手乗り文鳥と中国の壷

 

 曰くありげな木箱をそっとテーブルの上に置き、固く縛られた紐を慎重に解く。100円ショップで買った白い手袋をはめた両手で、そっと木箱の蓋を持ち上げる。箱の内側は布張りのクッションが丁寧な仕事で施されていた。中央に鎮座する、白い、本当に真っ白な壷を守るために。
 間宮晴彦はゴクリと唾を飲み、おもむろにその白磁の壷を手に取った。決して落とさないよう、気を張り詰めて。
 ひび一つ無い。欠けている所も無い。
 そっと壷を箱に戻し、彼は傍らに置いた美術図鑑と向かい合う。
 つい、と額に汗が流れた。手が僅かに震えた。口の端が僅かに持ち上がる。
 北宋の白磁。保存状態も完璧。
「これは――良いものだ」
 きっと高く売れる。
 彼は丁寧に壷を箱に戻し、暫く逡巡してから、それをリビングに置いたまま家を出た。
 今日明日に売り払う必要はないし、いっそコレクションとして残しておくのも良い。
 何しろ、当面の資金は十分にあるのだから。

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 間宮晴彦は大学生である。東学館大学の文学部国文学科に所属する一年生。彼が大学生の分際で平屋の一戸建てに住んでいるのは巡り合わせの為せる業である。
 神奈川県K市に生まれ育った彼は、実家から通える東京の私立大学を本命に受験したが、勉強の甲斐なく不合格となった。一時は浪人も考えたのだが、結局の所、滑り止めで受験していた東学館大に入学する事になったのである。
 実家から遠く離れた東学館を受けたのは、実の所、両親の強い希望による物だ。私立東学館大学のある街に、父の母、彼にとっては祖母が1人で住んでおり、ここならば下宿代が掛からないからだ。
 両親にしてみれば、そろそろ年齢的に1人暮らしが危なくなってきた祖母の下に、頼りないとは言え息子を送っておけば、いざという時の連絡役くらいにはなるだろうという思惑もあった。
 そして4月。祖母の家で生活を始めた彼は、早速その役割を果たす事になったのである。
 晴れて大学生になった孫の姿に安心したのか、晴彦の入学式を見届けた三日後の晩。祖母は熱を出して寝込んでしまった。彼はいち早く両親に連絡を入れ、呼び寄せる。明けて次の日、病院に運ばれた祖母は、息子夫婦と孫に囲まれて満足したように頷くと、そのまま永眠に入ったのである。享年76歳。大往生であった。
 という訳で、間宮晴彦は祖母の自宅をそのまま受け継いだ形で、気楽な1人暮らしを始めたのである。
 さて。基本的に仕送りが少ない筈の彼は、だが金には困っていなかった。これには両親には秘密のカラクリがある。
 祖母の遺産整理をした時は誰も気付かなかった納戸の床下収納から、恐らくは祖父が集めたらしい骨董品の数々を見つけ出し、売り払ったら結構な額になったのである。お陰でバイトもせずに小金持ち、という訳だ。
 こうして、余りにも気楽な大学生、間宮晴彦は、更なる悪事に手を染めるのである。

 以上、舞台設定でした。以下、本編です。

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 一体何が起こったのだろう? 学食でカツカレーを食べてから自宅に戻ると、居間で子供がべそをかいていた。女の子である。今時珍しい腰まで届こうかという長い髪、レースのついた白いワンピース、お上品な白い靴下。漫画か何かの中でしかお目にかかれないような、正統派お嬢様スタイルときた。
 ぱっと見た所、小学生高学年。中学に上がっているようにはとても見えない。それが、どうして家で、おまけにフルフル震えてべそをかいているのか?
 理由らしき物はすぐに目に止まった。例の壷だ。割れている。粉々とはいかないが、大小さまざまな破片に姿を変えている。
 骨董屋に持ち込んで幾らの値になったかは分からないが、恐らくは結構な金額がパーである。
 まあ、残念ではあるよね。と、晴彦はあっさり見切りをつけた。割れてしまった物はしょうがない。既にして彼の預金口座には学生の小遣いには不相応な額の数字が刻まれているが故に。

