魔眼屋本舗

 幸福は定量が決まっている。
 誰かがどこかで幸せになれば、別の誰かは必ず不幸になる仕組みだ。
 ならば、俺は一体どれ程の数の人間を不幸に追いやっているのだろう?
 魔の眼とはよく言った物だ。落とした相手を心底可愛がり、その家族すら納得させても、それは何処かの誰かにとっては悪魔の所業にしかならないのだから。
 この世に幸せを願わない人なんていない。
 それこそが、我々をして罪深い生き物と呼ぶ所以なのだろう。

 というような事を、部室で女子の先輩の胸にメープルシロップ垂らしながら考えた。
「く、くすぐったい……。んッ、あ、だ、ダメ――そこは!」
「あ――む。んふふふふ、甘いです。先輩」
「福沢、君。ぁ、んッ!! そんなに、舐められたら……あ、あぁ」
 猪原先輩は若い女の子の例に漏れず、甘い物に目がない。バームクーヘンに「これをかけると美味しさが二倍になるんです」と心底嬉しそうな顔でメープルシロップをどっさりかけるくらいである。
 その小柄な先輩の上半身を裸にさせて机に寝かせ、ピチャピチャとわざと音を立ててシロップを舐め取る。
 甘い。ひたすら甘い。なにより先輩の上げる声が耳に甘い。慎ましくも可愛らしい胸を舐められて身悶えする彼女が机から落ちないよう、両腕の付け根を下から掴むように押さえ、ひたすら舌を這わす。
「はっ、はぁ。くすぐった――ぁ、ん……」
「先輩、くすぐったいだけですか?」
「え? あ、ぁ……い、いや。そんな事、聞いたら……だめ」
 ふるふると揺れる乳首はすっかり充血して固くなっている。長机の上で、太ももをもじもじと擦り合わせてもいる。ちゃんと感じている証拠だ。
 良し良しと頷きながら、俺はシロップのボトルを逆さにし、先輩のピンと勃った乳首に向けた。そして、タラリと薄い胸を伝う甘い蜜をゆっくりと丹念に舐め取る。
「ひゃあ! ふ、福沢君……そこは、そこはぁ!」
 乳首よりも、その周囲の小さな桜色の輪っか、即ち乳輪が弱い事を突き止めた俺は、重点的にそこを責めた。途端、一段と甘くなる先輩の声。
 良し、計画は順調だ――。

 今日のこれは「猪原陽子開発計画」の一環である。いつも一生懸命頑張ってはくれる物の、今ひとつ高まりきれていない彼女を、段階を踏んでしっかりと気持ちよくなれる体にしてしまおうという計画である。昨日の晩に宿題やりながら思いついた。
 その手始めにと考えたのが今日のこれである。
 甘党の彼女の為に、メープルシロップを持参したが、良く考えれば舐めるのは俺なので意味が無い事に気がついたのが今日の昼。慌てて学校を抜け出し、近所のスーパーでバームクーヘンを買った。合間合間にシロップをかけたバームクーヘンを食べさせるのは、俺なりの飴と鞭である。
「あ、ぁ……んふぅ。んあ、は、私……もう」
 最初の一舐めから、およそ20分も経った頃、ついに先輩が目に涙を浮かべてカタカタと震えだした。
 頃合や良し。スカートの中にそっと手を入れて、股の間を優しく指で擦る。「あふあふ」と声にならない呻きを漏らす先輩は、やがて一声高く鳴いて小さく痙攣した。
 うむ。濡れ方は今ひとつだったが、ちゃんと達したようだ。今日はここまでにしておこう。
 あらかじめ用意しておいた濡れタオルで彼女の上半身を丁寧に拭き、可愛らしいブラジャーをつけて制服も着せてあげる。いつも俺の世話を焼いてくれる猪原先輩を、逆に俺が世話を焼くというのは中々に楽しい。照れたように俯いて下を向いている先輩も、心なしか嬉しそうで妙に新鮮だった。

 身づくろいを終えた所で例によって深いキスを交わし、彼女を魔眼から解放する。本日は、部活で後輩と歓談中に気持ち良くなってしまったという記憶を植えつけさせて貰った。
 偽の記憶と共に正気に戻った猪原先輩は、濡れた下着が気になるのか、スカートを押さえながら真っ赤な顔で帰宅していく。きっと家に着いてから、悶々とした一夜を過ごしてくれるだろう。後輩の顔を脳裏に浮かべながら。
 おう、甘酸っぱくてとても良し。
 俺は腕を組んで、自らの手腕にうんうんと頷き、一人自画自賛を送った。


魔眼屋本舗 /4 甘言と野望


 さて。
 本日もまた妹と一緒に帰る事になっているのだが。水泳部の練習が終わるまでには、まだ結構な時間がある。新島を呼んで、彼女に可愛い子を紹介してもらうも良し。或いは新島本人を可愛がるも良しだ。
 早速携帯を取り出した俺は、最近短縮の一番に設定した番号に電話をかけた。
「もしもし、新島か? 福沢さんちの幸一君だけど」

 ピ、と音を立てて通話を切り、立ち上がった俺は、手櫛で簡単に髪を整えると、鞄を引っつかんで部室を出た。
 新島め。やってくれる。俺を差し置いて「新体操部の新人達を取材」などと。思わずにやけそうになる顔を必死に抑え、廊下を急ぐ。
 彼女によると、現在新聞部では「期待の新人達」と題して、各部の1年生を対象にした記事を手分けして書いているらしい。で、今日は新体操部を訪れるという新島は、実の所、俺に電話をくれたそうなのだが、何度かけても出なかったそうだ。
 まぁ、さっきまで携帯の電源をオフにして猪原先輩を味わっていたのだから、これに関しては俺が悪い。今から行くという時に、彼女を捕まえられて良かった。
「来たね、福沢の」
「来たぞ、新島の」
 じと目で出迎える新島だったが、悪びれもせず胸を張る俺を見て軽く溜息をついた。
「どうして私こんなのが好きなんだろう?」
「きっと前世で、俺に余程の大恩を受けたに違いあるまいよ」
 きっぱり魔眼の所為なのだが、まぁ、巡り合わせは縁に拠るものだから、そういう事もあったのかもしれない。前世なんて物が存在すればの話だが。
 ガクッと落とした新島の肩をポンポンと叩き、俺は早速とばかりに出発を促した。
「良いけどね、何だって。好きだから」
「うんうん。俺も大好きだぞ」
 とほほ、と間の抜けた擬音をわざわざ声に出した新島は、気を取り直したように「はいこれ持って」等と言って俺に重い鞄を手渡してきた。
 ライトとスタンド、それに折り畳み式のレフ版だそうだ。写真撮影に使うと言う。ずしりと重いが、これがあれば助手として認知されるだろうという新島の計らいである。
 嫌だなどと言う筈も無く、俺はその鞄を意気揚々と担ぎ上げた。
 目指すは第二体育館である。

