるが、濡れる秘所を探るペニスの感覚に、再び闘志が湧き起こる。
 そうだ、冷静になるな、俺。冷静になるな。
「この状況、冷静に見ると、ホントにエライ事っスね」
「だから冷静になるなって言ってんだろ! ダボがっ!」
「――ッ! ギャーっう」
「あ、入った」
「んんん、んなアホな展開で、あうっ、サクライの、サクライの初めてがぁ……」
 場を弁えない桜井のボケに激昂した俺が、思わずバカのドタマを叩こうとした瞬間だ。侵入体勢の整っていたペニスが、そのままズブと埋まってしまった。ある意味痛恨のミステイクである。挿入感をじっくり味わおうと思っていたので。
 まあいい。入ってしまった以上は次のステップだ。
 破瓜の痛みに喚き散らす缶入り桜井を両手で支え、彼女の最奥へとペニスを侵入させる。初めて男を受け入れる上に、体勢が体勢だ。膣内はキツイ事この上ない。お陰さまで快感どころではなかった。これは衝撃だ。ギチギチと締め付けられ、ペニスが悲鳴を上げるほどである。それでも抜きたいとは思わないのは、そこが女の中だからだろう。人体の不思議と言うべきか。
「うーむ、なるほど」
「うぐっ……な、何がなるほどなんスかッ! ちょ、もう、止め。あうっ、ん」
 感心しつつも俺の相方は桜井の終着地点に到達。コンと肉の壁を叩いた。となれば今度は引き抜いていく番だ。繊細な女性器を守るべく、愛液が多量に分泌されだしたのか、挿れた時ほどにはキツくないのが有り難い。割と楽に出口付近まで戻す事が出来た。
 そんな感じでゆっくりと出し入れを繰り返す。そしてその動きが自然に早くなってきた時には、俺も桜井もセックスに没頭し、言葉も無く快楽を貪っていた。
 と、どれくらい時間が経っただろうか。恐らくは大して長くは無いだろう。トタンの筒に収まった彼女の体が、急に激しく震えだした。同時に俺もまた腰の辺りに堪えきれないザワメキを感じる。
「う、う、うぅぅぅっ! せ、先輩、サ、サクライは限界っス」
 そう呟いたかと思うと、桜井は一際高い悲鳴を上げた。ペニスを包む柔らかい肉が収縮し、全身が細かく痙攣する。その衝撃で俺も限界を超えた。堰を切ったように精液が尿道を駆け上り、先端から噴出していく。
「ふ……ふぅ。あの、せ、先輩? もしや、とは思いますが。しゃ、射精とやらをなさってますか?」
「うむ。たった今終わった所だが。あ、でもちょっと待って。もうちょっと」
「は――はぁ、うぃス。って、あーんっ! 中で出されてるよぅ……」
 腰に力を込め、尿道に残った分まで搾り出す。実に素晴らしい気分である。濁った頭の中がスッキリと晴れていくようだ。その晴れた頭でふと思ったのだが、筒に収まった桜井は、形状といい用途といい、まるで巨大なオナホールのようである。口に出すと流石に本気で泣かれそうなので言わないが。
「あの、所で先輩?」
 うははははは、と声に出さずに笑いつつ、ペニスを抜いてハンカチで拭う。タバコが吸えるなら一服でもしたい所だ。一仕事終えるとはこの事か。
「あのう、事の倫理的問題はともかく、私ことサクライも、ぜ、絶頂に達した訳ですが」
「うん。良かったじゃないか。やっぱり2人共に気持ちよくなってこそだよな」
「で、ですね。先輩確か、サクライが、その、グッタリした所を見計らって押し込めば上手い具合に筒から抜けるような事を仰っていたように記憶しておりますが」
「スマン、忘れてた。もう一回やるか」
「勘弁しろよ、このモラルハザード野郎っ!」
 そう言えばそうだった。困った事に、完全に目的を放棄していたようだ。いやはや。
「いやあ、エロ漫画か何かなら、2人してイった瞬間に、こうスコーンと抜けてお前が床にベシャッと這いつくばるという面白いオチに繋がるんだけどなあ。ホラ、お前って漫画みたいなキャラだし」
「う、うわあああんっ! 面白いオチはサクライも歓迎ですけど、成人向けは苦手だって言ったじゃないですかぁっ」
 図らずも処女を失った事と、筒から抜けなかった事。どちらが悲しいのか、えぐえぐと泣きベソをかく桜井。
「どっちもに決まってんだろうがぁ。……うっ、うっ」
 さてどうした物か。押してもダメ、引いてもダメ。漫画オチもダメとなると、正直もう後が無い。本当に119に連絡するしかないのだろうか? 俺はそれでも構わんが。
 と、ちょっと首を捻って考えていると、ある物が目に入った。工作用の鋏だ。そうだ、切れば済む事じゃないか。今になって思い出したが、バカが嵌っている筒は、去年の暮れに先輩が工事現場で拾ってきたというガラクタだ。潰した所で誰も困らない。
「と、いうわけで。切る」
「うっ、うっ……え? ええっ!? あの、サクライこう見えて健康だけが売りなんで、出来れば五体満足でいたいかなー、なんて思うんですが。ちょ、待って! プリーズ、ストップ猟奇的手法!」
「諦めろ。なーに、最初はちょっと痛いかもしれんが、直ぐに気持ち良くなってくるさ」
「いや、おかしいです! おかしいですって、そのセリフ。それさっきのエエエ、エッチの前に言うべきでしょ!?」
 カションカションと大きな鋏を彼女の目の前で閉じたり開いたりしてみせる。慌てて逃げる桜井だが、今いる場所は机の上だ。派手に落ちて転がった。
「痛ーッ! でも切られるのはもっとイヤーッ!」
 そのままゴロゴロと転がって逃げる根性は大した物だが、逃げ切れる筈も無い。あっさりと捕まえられて、机の上に戻された。
「落ち着け。切るのは手足じゃなくて筒のほうだ」
「イーヤーッ! 死んでしまうーっ! って、筒? あ、その方法がありましたか。いやあ、流石に先輩。困り果てた後輩を勢いで犯しちゃう鬼畜野郎だけあってクレバーですなぁ」
「さて、見たいテレビがあったんだっけ」
「いやああ! 帰らないで、お願いっスー! ここから出してーっ! 後、責任も取ってーっ」
「分かった分かった。ちょっとジッとしてろ」
「うぃーっス」
 暴れるのをやめた桜井をしっかりと押さえ、両太ももの間にある隙間に鋏を入れる。鉄板と言っても彼女が転がる度にベコベコと凹むくらいの薄い物だ。銅版を切れる工作用の鋏なら十分に切れよう。
「という訳で、サクライ復活っスー! いやあ、一時はどうなる事かと思いましたが。後は先輩に責任取ってもらうだけっスねー」
「それは御免こうむる」
 解放された途端、大ハシャギで美術室を走り回る桜井だったが、如何せん長時間に渡って筒の中に嵌っていただけに、あっという間にバランスを崩して転び、壁に激突した。まあ、その程度ならいつもの事だが。