「えーと……」
 鞄をどさりと置くと、女の子は面白いくらいビクリと震えた。下を向いているから表情はよく分からないが、顔色が蒼白なのは見て取れた。スカートの端をきゅうと握り締めている所が、実にツボではある。壷だけに。
「何があったのかな?」
 怒ってなどいない、という事をアピールするために、務めて優しく。かつ、威圧感を与えないよう、しゃがんで胡坐をかいて目線を合わせる。
 大丈夫、言ってごらん。などと普段まず使わない幼稚園の保母のような声音で宥めすかすこと数分。彼女はようやく事の真相を話し出した。

 真相、というほどの事も無い。ただなんとなく家の庭に入り込んでみたらしい。そうしたら縁側に面した引き戸が開いているのを発見し、ふらふらと上がり込んでしまい、居間で見つけた壷に興味を引かれ、持ち上げてみたら手を滑らせた。との事。
 有坂園子、10歳。涙目でそう名乗った少女を前に、俺はどうした物かと首を傾げた。小さいとは言え、年齢も二桁を数えるようであれば、勝手に上がって良い場所と悪い場所の分別くらいはあって然るべきである。ここは一つ、地域のお兄さんとして注意せねばなるまい。

「なるほど」
 ちょいと意地悪に「不法侵入に器物破損か」と呟いてみる。案の定、その子はガックガク震えだした。正に狼に追い詰められた兎の如しである。
 弁償しますから、と必死になって懇願しているが、正直如何にブルジョワの子と言えど、小学生に払えるような額ではない。――多分。
 いやいやお嬢さん。大した物ではないから、もういいよ。と、言うべきシーンではある。見た目にも反省と後悔で押し潰されそうになっているのだ。ここは大人として、頭の一つも撫でて、快く許すのが真っ当な人の道であろう。
 で、あろうのだが。
 魔が差した。
 としか言いようが無い。

 もう少し追い詰めてみようか、と思ってしまったのである。

 曰く、それは中国で作られた古い壷である。
 曰く、とても高価でパソコンが何台も買えてしまう。
 曰く、とても大切な祖父の遺品でもある物だ。
 さて、君に弁償できるかな?

 泣きました。いやもう泣きました。流石に罪悪感に駆られましたとも。
 ちっさな目からポロポロ涙を流す姿には流石に焦った。なんぼなんでもやりすぎた。
 慌てつつも恐る恐るその子の頭に手を伸ばし、大丈夫大丈夫と囁きつつ、どう慰めたものか考える。うーむ、と再び首を傾げるが、どうにも事を収める良い方法が見つからず、結局の所、事態を進展させたのは園子の方だった。
 肩を抱き、頭を撫でる俺に何を感じたのか「私を、好きにして良いです」などと言い出したのである。
「好きに、だって? 意味を分かっているのか? エッチな事されちゃうんだぞ?」
 児童が口にするには余りにアレなセリフに憤慨した俺は、殊更強い調子で脅したのだが、あろう事か、園子は涙目のままコクンと首を縦に振った。
「そうか。――分かった」
 幾ら高価な白磁の壷を割ってしまったとは言え、その代償に、しかも小学生の女の子に体を要求するほど俺は悪人ではない。要求するほど悪人ではないのだが、提供されればやぶさかではないのが困った所である。


 さて。一応良いわけじみた事を言っておこう。
 どうにも罰らしき物を下さなければ引っ込みがつかなくなった俺は、園子の提案に乗った振りをして服の上から乳の一つも触って見せれば良かろう、と思っていたのである。ちょこっとだけ触ったら、この子は家に帰そうと。少なくともこの時点では。
 まさか自分にペド野郎の素質があるとは夢にも思わなかったのだ。本当に。
 調子に乗って「ここに座りなさい」と膝をポンポン叩いたのも、本当に調子に乗っただけなのである。
 後にして思えば、園子が恐る恐る俺の膝に腰を下ろした時点で「家に帰す」が「入れはすまい」に変化していたようなのだが。


 血の気が引き、完全に青ざめた顔を俯かせた小さな子が膝の上でカタカタ震えているのを見ると、流石に罪悪感も強い。が、こちらがアクションを取らない限り、この子も動けまい。俺は、これ以上怖がらせないよう、務めて優しい声で囁き、そっと手を伸ばした。
「じゃあ、触るからな」
 胸板は薄い。ひたすら薄い。しかしながら真っ平らというわけでもなく、僅かに盛り上がった肉がそれなりに乳房を形作っている。ちゃんとブラジャーもつけているようで服の上からでもレースの感触が伝わってくる。無論、本当に触りたいのはレースではないのだが。とはいえ、これはこれで趣があると考える辺り、自分の業の深さを感じる。