 お世辞にも強いとは言えない運動部ばかりを擁する我が慶光学園だが、施設だけは近隣の学校を圧倒している。体育館も大小2つあり、それぞれが控え室やロッカールームなどを完備した立派な建物であるからして、「猫に小判」と他校生から言われても仕方が無い。まぁ、それを気にしないポヤヤン振りこそ我が学園の校風なわけなのだが。
 新体操部は大きな第一体育館とは中庭を挟んで反対側にある第二体育館を根城にしている。小さい方の体育館ではあるが、地下部分に幾つも小ホールがあるという辺り、金の掛かり具合では甲乙つけ難い。
「と、いう訳で目的地に着いた我々新島探検隊ですが」
「私が隊長なのッ!? いやもうびっくりだわよ」
「新島隊長、現地人の姿が見当たりません!」
「ねえ、そのネタ止めようよぅ。でも確かにおかしいね、この時間練習してる筈なのに」
 館内で活動しているのは卓球部とバトミントン同好会だけだ。お目当てのレオタードの姿が無い。はて? と辺りを伺う俺達に、一人の女生徒が近づいてきた。
「あの、新聞部の方ですか?」
「あ、はいはい。新聞部の新島と、こっちは助手の福沢です」
「ごめんなさい。今日の練習、中止になっちゃったの」
「あら――」
 何でも、1年生部員の一人が練習中に足を捻ったそうで、顧問がその子を病院まで送っていってしまい、なし崩し的に今日の練習は中止になったのだそうだ。「監督者無しでは練習出来ない決まりなの。今日みたいに怪我する人が出ると怖いから」と申し訳なさそうに語ったのは、新体操部の部長さんだろうか? 眼鏡をかけた3年生だった。
「分かりました。じゃあ、日を改めて――」
「あ、でも。1年生の子には待って貰ってるの。1人だけになっちゃったけど」
 ほう――。
 それは残念なような、好都合のような。レオタードの集団は拝めなかったが、1年生の新部員と一対一になるチャンスが期せずして転がり込んで来るとは。
 可愛い子だといいなぁ、と期待に胸を膨らませて眼鏡の先輩の後について行く。途中、新島の肘鉄を散々食らったが、大人の態度でスルー。
「各務さん、お待たせ。新聞部の方がいらしたわよ」
「ぁ……は、はい」
 俺たちが連れてこられたのは第二体育館地下の小ホールの一つだった。広さは普通の教室ほど。天井が低いので新体操の練習には使えないだろう。柔軟体操用のマットとパイプ椅子が隅にある以外は何も無い、ガランとした部屋だった。
 その部屋の壁際に、ポツンと、所在無さげに立っている女の子――。
 一言で表せば「可憐」だ。背は余り高くない。猪原先輩と新島の中間くらいだから155センチ弱といった所か。全体的にほっそりしているが、痩せ過ぎのイメージは無い。むしろ、どこもかしこも柔らかそうな印象。顔立ちも整っている。程よく垂れた眉と目元が、どこか小動物のような愛らしさだ。凛とした佐藤茜先輩とは実に対照的と言っていい。初対面の俺達を見て、おどおどと眼鏡の3年生の後ろに隠れる辺り――実に、こう――意地悪したくもなる。
「新島さん。この子がウチの期待の新人、各務さんよ」
「ども、よろしくね。新聞部の新島です」
「あ、よ、よろしくお願いします。か、各務奈美です」
 声も良い。容姿に違わぬ、いわゆる鈴が鳴るような可愛さだ。緊張しているのか、自分の名前の所で声が上ずってしまうのも個人的にはポイントが高い。ふわふわとした癖っ毛も柔らかそうで、全体的には甘い砂糖菓子のような女の子だ。
 そして、何より素晴らしいのが――。
 各務の奈美ちゃんが、未だレオタードのままであるという点にある。
「新島さん、私これから病院の方に行かなきゃならないの。取材終わったら、帰してあげてね」
「はい、了解です」と、ちらちら俺の方を伺いつつ新島が答える。
 壁掛け時計を見た眼鏡さんは、すれ違い際に小声で「大人しい子だから、苛めないでね」と言い残し、さっと鞄を持って出て行ってしまった。

 後に新島は語る。
「部長さんが出て行った時ね。光ったのよ、目が。こう、キュピーンと。漫画みたいに。アレは落とし穴に嵌った羊を見つけた時の狼の目よ」

 さて、例によって取材はきっちりと行われた。
 改めて名前を聞く所から始まり、新体操を始めたきっかけや、これまでの成績など。前回の佐藤先輩の時ほど突っ込んだ質問はないが、男の視線をどう感じるかなどというギリギリの質問でべそをかかせた一幕もあったりした。個人的には新島グッジョブだが。
 一通りの質問を終えて満足した新島は、次にカメラを構えた。俺もレフ版を掲げて写真撮影の準備をするが、肝心の奈美ちゃんは泣きそうな顔でおどおどしている。言うまでもなく自分の体をジィッと見つめる俺の視線が気になるのだろう。
「じゃあ、各務さん。何かポーズをとってくれる?」
 そんな彼女に気を使う風も無く新島は急かした。いや、取り澄ました顔をしてはいるが、口の端が吊り上がっている。間違いなく苛めて楽しんでいるのだ。気の弱い一年生を。
 いやもう、実に酷いヤツだ。流石俺の相方を務めるだけの事はある。
「……は、はい」
 ほとんど泣きそうな顔で、だが観念したのか、きゅっと口を結んで、レオタード姿の彼女はリボンを構えた。
「うん、いいねいいね。あ、もうちょっと足開いて。――そうそう、手もあげてくれるかしら。ひゃあ、いいねえ。今度はリボン振ってみて。うん、ほら、クルクルクルーって回すやつ。うん、いいじゃない。あ、もうちょっと顎上げて、そうそう。良し、じゃあ寝転んでくれるかな? あ、リボンは、こう、体に巻きつける感じで。おおおー、いいね! こりゃあお姉さんグッときちゃうなあ。うん、もうちょっと太もも開いて見ようか。手はこう、力を抜いてダランとさせる方向で」
 パシャパシャと狭い部屋にシャッターを切る音が間断無く続く。ノリノリの新島は矢継ぎ早にポーズの注文をつけ、各務の奈美ちゃんは逆らえずに言いなりになっている。
 レフ版を掲げ、その光景に見入っていた俺がハッと気がついた時には、レオタードの少女はだらしなく床に寝そべり、体にリボンを巻いて指を咥えさせられていた。
 実に不健全な写真になりそうだ。これを学校新聞に掲載した暁には青少年に悪影響を与えてしまいそうである。
「いやあ、いい写真撮れたよー。ありがとね各務さん。今度の新聞、楽しみにしておいて」

