魔眼屋本舗

 学校がお休みの日曜日。以前であれば休日に学校など考えるだけで胃がもたれたが、状況が変われば意識も変わる。そこに待っているのが女の子との濃密な一時とくれば尚更だ。
 むしろ同年代の女子が集まる学校こそパラダイス。ビバ学校。ここに通えるのが残り2年足らずだと思うと悲しくてしょうがない。
 ずっと高校生を続けていたい。女子大生のお姉さんにも心惹かれはするけれど。

 というような事を、部室で女子の先輩を揺らしながら考えた。
「んあッ――ど、どうかな……。気持ち、良いかな?」
「え? あ、ああ! 凄く気持ち良いです。それより先輩はどうスか? 痛くない?」
「んッ……んはっ! 大丈夫――私も、あッ、気持ちッ――良い」
 俺の肩にしっかりとつかまりながら、健気にもリクエスト通り上下運動を続けている猪原先輩。小柄なこの人が、こうして頑張っている姿を見ると――実にこう――和むのである。個人的に。
 処女を奪ったばかりの膣内はきつく、愛液の分泌も足りていないのだが、それを補って余りある心地よさを感じる。それはきっと、この人が生まれながらに持った特の高さに違いない。うむ。
「くううッ! あ、ぁ、……あ、む」
 制服を着たまま、パンツだけを脱がせて俺の上に跨った猪原先輩が、流石に痛々しい声を上げた。優しく頭を撫でながら唇を吸うと、彼女は一時動きを止め、涙目を閉じてされるままにしている。この人とする時のテーマが『催淫作用を使わない』とはいえ、やはり挿入する前にはもう少し丁寧に愛撫してあげてからにするべきだった。
 ちょっと反省。
 暫し、まったりと唾液を交換し合ってから再開。今度は俺がやんわりと先輩の体を動かし、高まったところで彼女の中に精液を注いだ。
 その後、身づくろいから弁当まで世話になる。具体的に言うと、濡れたペニスを口とハンカチで綺麗にして貰ってから、トランクスの中にしまって貰い、さらにチャックを上げて貰ってベルトを締めて貰って、髪の毛を櫛で梳かして貰い、買ってきておいたコンビニ弁当を「あーん」で食べさせて貰ったのである。尚、食後にはエビオス錠を飲ませてもらった。水は口移しで。
 何かこう、魔眼を手に入れてからこちら、加速度的にダメ人間になっているような気がするが、ここはあえて気付かない振りをしておこう。
 考えたらきっと負けだ。

 さて。
 新島との約束の時間まで、後30分ほど。昼飯も充分食ったし、エビオス錠もちゃんと10錠飲んだ(飲ませて貰った)。暫く部室でゆっくりしていよう。
 図書館に借りた本を返しに行ってから帰るという猪原先輩とは、例によってディープなキッスで別れを惜しんだ後、記憶を修正して別れた。
 もう特にする事も無い俺は、椅子を並べたベッドに身を横たえ、軽く目を瞑った。


魔眼屋本舗 /3 発展と展望


 五月も半ば。何故日曜日に俺こと福沢幸一が学校にいるのかというと、それは前述の通り、女の子との一時を楽しむために他ならない。
 出来れば年上で、大和撫子っぽい美人はいないだろうか? という質問に答えたのは、先日、限度を超えて仲良くなった新島里美である。閉鎖的な友人関係しか持っていなかった俺と違い、彼女は顔が広い。可愛い女の子を捜す上で、自分の足なんぞを使うより、ずっと効率的なのである。おまけに正確なデータも手に入る。
「それなら茶道部の部長さんに決まりですぜ。旦那!」
 ニシシシシ、と意地の悪い猫のような笑みを見せて新島はポンポンと俺の腹を叩いた。
「3年D組の佐藤茜先輩。茶道部部長。お婆さんがこの辺りじゃ有名な裏千家の先生でね、小さい頃からお茶の道を仕込まれていたと。今じゃ大人顔負けの茶人だそうよ」
「ほ、ほほほう。茶人ときたか。茶人」
「そう、茶人。ウチの学校で『お茶の先生』と言えば佐藤先輩を指すんだから。おまけに美人。おっとり系だけどしっかり系で、しかもしっとり系よ」
「おっとり、しっかり、しっとり。むむむ――」
「どうです? 旦那ぁ」
「でかした!」
「でかしたが出たーッ!」
 その場で新島に、件の佐藤先輩なる人と2人きりになる場を設ける事を依頼。結果、新島が新聞部の取材としてお茶の席を設けてもらう事になった。
 当初は、土曜の午後にでもちょっと時間を頂こうという予定だったが、その時間は先輩の方で予定が入っているらしく、わざわざ日曜に来てくれることになったのだ。時間もたっぷり取ってくれるというから頭が下がる事この上ない。
 とまあ、そういう訳で、俺と新島は日曜の昼日中に制服を着込んで学校まで出てきたのである。