「……っ。――っ!」
 膝に乗せたこれまた薄い尻が、小刻みに震えるのが実に好感触である。乗って震えるのが20kgの鉄塊だったら重くて仕方が無いだろうが、これが可愛い女の子だと羽のように軽いというのだから不思議ではある。
 つらつらと馬鹿な事を考えながら胸から腹、首から腕、腰から足とまんべんなく手を這わせる。時折頭を撫でて務めて優しくしたのが効いたのか、園子は当初の恐怖感も薄らいだようで、幼いながらに感じ始めているようだった。青白かった顔に赤みが差し、吐く息にも甘いものが混じってきている。
 一度手を止め、腕全体で彼女を軽く抱きしめた。決して力を入れないように。
 園子がふぅ、と息を吐く。同時に彼女の全身から力が抜けていくのが感じ取れた。

 頃合やよし――。

 背中のファスナーをジジジと下ろす。途端、ピンと彼女の背筋が伸びた。服を脱がされようとしている事を理解したのだろう。だが、抵抗はしなかった。それ所か、脱がしやすいように腕を前へ出しさえした。
 何というか、俎上の鯉をさばく気分である。

 白いワンピースより尚白い、少女の背中。想像以上だったと言っていい。手触りは滑らか。指で触れる度に脳がくらくらする。実際、脳内麻薬はエライ勢いで分泌されているのだろう。物を考える力が秒単位で消えていくのが自分でも分かるほどだ。
 ワンピースのファスナーを下ろし切り、背中をはだけさせる。だが、それ以上は脱がさず、俺は先ずブラジャーのホックをはずした。
 よし、背中だ。
 背中である。丸見えの背中である。ただの背中であるのだが、人は背中だけで十分感動できるのである。

「――んんッ!」
 人差し指で背筋ををツイとなぞると、唯でさえ伸びていた背中が思い切り弓なりに反る。「すんッ」と軽く鼻をすする園子が実に可愛い。
 綺麗な背中。意地悪するのも楽しいのだが、もっと楽しむ術はある。俺は半袖シャツのボタンを外し、下に着ていたTシャツを首元まで捲り上げた。
 自分の胸と、目の前の園子の背中。この素肌を合わせたら、どうなってしまうのか。
 想像するだけで殴られたように脳が揺れるのだ。知らず、口が渇き、思わず唾を飲む。鼻息がかかったようで、彼女は軽く身じろぎした。

「ぁぁああっ――」
 右腕で彼女を抱き寄せ、俺は自分の胸と彼女の背をピタリとくっ付ける。
 広範囲で直に感じる体温、そしてその肌の滑らかさ。
「ん、んんっ……」
 幼くも甘い嬌声が耳元で響く。

 俺はきっと震えていただろう。脳が誤作動を起こしたようで、高層ビルから飛び降りたような落下感を覚えた。
 まるで麻薬。怪しげな薬など打った事も吸った事も無いが、きっとこんな感じなんだろう。もっと欲しい、もっと寄越せ、という幻聴が頭のどこかで響く。

「うっ、くッ!」
 脳が誤作動ついでに『少女愛の中毒性について』という題のレポートを書き始めたが、耳が苦しげな園子の声をからくもキャッチしたため、俺は正気を取り戻した。
 どうも強く抱きしめすぎたらしい。あわてて腕の力を抜く。
「ご、ごめん。思わず力入れちまった」
 園子は涙目になりながら俺の顔をのぞき込み、やがてコクンと頷いた。俺に暴力を振るう意思がないと悟ったようで、ちょっとホッとしたようだ。ついでに俺もホッとした。

 さて。気を取り直して続きである。
 俺は園子に密着したまま、彼女のワンピースを脱がした。袖から腕を抜かせ、上半身をあらわにさせた。流石に恥ずかしいようで園子は唇をかんで顔を真っ赤に染めた。
「はぅっ――」
 ブラジャーのホックは既に外してあるので、後はこれを剥ぎ取れば上半身は裸である。
 最早我慢ならん、と俺の本能は訴えていたが、どうにかそれを制し、怖がらせないようにゆっくりと下着を外させる。
 子供用の、だがそれなりに値の張りそうなブラのその下にある胸。傷一つ、染み一つない、正に処女雪のような肌だ。うっすらと肋骨が浮くほど薄くはあるが、慎ましくも女の子を感じさせる膨らみを、力をいれず、俺はゆっくりと撫で回した。