 ――お膳立ては出来ました。後は旦那の好きなようにしてくだせえ。でも泣かせたらダメよ?
 そうアイコンタクトを送って寄越した新島は、さっとカメラを仕舞うとキシシと笑いながら部屋を出て行った。やるだけやっておいて風のように立ち去った彼女を、寝そべったまま涙目で見送った奈美ちゃんはというと、今にも本泣きに移行しようかという様子である。
 うむ。これは新島から俺への挑戦に違いない。
 そういう訳で今日のテーマは『気弱なレオタード少女を泣かさずに意地悪する』に決定だ。

「各務さん。大丈夫、ホラ、俺の目を見て」
 クスンクスンとべそをかいている彼女が、チラッとこちらを見た瞬間――俺の瞳が妖しく光った。今日も魔眼は絶好調である。
 さて、ここからが本番である。如何に絶対の好意で縛られているといっても、この子はちょっと突付いただけで泣き出しそうだ。先ずは安心させる所から始めよう。
 よろよろと起き上がった彼女と目線を合わせるようにしゃがみ、ニッコリと笑ってみせる。
「大変な目に合っちゃったな」
「……」
 口をキュッと結んだまま無言で頷く奈美ちゃん。きっと自分のあられもない写真が新聞に載る事を恐れているのだろう。
「大丈夫、大丈夫。変な写真は俺が使わせないよ、安心して」
 まぁ、新島はあれで記者としてのモラルは確かな人間である。記事にする時は一番無難なのを選ぶと思うのだが。ここは一つ、俺のお陰で、という事にしておこう。
 グッと顎を引き締め、頼りになりそうな先輩を演じて見せる。気恥ずかしい事この上ないが、これはこれで楽しくもある。何より――。
「あ、ありがとう御座います。……先輩」
 などと年下の女の子に頼られるのは、妙にゾクゾクとした気持ちよさがあるのだからして。これはもう止められん。
 俺は座ったままの彼女の横に回り、そっと細い肩を抱いた。驚かせないよう、ゆっくりと。
「今度は俺が、話を聞いてもいいかな?」
「あ……、はい。――ひゃんッ」
 顔は頼りになる先輩を演じたまま、肩に置いた手をサワリと動かす。そのまま止まらず、背中や腕を指先で触れて廻る。
「あ、あの……先輩」
「リボンが得意なんだって?」
「手が……あ、――はい」
 触られるのは困る、とは言わせない。俺は落ちていたリボンを取り、彼女に握らせた。当然、そこかしこに指を滑らせつつだ。微妙な刺激に落ち着かない事甚だしい奈美ちゃんだが、それでも逆らわずにリボンを取ってしまう辺り、見事な苛められッ娘体質だ。
「どんな風に動かすのかな?」
「あ、ぁん……その。こ、こうです――んッ」
 弱々しくリボンを振る彼女の後ろへと移動した俺は、片手で細い腰を抱き、やはり指先で薄い腹に触れる。更にもう片手で、リボンを持った奈美ちゃんの腕を人差し指でスーッと撫でた。
「もう少しやってみて。見てみたい」
「は、……ぁ、んッ。はい」
 下唇を力なく噛んで、上目遣いのそれとない抗議の視線を感じたが、俺は笑顔でキャンセル。リボン演技の続行を促した。
 しなやか、とは言い難い動きで奈美ちゃんの腕が振るわれる。本来であればリボンは螺旋を描くのだろうが、プルプル震えながらでは上手くいく筈も無い。挙句、ポトリとリボンを落としてしまう始末である。
「……あ、ぁ、あ」
 そして当然の帰結として、彼女はじわりと目に涙を浮かべた。うむ、弱い。だがここで泣かせてしまっては負けである。テーマ的に。俺は咄嗟に、だがやんわりと奈美ちゃんの頭を抱え、優しく撫でた。
「んッと、落ちちゃったな」
「……ゴメンなさい。わ、私――その、いつも大事な時に失敗して……」
「いやいや、こういう事もあるさ。ホラ、大丈夫。もう一度、ね?」
 彼女はコクンと頷いて、落ちたリボンを拾った。気を取り直したようで、もう涙はない。良し、セーフ。
 今度はそっと腰を抱くだけにしてリボンを振るわせる。
 手首のスナップが十分に効き、ヒュッと宙を舞ったリボンは見事な螺旋を描いた。
「おお! 凄いな。綺麗なもんだ」
 これは普通に感心した。奈美ちゃんは座ったまま手首を返しただけだ。それで、長いリボンを思い通りに動かすのだから大した物である。なるほど『期待の新人』に偽りはないらしい。
 へえぇ、と俺が感嘆の声を上げたのが嬉しかったのか、奈美ちゃんは続けてリボンを虚空に舞わせた。その度に、細く長い紐が空中で形を変える。
「ほぉー。いや凄い。うん」
 えへへ、とはにかんで笑う可愛い後輩。そのまま頭を撫でて甘やかしたい衝動に駆られるが、俺は気力を絞ってグッと堪えた。今回のテーマはあくまで『泣かさないように苛める』だ。甘やかすのは後でも出来る。今は心を鬼にして、ちょっとずつ苛めるべし。
「いやあ、驚いた。沢山練習したろう」
「ぁ、……先輩。ん、は、はい」
 止めていた手の動きを再開。今度は指の腹まで使って彼女の体の輪郭をなぞる。レオタードの感触が心地よく、目にも楽しい。片手で脇腹をなぞりつつ、もう片手で彼女の腕を掴むように、だが力を込めず撫で上げる。
「んッ。んんッ――ぁん!」
 短く、くぐもった声を喉の奥で押し殺してはいるが、微妙な刺激に彼女の体が反応しつつあるのは明白だった。吐息にも時折甘さが混じっている。
 強い好意を抱く相手に抱きかかえられ、体中を触られればそれも当然であろう。最も、俺の場合は魔眼様々な訳だが。ビバ不思議パワー。
「こんなに細い手なのになぁ」
「んッ、あ、福沢先輩……その」