「で、茶室ってどこにあるんだ? てかそんな面白い場所があったんか。この学校」
「あるんですよ、これが。何でも随分本格的、というか本物の由緒あるお茶室を移築したんだってさ」
「はー。そりゃ凄い」
 茶道部の部室はいわゆる部室棟にはない。図書室を始めとした文化系の施設が集まる一棟の中にあるのだ。この文化棟という分かりやすい名前の建物は、1階がロビーと図書室、2階から3階に『茶道実習室』『華道実習室』『調理実習室』『音楽室』『視聴覚室』『PC実習室』『多目的ホール』等がある。そして最上階である4階にこれらの実習室を使う部活道の部室はある。
 だが、今日ばかりはこの建物に用は無い。
 通常、茶道部の活動は普通の教室の2/3ほどもある畳の部屋、即ち茶道実習室で行われるが、今回は取材という事もあって『茶室』の使用許可を取ってくれたのだそうだ。佐藤先輩が顧問に掛け合って。
 なんとも有難い事である――。
「チャンス。チャンスなんよ、福沢選手!」
「いや何がさ? ……あ、分かったかも。ひょっとして、鍵?」
「正解! あそこだけはどうしても縁がなかったんだよね、今まで。どうにもガードが固くって」
 広い学園の敷地内でも特に外れのほうに茶室はある。学園の敷地と裏山の境界ギリギリという外れ加減だ。校舎の脇を抜け、林道を通る事5分。人気の全くない、だが開けた場所。
 どうにも学園の偉いさん方の趣味の建物としか思えない、小ぢんまりとした日本家屋がポツンとあった。
「来た。来ましたですよ、福沢の。やー、ここまでは私も来た事あるんだけど。こっから先がね。鍵がないと入れないだよね」
「まぁ、当然だろうけど。というか、良いのか? 学校にこんな場所があって」
 小奇麗というには苔むした庭だ。だが荒れている印象はかけらも無い。どこか自分の中の日本人的な部分を刺激してやまない光景。
「なるほど。侘びの世界ってえヤツか」
 緑に囲まれた静かな庭を前に、腕を組んで感心していると、横手から「ええ、そうですわ」という声が聞こえた。
「ようこそいらっしゃいました。寂光庵へ」
 弾かれたように声の方向を見る俺と新島。
 カッと、そこだけライトに照らされたように、一人の女性が立っていた。背は新島と同じかやや低いくらいで、160あるかないか。これぞ日本人といわんばかりの真っ黒な髪は肩より少し長いくらい。淡い桃色の着物に身を包んだ、優しげな顔立ちの美人だ。
「そちらの方とは、初めましてですね。佐藤茜です」
 なるほど。
 日本は誇って良い。大和撫子は世界に通用する。

 先ず名目通り、新島による取材が行われた。嘘企画ではなく、本当に記事にするらしく、真面目にメモを取りながら新島が幾つもの質問をぶつけている。茶道部の活動について、或いは佐藤先輩の流派について、等など。中には『許状』(どこまでの稽古をしていい、という認定の書面だそうだ)を得る際に茶道の先生に渡す金額などといった不躾な質問もあったが、佐藤先輩はそのどれにも丁寧に答えてくれている。以前から茶道には興味があった、と言うと嘘になるが、俺としても先輩の話は中々に面白い物だった。
 一通りの聞き取りを終えたのか、新島がカメラを取り出す。そして例の茶室をバックに、先輩の写真を何枚か撮り、それで取材は終わった。
 いよいよお茶の席である。
「では先輩。今日はありがとう御座いました」
「いえ、こちらこそ。良い記事を書いてくださいね」
「うはあ。責任重大ですな、こりゃ。じゃ、福沢君、――ごゆっくり」
 ニシシと笑って新島が消える。その顔が妙に邪悪っぽいのはご愛嬌だ。
 さて、ここまでは段取り通り。
 俺は今から、新島が無作為に連れてきた一般生徒として佐藤先輩に歓待を受け、その体験談を新聞部に提供する――と、先輩には伝えてある。
「では先輩、よろしくお願いします」もう、色々と。
「はい、福沢さん」
 どうぞこちらへ、と彼女はやんわり微笑みながら俺を案内してくれた。