「あっ、――はぁっ!」
 弱弱しく、しかし熱い吐息。もう僅かとは言えない。園子は、確かに感じている。俺の膝の上で太腿をこすり合わせ、初めての快楽に身体を震わせているのだ。
「んっ――。あっ、私っ……――」
 もじもじと身をくねらせる。どうしていいか分からないのか、小さい手は盛んにスカート部分を握ったり虚空を掴んだりしている。呼吸もかなり荒くなってきた。きゅっと口を結び、振り返って俺を見上げたりもしている。どうにかして欲しい、とその目は訴えていた。と、判断する事にしよう。
 俺は手を伸ばし、スカートの裾から園子の足を撫で上げた。
「ひゃあっ! ――ん、んぁッ」
 靴下に包まれた小さなふくらはぎを軽く揉みしだき、そのまま上へと指をスライドさせる。膝小僧から、太ももと呼ぶには語弊があるあるほど細い腿へ。さわさわと撫で擦る。丹念に、優しく。
 同時に、もう一方の手で可愛らしくも膨らんだ乳首を軽く摘む。その度に、園子の上げる声は甘くなっていった。時々振り返り、切なくてたまらないという表情を見せてくれる。正直、その顔だけで果てそうだ。
「あっ、あっ、はぁっ……んんんッ!」
 愛撫にもいよいよ身が入る。指の腹で乳首に更なる刺激を与えつつ、首筋に唇をつけ、その肌の味を楽しむ。女の香りというには余りにも未成熟な甘い匂い。これは思わず髪を掻き分けて耳を甘噛みしたくもなるわな。と感じ、実際やってみてしまうのも仕方が無い。それ程の。
 あわあわと、声にならない声を上げる園子。目はトロンとさがり、最早完全になすがままだ。
 内腿を愛撫していた手を更に上にあげると、小さな布に包まれた、やはり小さな割れ目に到達。
「ふっ、はぁあっ! ――んやぁッ」
 軽く触れただけで高い声が漏れる。割れ目にそって指を動かすと、園子は激しく身をよじった。
「大丈夫、落ち着いて。ホラ、一度深呼吸をしてみよう」
 やってる事は間違いなく条例違反で、全然大丈夫でないのだが、健気にも言いつけを守り、深呼吸をする園子を抱えていると、どうにも前進以外の選択肢は浮かばない。
 だから前進。もう少し先へ。
 園子の割れ目の中ほどよりやや下。下着越しに人差し指を押しつけてみる。伝わるのはしっとりとした粘性の水分の感触。
 濡れている。
 そう考えた瞬間、俺の顔まで赤くなってきた。心臓がバカバカと波打つ。息も荒くなる。極度の興奮状態ですね。とデフォルメされたミニ晴彦が頭の中で囁く。天使でも悪魔でも無い所が自分らしいかもしれない。
「あっ、あっ! んんぁぁんッ――! も、もう……私……」
 園子は息も絶えだえに、荒い息を吐き、小刻みに全身を震わせている。俺は左腕でしっかりとその小さな身体を抱きしめ、そろりそろりと右手を下着の中に侵入させた。
「はぁぁっ――あ、ああっ、んあッ!」
 小指の先さえ拒むようなピタリと閉じた秘裂を上から揉み解すように撫でる。同時に、親指で割れ目の上部、陰核があるであろう辺りを軽く擦る。
「うっ、うっ、んんんッッ!? うううッ!」
 どうにかなってしまうのが怖いのか、園子は歯を食いしばって耐えている。妙な所で我慢強い子だ。
「力を抜いて、園子。その感じを受け入れちゃって大丈夫だから。な?」
「――ッ!? ううっ! ん」
 必死に快感を堪えながら、こちらを振り返る園子。だが、その顔に俺が頬を当てると気が緩んだようだ。
「あ、んあっ、―――あーーッ!!」
 軽い悲鳴と共に果て、そしてクタリと全身の力が抜けた。

 どうにも刺激が強すぎたのか、彼女はポーッとした顔のままウンともスンとも言わなくなってしまった。体に全く力が入らないようで、身動き一つしない。口の端から零れた唾液すらそのままだ。