 淡いピンクのレオタードに包まれた奈美ちゃんの腕を取り、しげしげと見つめつつ、そっと撫でる。その間、別行動を取っている反対の手は彼女の腰から徐々に上昇。僅かに浮いたアバラを擦りつつ、ついに柔らかい丘の裾野にまで到達した。
「筋肉なんてまるでついてないのに、結構手首強いんだ」
「あ、ぁ、その……強くなんて、ないんですが。んッ……あ、そこは」
 話の焦点も、俺の視線も、彼女の右腕に絞られてはいるのだが、奈美ちゃんとしては登頂を開始した俺の左手が気になってしょうがないらしい。質問には答えつつも、ちらちらと自分の胸元を見ている。
「へぇ。じゃあ、やっぱりコツみたいな物があるのかな?」
「ひんッ……。あ、ま、毎日、練習を――。あの、先輩……手が」
 手の事など知りませんヨ? とばかりにニコリと笑い、話題を新体操方面から離さない俺。どう動かしてるのかと聞くと、彼女は思い切り胸を気にしながらも律儀に「こうです」と手首を振ってくれる。
 俺の左手探検隊はその間も弛む事無く作戦遂行中である。現在、彼女の左丘中腹にベースキャンプを張り、地質調査を開始した所だ。平たく言うと、左の乳房を優しく揉み始めたわけだが。
「あ、んッ! せ、先輩……そんなに、されたら。んッ……ぁ」
「うん? 手首、痛かった? ゴメンよ」
「あ、あの。……そっちじゃ、んッ、ぁ……あ」
 地質調査で判明した事だが。彼女の丘は、その標高に似合わず、随分と強い弾力がある。この報告を受けた俺の右脳調査班はすぐさま分析を開始。結果、視認しているよりも本来の標高は高く、現在は強い圧力によって凝縮されているとの予想が出た。
 要するに、彼女のバストは下着で押さえつけられているらしいという事だ。これはいけない。彼女の為にもならない。
「所で奈美ちゃん。息が苦しそうだけど、大丈夫?」
「あ、あ、ぁ。その……練習の時は、その――ワンサイズ小さいインナーを……」
「そうなんだ。でもどうして? 窮屈でしょ?」
「そ、その……動く時に……んッ、あ、じゃ、邪魔に――」
 うむ。さもありなん。確かに胸が揺れたら動き辛かろう。相変わらず触られ続けている彼女は顔を真っ赤に染めている。ただ、息遣いは変に荒い。
 これは解放してあげなければなるまい。苛めるのはいいが、苦しめるのは本意でないが故に。
「そのままじゃ苦しいだろ? レオタード、脱いでいいよ」
「ぇ……で、でも。――んッ……ぁ、あ」
「大丈夫。俺しかいないから、ね?」
「んッ、あ、ぁ、その……せ、先輩――」
 まぁ、脱いでいいと言われても困るだろう。暑い部屋で上着を脱ぐのとは訳が違うのだから。サワサワと彼女の胸に両手を這わせ、だがこのままでは埒が明かないと思った俺は、ホンのちょっとだけ魔眼の力を強めた。
「俺も、見たいな。奈美ちゃんの胸」
「あ……せ、先輩」
 じっと見詰め合う事暫し、彼女は小さくコクンと頷くと、レオタードの肩口に手をかけた。そしてゆっくりと下ろしてく。
 ふわふわの髪の小柄な女の子が、徐々にその白い素肌をあらわにしていく。その光景に、俺は固唾を飲んだ。ゴクリと響く音に、奈美ちゃんは一瞬動きを止めて俺を見上げる。ちょっと目に涙。だがここで「もういい」とは言えない。俺は何事もなかったかのように、優しげな先輩の顔で微笑んでみせた。
「続けて」
「ぁ、……はい」
 俺の膝の上で、後ろから抱えられ、彼女は胸元でクロスさせた腕を、ゆっくりとレオタードごと下ろしていく。
「は、あ、ぁぁぁ……」
 何とも言えない吐息を漏らし、ピンクのレオタードは彼女のお腹の辺りまで下げられた。そして片方ずつ抜かれる腕と腕。本当に華奢だ。ほっそりとした両腕は、それこそ触れただけで折れてしまいそうである。これがあのリボンを自在に動かすのだから不思議ではある。
「んッ……あの、先輩?」
 レオタードから抜いた腕を再びクロスさせ、顕になったインナー姿を隠そうとする奈美ちゃん。おどおどと震えている小動物めいた様子が、とても目に楽しい。が、水着のようなインナーを外させるのが目的である。俺は可愛らしい鎖骨に掛かる肩紐をそっと触り、やはり微笑んで見せた。
「これも、ね」
 彼女はクスンと鼻を鳴らし、恐る恐る手を伸ばす。ゆっくりと、本当にゆっくりとした動作で肩紐を外し、インナーを同じように下ろしていく。
 目に飛び込んでくる白い胸元が眩しい。見える範囲が徐々に広くなるにつれて、俺の興奮の度合いも高くなってくる。が、ここで急かしはすまい。最後はあくまで彼女自身の意思で脱いで貰うのだ。
「……ぁ、ぁ、あ。……んっ」
 そして。ついにインナーがレオタードと同じ位置まで下がりきった。俺の前で上半身裸になった奈美ちゃんは、流石にキュッと目を瞑り、ふるふると羞恥に震えている。
「さあ、手をどけて。奈美ちゃん」
「……んッ」
 いやいやと小さく首を振って、背を丸める彼女。恥かしがるその姿が余りに可愛らしくて、どうにも困る。殊に丸見えの背中は、見ているだけでどうにかなりそうだ。
 俺は思いあぐねて、自分もYシャツと肌着代わりのTシャツを脱いだ。そしておもむろにピタッと肌を合わせる。
「んひゃッ! あ、ぁ……んああ」
 これは――堪らない。俺よりもやや冷たい彼女の背中は、だが滑らかで、その素肌の感触は脳髄に電気が走るかと思うほど。しかし湧き上がる衝動をどうにか堪え、俺は優しげに奈美ちゃんを抱きしめた。
 突然の裸の触れ合いに身を竦ませていた彼女は、ゆったりと時間をかけて撫でている内に、徐々に落ち着きを取り戻したようで、俺の膝の上で大人しく力を抜いた。