 にじり口、という小さな入り口から入るよう促され、身をかがめて入室する。
 なるほど、狭い。恐ろしく狭い。何しろ畳が2枚しかないのだ。四畳半間の半分以下のサイズというから驚きである。
 由緒ありそうな掛け軸や、花を生けた陶器など、普段なら見向きもしない物でも、こうして改めて眺めてみると、実に有難いもののように感じるのは雰囲気の怖さか。
 ひとしきり部屋を眺めて感嘆した俺は、教えられたとおりに戸口を音を立てて閉めた。この音を合図に、主側は客が入室を終えたことを知るそうなんだとか。
 やがて俺が入ってきたのとは違うふすまが、スッと開いて佐藤先輩は現れた。
「本日はようこそいらっしゃいました。どうぞお茶の席を楽しんでくださいね」
 彼女は揃えて切られた前髪を揺らし、にっこりと微笑んだ。

 いわゆる茶道におけるお茶の席というものは、武道に近い真剣勝負の場である。という知識があったため、結構緊張して望んだのだが、そんな堅苦しい雰囲気は微塵も無かった。
 出された和菓子を食べ、目の前で立ててくれたお茶を飲む。
 何をするにも色々と作法があるのだろうと警戒していた俺に「気になさる事はありません。福沢さんのなさりたいようにして大丈夫です」と先輩は笑顔で言ってくれた。
 やはり「アメリカの家、中国の食、日本人の妻」と西洋人の憧れを受けた大和撫子である。もう、度量が違うのである。度量が。
 調子に乗って正座を崩し、胡坐をかいても全く咎められる事は無く、むしろクスクスと笑われてしまったくらいだ。
 お茶を頂いた後、この茶室や今日使った道具について色々と解説をして貰った。
 佐藤先輩は落ち着いた物腰の中にも、割と茶目っ気のある人で、一つ一つの話が実に面白い。
「ほら、触ってみてください。良いお道具は手触りも素晴らしいんですよ」
「へえ。なるほど。スベスベですね」
 俺の手にお茶の粉を掬う「茶杓」を握らせ、先輩はそれが、元は囲炉裏で使われていた何々であるとか、それを切り出したのが誰某であるとか、実に楽しげだ。
 ただ、俺としては余りにも近すぎる彼女との距離こそに心が弾むわけで。体勢を変える度に揺れる、着物に包まれた形の良さそうな尻に、むしろ目が行ってしまう。
「こんな風にお道具を扱っているのを知られたら、お婆ちゃんに叱られてしまうんですけどね」
 先輩はお茶を掻き混ぜる「茶筅」を空中でくるくると回すと、ちょっと舌を出して、はにかむように笑った。
 そんな可愛いしぐさを見せられては堪らないのがこちらである。
 俺の我慢もここまでじゃ、とばかりに先輩の瞳を見つめて魔眼を発動。
 例によって一瞬の間が空いた後、佐藤先輩は俺の顔を見て「ほぅ」と悩ましげな溜息をついた。
 バッチリである。精神修養を積んでいる相手だけに抵抗があるかとも考えていたが、そんな様子はまるで無かった。魔眼強い。超強い。
「佐藤先輩。もう少し、ここでお話を聞いていいですか」
「ぁ……はい。喜んで」
 魅了の効果は完璧で、彼女は心底嬉しそうに微笑んだ。後は押して倒すだけである。
 俺は胡坐のまま両手を使って前進し、佐藤先輩の横にピタリとつける。そして彼女の手をとり、茶碗を握らせた。
「道具の事、もっと教えてください」
「あ、ふ、福沢さん……。は、はい。こ、これは志野の、あ、志野茶碗と言いまして……ん、ふぅ、元は美濃、んっ、今の岐阜県の辺りで、はぁ、発達した物で」
「へえ。花の模様がありますね」
「あ、ぁ、はい。五月と言うことで、んッ、菖蒲の花の絵付けが――ぁあッ、あの、福沢さん……」
 茶碗の解説を促しつつ、先輩の背中に張り付き、肉付きの良い太ももを撫で回す。そのまま腰の辺りまでさわさわと手を上にあげていくが、ここいらは帯があって触っても面白くなかった。ただ、その動きに連動して、先輩の顔が徐々に赤く染まっていくのは実に目に楽しい。