 どうしよう――?
 途方にくれてしまった俺は、取り敢えず彼女の唾液を舐め上げた。

 うむ。甘露。

   /

 3時間後――。
 そろそろ日も傾いてきた時刻。俺は居間の座椅子に胡坐をかき、テレビを見ていた。某動物おじさんの2時間番組の再放送だ。
 で、有坂さんちの園子お嬢さんはというと、これが相変わらず俺の膝の上にいるのである。プリンを食べつつ、熱心に番組に見入っているのである。

 動かなくなった園子を放り出すような真似が出来ないという、自分の業の深さを改めて認識した俺は、やはり服を着せるべきではないかという至極当たり前の結論を出した。
 涼しい風が火照った身体に心地よいとは言え、裸にさせたままでは流石に風邪を引いてしまう。ありがたい事に手に届くところにあったティッシュを二枚取り、薄っすらと汗をかいている彼女の身体を拭う。
 時折ピクッと動き、ふっと息を吐くが、どうやら再起動には今しばらく時間がかかりそうだ。この隙に、というのも変だが、俺はテーブルに置かれていた小さなブラジャーを着させ、はだけていたワンピースも元通りに着させた。
 ただ一点、元通りとはいかないのが、濡れた下着である。未だ小さな女の子だけに、滴るほど濡れそぼっている筈もなく、僅かに湿っている程度だが、このままでは気持ちも悪かろう。かといって脱がせてしまうというのもアレだ。犯罪だ。今更何を、とも思うのだが。
 考えた挙句、俺はティッシュを4枚重ね、2つに畳んだものを園子の下着の中に入れた。この再侵攻に、彼女はまたそこを責められると思ったのか、もうダメですとばかりにふるふると首を振った。
「うん? ああ、もうしない。ちょっと……なんだ、濡れちゃったから、な」
 依然ポーッとしたままの彼女は、それでも俺の意図を悟ったのか、自分の股間をしばし見つめてから、コクンと頷いた。
 可愛え。

 そしてそれから、おもむろに身体を起こし、立ち上がるのかと思いきや。反転して俺の胸にもたれ掛かり、そのまま眠ってしまったのである。
 いや、なんとも無防備な。
 結局俺は立つ事も出来ず、無論その気もなく、彼女が目を覚ますまでの小1時間、膝の上で小さな女の子が眠っているという甘美な一時を過ごした。

 さて。目を覚ました園子だが。どうにも俺の膝を定位置と決めてしまったようで、烏龍茶とプリンを台所から持って帰ってきた俺がテーブルの前に腰を下ろすと、当たり前のように膝に乗ってきた。どうしようかと思ったが、それは腰を抱くか肩を抱くかという二択問題であり、下ろすという選択肢は浮かびもしない自分が憎い。
 ムツさんが猛獣に指先を食いちぎられるというシーンに2人して戦慄するという、愉快な一幕を交えつつ、見ていた特番が終わった。
 楽しい時間も今日は終わりだ――。
 俺は言葉もなくリモコンでテレビを消すと、名残惜しそうな園子は、それでも素直に立ち上がった。
 玄関まで送ろうとするが、そうだった。この子は縁側から家に侵入したんだった。
 ばつの悪そうな顔で弱々しくワンピースのスカート部分を握る園子。俺はその小さな頭にポンと手を置き、耳元に口を寄せて囁いた。
「次は、玄関からくるんだぞ?」
「……はい」
 俯いたまま微笑み、縁側を降りて靴を履いた園子は、一度振り向いて俺の腿に抱きついた。そして小声で「さよなら」と言うと、今度は振り返る事無く去っていったのである。

 俺は縁側のサッシを閉め、園子の香りが残る居間で、覚えたばかりの煙草を咥えた。
 さよなら、という別れの言葉に少し胸が痛む。
 あの子が、もう一度この家に来る保証は無い。
 割った壷をたてに、小さな女の子に淫らな行いをしでかした自分が、地域社会の敵である事は疑い無いのだ。冷静に考えれば来ないほうが良い。
 そうだ。その通り。
 だが、テーブルに置かれた2つのコップを片付ける手が、少しだけ震えていたのも事実である。

   /

 翌日、学食でカツ丼を食べて家に帰ると――。
 居間で当たり前のように昼寝をしている女の子がいた。
 いやはや、どうやって入ったのやら。



 ――了。

モ ドル