「怖い?」
「ぁ……いえ、その。大丈夫――です」
「ん。よしよし」
 俺の体から伝わる温かさが気に入ったのか、奈美ちゃんは次第に自分から寄りかかるようになった。とは言え、依然胸は手で隠したままだ。
 うむ。落ち着いた所でテーマに戻ろう。
 後ろから彼女の肘の辺りを優しく撫でる。
「奈美ちゃん。手、退けてくれるかな?」
「え……あ、ぁ……それは」
 上目遣いで「勘弁して」と訴えてくるが、キャンセルである。例によって頼りになりそうな先輩面で微笑み、俺は少し首をかしげて見せた。
「俺の事、嫌いかな?」
「ッ! そんな事! ……ないです。その――」
 魅了の魔眼がばっちり効いている現在、彼女は完全に俺の虜となっている。何よりも俺に嫌われたくないと思っている筈なのだ。だから、ちょっと横を向いて「ん」と悲しげな顔を見せれば――。
「あ、その! せ、先輩……私、――で、出来ますから」
 となるのである。我ながら些か卑怯かとも思うが、そこはそれ、そんな事言ったら魔眼の保有者は務まりますまい。
「じゃあ、奈美ちゃん」
「は、……はい」
 プルプルと震える手が、ゆっくり胸元からどかされる。白く、ふっくらとした乳房は予想を超えて綺麗だった。薄い色の乳首も可愛い事この上ない。
「綺麗だ。奈美ちゃん」
「あ、……そんな。んっ、あ……あんッ!」
 そうなると当然、上から見下ろすだけでは満足できない訳で。俺はそっと手を伸ばして、彼女の柔らかな双丘に触れた。壊れ物を扱うように、優しく、急がず。
 新島や佐藤先輩のような肉感性は無い。例えるなら極上の綿菓子のようにふわりとしていた。実際の大きさは佐藤先輩に届かない程度だが、そもそも彼女自身小柄なので、結構豊かに感じる。何より恐るべきはその中毒性の高さで、俺は思わず呆としたまま手を離せずにいた。
「んッ、あッ! あぁ……んっ、ふ、福沢……先輩ッ! あ、んッ……」
 で、気がついてみればギリギリセーフだった。奈美ちゃんは例によって目に涙を浮かべ、今にも零れ落ちそうだ。いけない、我を忘れていた。吐息は随分甘くなっているが、声音にはやや脅えが混じっている。無言で乳を揉まれていたのが怖かったのだろう。
 俺は慌てて、だがそうと悟られぬよう、ゆっくり手を離し、腰の辺りを軽く抱いた。
「ん。可愛いな、奈美ちゃん」
「ぁ、……はぁ。んッ――先輩」
 ちゅ、と彼女の目元に口を付け、浮かんだ涙を吸い取る。流れていないのでセーフの筈だ。泣かせてない。大丈夫、泣かせてない。
 さて、ここから彼女に何をさせるかだが。このまま俺が愛撫してしまってはテーマにもとる。奈美ちゃんは、どうも今の目元へのキスで安心してしまったらしく、うっとりと俺にもたれ掛かり、何処を撫でても甘く鼻を鳴らすだけだ。
 暫し――彼女の乳首を擦りつつ――考える。
「んっ、ぁ……先輩。先輩……あ、私、んっ」
 うむ、そうだ。ここは逆転の発想だ。俺が彼女を、ではなく、俺が彼女に愛撫してもらうのだ。そうと決まれば話は早い。俺は手を止め、耳元で囁いた。
「奈美ちゃん」
「ぁ、……はい」
「今度は君が、俺を撫でてくれるかな?」
「私が……先輩を?」
「そう、優しくな」
 フフフ、という悪魔の笑みを心の内に隠しつつ、俺は彼女の手を取って正面を向かせる。さて、この娘はどんなパフォーマンスを見せてくれるのだろう。だらりと手を下げ、ノーガードの構えを取った俺を前に、奈美ちゃんは眉根を寄せて黙考。やがておずおずと俺の胸板に触れ――文字通り――手探りであちこちを撫でて廻る。
 だが俺は微動だにしない。
 心なしか焦ってきたのか、彼女は心持ち身を乗り出して、胸板だけでなく、背中や鎖骨の辺りまで手を伸ばした。
 それでも俺は微動だにしない。
「う、あ……先輩。――私、へ、下手ですか?」
 いやもう、うるうると涙目になって見上げてくるこの娘の可愛い事といったら。
 ポムポムと頭を撫で「大丈夫、嬉しいよ」などと余裕の発言をかまして見せる俺なのだが、実の所、彼女のつたない愛撫は官能的ですらあった。細く綺麗な指が俺の肌に触れる度に、ゾクゾクとした感触が背筋に走るのである。思わず甘い声を上げてしまうほどに。
 だが、自分の嬌声など聞きたくも無い、ではなく。反応してしまっては苛めにならない。彼女には『下手なのに続けさせられている』という認識を持って欲しいのである。
 俺は優しげに微笑みつつ、内心で焦りを隠し、口をへの字にして涙を堪える奈美ちゃんを見守る事にしたのだが――。
「う、うう。ご、ゴメンなさい。ひくっ……私」
 彼女はあっという間に根を上げた。いやはや、感心するほどの弱さだ。それこそがこの娘の魅力ではあるのだが。
 再び頭をポムポムし、次の策を練る。宥めすかして続けさせても、泣いてしまうだけだろうし、ここに来て反応するのもわざとらしい。何か面白い方法は無いだろうか、と頭を捻る。
 と、視界に入ったのは俺の鞄だった。
 あるじゃないか! 彼女にぴったりな素敵アイテムが。
「時に奈美ちゃん。君は甘い物、好きかな?」
 足を引っ掛けて鞄を寄せ、中から一本のボトルを取り出す。そう、つい先程、部室で猪原先輩を気持ちよく鳴かせていたアレである。
「それは……メープルシロップ、ですか?」
「そう。これを、こうして」