「さっき頂いたのは薄茶、でしたっけ? 抹茶にも種類があるんですか?」
「ぁ……んッ。は、はい、もう一つ、濃茶と言いして、多目のお茶を少量の、んっ……お湯で練る、はぁッ、とてもトロトロした感じの、あぁ……」
「はあ、それで濃茶ですか。苦そうですね」
「んッ……な、慣れれば、お茶の味が、あんッ! そ、そのまま楽しめる、んんッ」
 帯に回していた左手はそのまま彼女の腰を抱き、右手で優しく包むように頬を撫でる。上を向き、俺の顔を見つめた先輩の目はトロンと垂れ下がり、息づかいは顔の赤さに比例して荒くなってきた。
 コトリ、と手に持った茶碗を床に置き、佐藤先輩は呆としたまま俺の愛撫を受け入れている。緊張していた彼女の体からは、愛撫を重ねるごとに力が抜け、ゆっくりとだが俺に身を預けるようになってきた。
「あっ、ん……ッ! だ、ダメです。福沢さん」
 だが着物の裾を割り、素足に触れようとした途端、先輩から待ったの声が掛かった。俺の手を取って、だが払いのけようとはせず、その手を中に浮かせたまま困っている。
 ちなみに一瞬しか見えなかったが下着はちゃんと穿いているようだ。ちょっと残念だったかもしれないが、まぁいい。脱がすのも楽しみの一つではある。
「あ、あの、その、嫌なわけではなく……こ、ここは大事な場所なので」
 なるほど。乙女の大切な所だから――では無く。神聖な茶室で淫らな事は出来ない、というわけか。
 しかし――しかしである。今回のテーマは『狭い茶室で着物美人とH』だ。じゃあ他の場所で、とはいかないのだ。
 俺は取られた手で逆に先輩の手を取り返し、じっと彼女の瞳を見つめた。
「佐藤先輩。茶道の心とは、なんですか?」
「えっ!? あ、あの……それは、第一におもてなしの心で……」
「一期一会、という言葉を聞いた事があります」
「は、はい。一生に一度のお茶の席に臨んで、誠意を尽くすという。ぁ……」
 ここでジワリと催淫作用を施す。新島の時と違い、いきなり乱れるような事はないが、先輩の目は確かに潤みが増した。同時に催眠効果発揮。俺の言う事が、どうにも正しいんじゃないかと思わせる。
「この先、幾度お茶の席を共にしても、この機会ばかりはただの一度」
「そ、そうです。ぁ、ぁああ――」
「だからこそ。俺は今、先輩に最高のもてなしを頂きたい。茶道という形にこだわる事無く」
「ん、あッ――。ふ、福沢さん……」
「俺の欲しい物が、今、ここにあるから」
 真剣そのものといった顔で先輩をじっと見詰め、両手でギュッと抱きしめる。
 新島が見ていたらきっと爆笑しただろう。いや、俺自身あまりに臭い演技に笑いを堪えるので必死だ。
 が――これが、彼女には効いた。
「形に、こだわらない……おもてなし」
 ポツリと一言漏らし、目を大きく見開くと、ゆっくりと頷く。
「私は――形式に捕らわれ過ぎていたのですね」
 そしてどういうわけか、涙を流して微笑んだ。
「先輩?」
「聞いて下さい。……私は祖母に言われていたのです。お前のお茶は固いって、随分前から。でも、ずっと意味が分からなくて……。だから、綺麗な動作が出来るように、たくさん練習して……。でも、まだ祖母に固いって言われて」
 ハラハラと涙を零しながら、感動に打ち震えている佐藤先輩。どうも何かを開眼してしまったらしい。それが間違った方向でない事を祈るばかりだ。
「やっと、意味が分かりました。福沢さん」
「え? あ、はい」
「その――。私、精一杯努めます。どうぞ、その、私を……」
「はい。俺も、精一杯……します」
 精一杯する、とは。つまり俺の精液で貴女の膣内を一杯にします、の略だ。という事を考えながら、俺は先輩の唇を吸った。
 当たり前だが――お茶の味がした。