 さて、ようやく桜井を助け出した今現在、既に日が傾いていた。折角の休日に心を鎮めてデッサンに勤しもうという試みはあえなくオジャンになったが、まあそれなりに役得もあったので、これは良しとしよう。
「ううううー。先輩、桜井の初めてを奪っておきながら、責任とってくれないのは酷いですよぅ……。うううー」
「ええい、メソメソ泣くな! 俺が来なかったら、缶に嵌ったまま明日になってからの発見だぞ。しかもお漏らし付きで」
「うっ! それは流石にサクライも引き篭もり決定ルートです」
「だろう。俺には感謝しておけ」
「はあ。有難う御座います、先輩。って、何となく言いくるめられてる気がしまス」
「気のせいだ」
 残る問題は帰り際にワザとらしく泣きベソをかいて引っ付いてくる桜井をどうするかだが。これも適当にあしらっておけばいいか。バカだし。
 さて、そろそろ分かれ道だ。俺はやたらと引っ付いてくる桜井を引き剥がし、猫のように持ち上げて放り投げた。
「じゃあな、桜井。バカなのは仕方ないとしても人様に迷惑をかけるなよ」
「うぃーっス。あ、先輩先輩。今度ウチに来てくださいね。一家を挙げて歓迎しますので」
「絶対に断る」
「ええーっ」
 スタコラ逃げ出した俺を桜井が追ってくる。
 願わくば、早いトコ諦めてくれますように。



 ――了。

モ ドル