 俺の胸元にタラタラと垂らす。奈美ちゃんはどこか陶然とした顔でその光景に見入っていた。そして「ハァ」と熱い吐息を漏らす。俺が何を期待しているのか、言わずとも悟ったのだろう。
「じゃあ、――舐めてくれるかな?」
「……」
 無言でコクリと頷き、彼女は俺の肩に手を置いて、一度ゴクリと唾を飲んだ。そのまま顔を近づけて、小さな舌を突き出し、俺の胸元をチロリと舐める。
 その衝撃に、俺は思わず唇を噛んだ。
 気持ち良いのである。ヤバイくらいに。正直甘く見ていた。まさかこれほどとは。
「ん、んッ――ん。……甘い、です。んッ、ちゅ――ん」
 俺の腹に腰をかけ、小さな舌でチロチロとシロップを舐め取る少女。裸の上半身はうっすらと上気し、真っ白だった筈の肌が赤みを帯びている。
「んっ、んッ――んんッ。あ、……先輩。――もっと」
「あ、うん」
 傍らに置かれたボトルを取り、俺は再び胸元にシロップを垂らした。そして垂らしてから気がついた。
 ヤバイ! 今、俺ノータイムで言う事聞いてた。
 異様に赤く染まった顔、トロンと垂れ下がった目、端から涎を垂らす唇。むむむ、これが彼女の本気の顔か。この俺を持ってしてもキャンセル不可のおねだり。気が弱いのは確かだが、この娘は別の意味で強力だ。恐ろしくすらある。長ずれば魔性の女と呼ばれるようになるのかもしれん。
「ん、ちゅ……んぅ。……ん、んっ――あふ」
「な、奈美ちゃん?」
「んッんっ――ちゅ、んふッ……んぁ、んッ」
 聞いてません。何だか夢中でシロップを舐めている彼女は、声を掛けても気付いてくれない。こうなるともう、シロップがなくなるまで待つ他ないのだが、勿論手をこまねいてただ待つ必要など無い。俺は腰の上で揺れる小振りの尻や、最初から剥き出しの細いももに手を伸ばした。
「んッ! んーッ……ぁ、んッんッ――あふ、ぁ。んッ」
 シロップを舐めだしてからの奈美ちゃんは、完全に火が付いたらしく、俺の愛撫に対し、甘い悲鳴で反応してくれた。それでもシロップを舐め続けてはいるのだが。
 いけない。何がいけないかと言うと、俺の状態がいけない。女の子が夢中で体を舐めてくるという状況に、凄い勢いで性感が高まってきているのだ。
 これ以上、体を舐められてはマズイ。最悪、ズボンの中で暴発してしまう。俺の物の直ぐ側で揺れている可愛い尻の感触が追い討ちだ。
「んッ、ちゅ。んっ。せ、先輩。……もっと、欲しい」
「お、おう。今、な」
 ポーッとした目で次をねだる奈美ちゃんの声に、俺はまたもノータイムでボトルを握ってしまう。が、グッと堪えて垂らす代わりに彼女の腰を撫でる。
「んッ、はぁっ――んんッ! ぁ、ぁ、先輩……」
 さて、どうにか奈美ちゃんの意識を逸らす事に成功した訳だが。問題は次の一手だ。この娘が困りそうな所にメープルシロップを垂らしたい所。真っ先に思いつくのは当然、固くなった俺の物だが、これは却下。流石に一発で泣いてしまうだろう。と、なると――。
 ピコン、と俺の脳内ランプが点灯。いい事を思いついた。
「んッ、はぁ……んあッ。――ひぅ! あ、あぁ」
 俺は彼女の腰を撫でながら、ボトルを掲げ、その注ぎ口を自分の唇で挟んだ。そしてボトルを傾ける。口一杯に広がるメープルシロップは、正直目が回るほど甘い。
「ぁ、あ、あーーッ! う、うぁあああ」
 ボトルに残ったシロップの大半が、俺の口に注がれてしまったと見た奈美ちゃんは、世にも悲しげな声で悲鳴を上げた。何かこう、小さな子供からお気に入りの玩具を取り上げてしまったような罪悪感がある。むう、俺今すっごい苛めてる。
「……ん」
 しかしながら、俺が頬を膨らませて飲み込んでない事をアピールすると、彼女は悲鳴を止め安堵の溜息を漏らした。そして上目遣いでおずおずと顔を近づけてくる。
「んっ――」
 彼女は俺の目の前で暫く逡巡していたが、やがて決心したように目を瞑り、唇を俺の口へと寄せてきた。
「んッ、ちゅ……んっ。はふ、んッ――ん」
 俺が口から零すシロップを夢中で舐め、吸い取る彼女。肩に置いた手は、やがて俺の頭を抱えるように首筋に回され、ギュッと抱いて離そうとしない。
「んんッ! んッ――ぷはッ、……ん、んくッ……」
 やがて零れるシロップを舐め取るだけに飽き足らなくなったのか、奈美ちゃんは自分から俺の口に吸い付き、甘い蜜を啜りだした。だが、それでも足りないとばかりに、彼女は自分の小さな舌で俺の唇を割り、口腔に侵入すらしてきたのである。
 うむ、参った。困らせてべそをかかせる筈が、あっさりと順応した上に、あまつさえ俺を蹂躙しに掛かるとは。
 俺の口の中でチロチロと蠢く奈美ちゃんの舌。遠慮も容赦もなく歯を舌を舐められる。
 これは意識が飛びそうな快感だ。
 猪原先輩にも覚えさせよう。などと考えられるほどの余裕はなくなってきた。一度は収まった暴発感が再びやって来たのだ。
 そろそろと手を伸ばし、俺は未だインナーとレオタードに包まれたままの、彼女の股間に触れた。
「んんッ! んふッ! ……んッ、く」
 指先にじわりと伝わる粘性の水分。秘所への直接的な刺激は今までなかったが、それでも十分濡れているようだった。しかしながら、大事な場所を触られて、尚、シロップ啜りを止めようとしない彼女の根性は見上げたものだと思う。
 俺は両手でもって、彼女のレオタードを脱がしに掛かった。都合の良い事に、奈美ちゃんは俺の首に抱きついたまま離れない。そっと顔を上げると、それだけで彼女の腰は持ち上がった。
 よく伸びる素材が幸いして、レオタードとインナーは簡単に膝まで下ろせた。目を開けると飛び込んでくるのは奈美ちゃんの顔のドアップなので良くは見えないが、タラリと糸を引いて彼女の秘所からは愛液が零れている。
「んあッ! ぁ、あ、あ! ふ、福沢先輩……ぁ、あッ。んッ、ん」
 手探りで割れ目の位置を突き止め、スリットに沿って指を上下させる。流石にここまでされれば奈美ちゃんも口を離した。
 お互い、涎でべたべただ。僅かに苦笑するが、彼女は声にならない甘い呻きを漏らすだけ。準備はとっくに整っているようだった。
 そのまま片手で秘裂を愛撫しつつ、もう片手で俺は自分のペニスを解放。こっちはこっちで用意は万端。いつにも増して固くそそり立っている。
「――ッ!! ぁ、あ、そ、それは」
「うん、俺のだ。奈美ちゃん」
 じっと見詰め合う事数秒。彼女はトロンとした顔のまま、だがはっきりと頷いた。
 途端、僅かに光る俺のデビルアイ。
 濡れているとは言え、彼女の秘所は目に見えて小さく、未成熟。初めて男を迎えるに当たっては痛みが余りにも強かろう。という訳で、若干催眠作用を施したのだ。
「大丈夫。『あんまり痛くない』からね」
「……はい」
 催眠は所詮催眠なので痛みが消える事はない。が、痛くないと思い込ませる事で、痛いという認識の焦点をぼかすくらいは出来るのだ。因みに、猪原先輩で試し済みなので効果は確かである。
 さて。
 レオタードとインナーを完全に脱がせられ、ついに全裸になった奈美ちゃんが俺の腰を跨ぐような位置で両膝を付く。俺はちょっとだけ彼女の腰を下ろさせると、ペニスを手にとって膣口に先端を当てた。
「んッ! はぁぁ……、あの。せ、先輩?」
「さあ、奈美ちゃん。自分で入れてご覧」
「え? あ、ぁ……あの。――んんッ!」
 良し良し、と内心で頷く。今回のテーマは『レオタードの女の子を泣かさず苛める』だ。レオタードは脱がせてしまったが。
 この状況で半泣きの顔を浮かべさせられたのは意義が高い。シロップ攻防戦で押されてしまっただけに。
「大丈夫。怖くないよ」
「あ、……は、はい。ぁ、でも……」
 中々踏ん切りがつかない彼女。やはりこの娘には困って潤んだ瞳が良く似合う。俺は例によって例の如く頼りになる先輩の顔で微笑み、彼女の腰をそっと撫でた。
「大丈夫。そのまま、ゆっくり下ろせば良いんだ」
「うぅ、うぁ……んッ! あ、あ、あああッ!」
 スンスンと鼻を鳴らし、だが僅かずつ、彼女の腰が降りる。「そのままゆっくり」と言おうとしたが、時既に遅し。互いの性器を触れ合わせた刺激で彼女の力が一瞬抜けると、ぬぷ、という音と共にペニスの先端が一気に埋まってしまった。
 痛みは少ないようだが、初めて受け入れたペニスの刺激が奈美ちゃんの想像以上に強かったようで、彼女は中途半端な位置で動きを止め、俺の肩に捕まった。そしてそのまま進む事も戻る事も出来ずにいる。
「う、う、ううう……うあぁ」
 いかん! 泣く!
 あっという間に目じりに溜まった涙の粒が、見る見る大きくなっていく。俺は咄嗟に彼女を抱きしめ、腰をしっかり支えて体を固定した。その上で、目元の涙をキスで吸い取る。
「うん、よく頑張ったな。後は俺が動くから、君は抱きついているだけでいいよ」
 ちゅっちゅっと細かいキスを降らせつつ、囁くと、奈美ちゃんは直ぐに大人しくなり、安心した様子で俺に身を任せてきた。
 うむ、セーフセーフ。今度もギリギリだったけど。
「あッ! んッ……う、くうぅぅ! ん、んんんあッ!」
 仕切り直しとして一息ついた後、俺は彼女の腰を下ろしていく。ズブ、と一度は止まったペニスが彼女の中に埋まっていく。狭い狭い肉の重圧を押しのけ、挿入されていく俺の物。途中、結構な抵抗を感じたが、掴んだ細い腰を力づく押し下げていく。
「あ、あ、あ……ふ、福沢先輩――ぁ、あ、ああ!」
 全てが埋まった頃には、奈美ちゃんの目は虚ろになり、俺の名前以外にはまともな言葉を喋れない様子だ。
「少し、動くよ」
「あ、ぁ、……あ、ぃ――ッ! ッ!」
 それでもコクコクと頷いて俺の言葉に反応する。が、既に彼女の高まりは絶頂まで秒読み段階といった所だ。全身を細かく震えさせ、俺の肩を掴んだ指が、ギュッと絞まっている。
「あ、ぁ――あッ! ん、んあ……」
 ズルと埋まったペニスを引き抜き、再び押し込む。抽送と言うにはおこがましい程のゆっくりしたペースで、俺は彼女の体を上下させた。それで奈美ちゃんには十分過ぎる刺激になっているようで、首を激しく振って快楽の波に打ち震えている。
 刺激十分なのは実の所俺も同じで、ペニスが握り締めらていると錯覚するほど狭い膣は、だが同時に細かい襞がトロトロの愛液で絡みつき、表面だけは優しく愛撫されているようだ。
「んッ、奈美ちゃん。もう、いくよ」
「んあぁッ! ……はいッ。は、いッ――ん、あぁ!」
 射精の衝動が急激に大きくなり、もう数秒も我慢できない。俺は気力を振り絞って彼女の最奥の壁にペニスを擦り付ける。その刺激で、奈美ちゃんは達した。俺の首にすがりついたままガクガクと大きく体を痙攣させ、糸が切れたように全身の力が消えた。
 それに合わせるように、きゅうと収縮する膣内。その中に俺の精液が放出される。たっぷりと、彼女の中を一杯にして尚溢れる程。
「ふぅ、ぁ……ぁ、ん――ん」
 ゴクリと唾を飲んだのは一体どちらだったのか、俺と各務の奈美ちゃんは対面座位で繋がったままピタリと体を合わせ、そのまま暫く快感の余韻に浸った。

   /

 事の後、何が困ったかと言うと、奈美ちゃんが俺から離れようとしないのが困った。
 縋り付いた手を剥がそうとすると、無言のまま涙目で抗議してくるのである。早く体を拭かないと2人ともガビガビになっちゃうぞと脅し、漸く離れた頃には、既に2人ともガビガビだった。汗、唾液、愛液、精液といったお馴染みの体液に加え、メープルシロップが混ざっていたのが拙かった。変に体が痒いのである。
「あ、先輩。爪で引っかいたらダメです」
 濡れタオルで正気を取り戻した奈美ちゃんが、女の子らしく細やかな心遣いを発揮して丁寧に俺の体を拭ってくれるが、痒いものは痒い。自業自得ではあるが。

 その後、2人で服を着て、最後に床に零れたセックスの痕跡を始末する。終始真っ赤な顔で恥かしげに俯いていた奈美ちゃんを軽く言葉で苛めつつ、俺達は床をウェットティッシュと普通のティッシュで磨き上げた。
「ここ舐めると、きっと奈美ちゃんの味がするぞう」
「あ、ぅ。先輩、……そんな事」
 とかなんとか。
 篭っていた小ホールを出ると、上の方から僅かに歓声が聞こえた。卓球部が試合でもやっているのだろうか。何にしても遅くなりすぎなかったのは良かった。それでも2人きりになってから1時間以上は経過しているのだが。
「奈美ちゃんは寮だっけ?」
「あ、はい。桜寮です」
 スススと音もなく近寄り、歩きながら彼女は俺の腕に抱きついた。極々自然に。
 いやはや、なんだかエライ事懐かれてしまったようだ。あれだけの事をしておいて他人面するなど論外だし、可愛い子に懐かれて悪い気などしよう筈も無いので、そのまま好きなようにさせておく。
「福沢先輩。今日は、その……」
「あ、うん」
 2人くっ付いて体育館の階段を登る。途中、奈美ちゃんは意を決したように話を振ってきた。
「あ、あの……私、大会になると、ダメなんです」
「そうか。緊張しちゃう?」
「はい。それで、転んだり、リボン落としたり」
 新島とのインタビューでも「本番に弱いんです」と言っていたが、まぁ納得だ。というか、この娘が人前で堂々と演技する姿が思い浮かばない。察するに、演技が終わった頃には必ずべそをかいているのだろう。
「でも、その……。ちょっと、自信ついたかもしれません。あ、あの、先輩がリボン、褒めてくれましたし。そ、その……か、可愛がってくれましたし」
「うん、そかそか。まあ、実際リボンは大したものだし、何より君は可愛いし」
 当然の事ですヨ? ははは。と笑ってみせると、彼女は軽く口を尖らせた。
「……ちょっと、意地悪でしたけど」
 うむ。それは今回のテーマであったが故に、仕方のない事なのです。わははと笑って誤魔化し、頭を撫でると、奈美ちゃんははにかんで嬉しそうに目を細めた。
 やがて階段を登りきり、俺達は第二体育館のロビーに出た。
 名残惜しそうに彼女は俺の腕をキュッと抱きしめると、そっと離れる、と思いきや再びくっ付いてきた。
「あの! せ、先輩……」
「うん。また、メープルシロップ買っておくから、な」
 キザを覚悟で彼女の耳元に口を寄せ、そっと囁いてから頬に口づける。ホゥと甘い吐息を一つ漏らし、彼女は無言でコクリと頷くと、今度こそ腕を離した。そしてタタタと小走りに玄関まで行って一度振り向き、ペコリとお辞儀を残して、やはりタタタと駆けていった。
 いやはや、最後まで可愛い子だ。是非、弱点の克服などせずに、そのままでいて欲しいものである。

 さて。もう言うまでも無いが、各務奈美嬢は俺の物である。最早、俺以外の誰の物にもならない。彼女に惚れていた男子連中には申し訳ないが、想像の中で付き合うくらいは場合によっては許さない事も無い。ただ、不用意に近づいたりすると不幸になりますヨ? と全校生徒に無言の警告を発し、俺はレフ版を抱えて歩き出し、だがフッと足を止めた。 この板はどうすればいいんだろうか?
「メープルシロップねえ」
「うわああッ! で、出た」
「ミスタ福沢は、メープルシロップを、どう使ったのかな?」
 新聞部の部室って何処にあったっけ、と記憶を探る俺の背後から、いつぞやと同じように新島里美が現れた。猫の咥えて来た何かを見るような目つきで俺を見つつ。
「い、いや。バームクーヘンにね、つけてね。食べると甘いんです」
「へぇ、バームクーヘンに」
 嘘は言っていない。間違いなく。
 そのバームクーヘンはレオタード着てましたよね? と目で語る新島だが、残念ながらハズレだ。俺の食ったバームクーヘンはまた別のバームクーヘンであるのだからして。
「うーん。佐藤先輩の時にも思ったんだけど」
「何をさ?」
「どうして、こんな冴えない男に上玉がひっかかるのかしら?」
 上玉言うな。冴えないのは仕方ないけど。
 新島は、何か変なフェロモンでも出てるのかねえ、と訝しげに眉をひそめ、クンクンと鼻を鳴らして俺の匂いを嗅ぎまわる。と、その動きがピタリと止まった。
「メープルシロップの匂い。何故に君の体から?」
「うむ」
 俺は重々しく頷くと、カッと目を見開いて体ごと彼女の方を向いた。
「俺が、食われたのだッ!」
「君が、食われたのかッ!」
「貪られました」
「貪られましたか」
 変な沈黙が辺りを支配する。夕暮れ時の慶光学園第二体育館前。遠くに聞こえる運動部の掛け声がやけに寂しげだ。
 コホンと咳払いを一つ打った俺は、わざとらしくも話題を変えた。
「で、どうした新島の。って、そうか。レフ版回収に来てくれたのか」
「いや、メインは君の迎えなんだけど」
 フッ、と横を向く新島里美嬢。そのままどんよりとした影を背負ってうずくまり、落ちていた小枝で地面に落書きを始めた。
「……良いけどさ、私なんて所詮、便利なだけの女だし。佐藤先輩程おしとやかでも、各務さん程可愛くもないし」
「や、や。うん、お前はホラ。相方として大変に頼りになるので、つい甘えてしまう訳です。勿論、素敵な女の子である事も忘れてませんよ?」
 うん。だからさ、止めようよ。地面に自分が俺とした時の記録を克明に書き記すのは。しかもお互いの実名入りで。
「じゃあ、どうなのかな? 今日は、体力残ってるのかな?」
「うむ、4割だ」
「微妙な数字が出たーッ!」
 実際、今日は猪原先輩とは最後までしていないし、奈美ちゃん相手には一度しか出していない。まぁ、その一度が随分と濃かった訳だが。
「いやいやいや、アレですよ新島さん。プロ野球で4割打ったら年俸は億ですよ?」
「高校で4割打っても無給ですけどね」
 再び妙な沈黙が漂う。俺達の横をジャージ姿で通り過ぎて行く陸上部のマラソン集団の不思議そうな視線が痛い。
 またもコホンと咳払いで空気を変え、俺はグッと拳を握った。
「頑張るっ!」
「頑張れっ!」
 ピョンと嬉しそうに飛びついてきた新島を伴い、レフ版を抱えて校舎を目指す。先ずは腹ごしらえをしてからだなぁ、と思いつつ。



 ――続く。

モ ドル