「帯、解いてください」
「はい……」
 シュルと小気味良い衣擦れの音を立てて、強固な防壁が崩れていく。一瞬、お代官様ごっこという単語が頭に浮かんだが、二畳の茶室でやるには無理があるので諦めた。いずれ、もっと広い畳部屋でやってもらおうと決心。
 解かれた帯を脇に寄せ、先輩は着物に手をかける。
「待った。そこから先は、俺が」
「あ、はい」
 全部脱いで貰うのは決して悪い事ではないが、そうすると今回の趣旨から外れてしまう。あくまで着物を着たままで、最後までするつもりだ。
「はぁあ、んん!」
 合わせの間からスッと手を差し入れ、待望の素肌に触れる。やや上気して、うっすらと汗をかいた肌は、暖かくて滑らかだ。そして、触れているだけで性の衝動が果てしなく湧き上がるほどの艶やかさもある。
 猪原先輩や新島も、それぞれに魅力があるが、素肌の美しさという点において、佐藤先輩のそれは飛び抜けている。
 色、艶、肌理の細かさ。どれをとっても極上で、伝う汗すらサラサラだ。
「前、開けますよ」
「は……はい」
 正座が崩れ、いわゆる女の子座りになっている彼女を横抱きにし、俺は着物をそっと肌蹴た。
 白い肌と、何より慎ましくもふっくらとした胸に目を奪われる。大きさは丁度俺の手にすっぽりと収まる程度。お椀を伏せたような二つの丘の上に、桜色の花が綺麗に乗っている。決して疎かには扱えない雰囲気を持つ、なんとも上品な胸。
 俺は感嘆の溜息をつきながら、そっと彼女の乳房に触れた。
「あ、あ、ぁ……。触られて――ます。……ん、あッ!」
 指の腹を使って丁寧に撫でると、先輩は可愛らしくも喘いだ。間近にある俺の顔に、甘い吐息がかかる。それが拍車をかけて、俺は徐々に撫でる範囲を広げていった。
「あ、福沢さん! そんなに激しくされたら……ん、んん」
 先輩は自分の声が乱れているのが恥かしいのか、なるべく声を上げないようにと、口を固く閉じる。が、どうしても時々、喉の奥から抑えきれない喘ぎが漏れてしまっていた。僅か二畳という狭い部屋に自分の声が響く度に、彼女は恥かしげに眉をひそめて顔を伏せる。
 声を出していいと促せば応じたかもしれないが、ここはあえて羞恥に震える姿を楽しませてもらおう。
「……ッ! ――ッ――んっ!」
 そのまま、壊れ物を扱うように優しく愛撫を続ける。胸は元より、上半身全体を。先程、弱く施した催淫作用も手伝ってか、先輩は見る見るうちに高まってきたらしい。目元が垂れ下がり、甘い声を必死に喉の奥で押し殺している。だが、押し寄せる快楽の波に、そろそろ耐え切れなくなってきたようだ。もじもじと、控えめに太ももを擦り合わせている。決壊は近い。
「佐藤先輩……。固くなってますね、ココ」
「んッ! あ――ッ、だ、だめです」
 いつの間にか、すっかり充血して固くなっていた彼女の乳首を指先で転がす。先輩はぶるりと大きく震え、だがそれでも唇を噛んで嬌声を上げない。
 俺は彼女に悟られないようにニヤリと笑うと、ぴったりと閉じ合わされた太ももの隙間に手を忍ばせた。しっとりとした水分に指が濡れる。
「先輩。気持ちいいんですね?」
「ッ!! そ、それは……」
 彼女は腰を引いて逃げようとしたが、かえって俺の指でスリットを擦られる結果になってしまい「うッ!」と呻いて背筋をそらせた。
「わ、私は、福沢さんを……もてなす――側なので。……んッ、た、立場が……逆に、あ、ぁっ!」
「そんな事無いです。俺、嬉しいですよ、先輩が気持ち良くなってくれて」
「ん、あ、でも……」
「それでいいんじゃないですか? 茶道はもてなす側ともてなされる側が協力して完成させる物でしょう」
「――ッ!!」
 胸を揉み、下着の上からスリットを擦りつつ、何気なく言った一言だったが、またもや彼女の茶道精神にヒットだったらしい。佐藤先輩は快楽に震えながらも目を輝かせた。
「凄いです、福沢さん。――ん、ぁっ……その通り、んああッ、です……」
 それは大切な事だとか、私には分かっていなかったとか、うわ言のように彼女は自論を唱えている。勿論その間も、俺は聞いている振りをしてうんうん頷きながら、愛撫の手を一瞬でも休めなかった。いやもう、手が彼女の体を離そうとしないのだから仕方が無い。
「あ、ですから私は……んあッ、あ、福沢さんに――か、か、んあぁ! か、感謝を……あ、ぁ、あああああッ!」
 綺麗なうなじに舌を這わせ、乳首を弄び、乳房を揉み、太ももを擦り、秘裂をなぞる。そんな事をしている内に、先輩は高まりきってしまったようで、一際大きな声で鳴くと、プルプル震えて動かなくなってしまった。
「ふー……。ぁ、あッ! ぁ、あ」
 それでも愛撫を続けると、彼女は今までとは違う、はっきりと高い声で喘いだ。が、絶頂を迎えた直後の愛撫は刺激が強すぎるのか、ガクガクと顎を震わせている。
 さて、このまま責め続けても勿論楽しそうなのだが、問題なのは俺自身だ。固く屹立したペニスが、早く中に入りたくてうずうずしている。
「先輩、脱がすから腰を上げて」
 俺は一旦、緩く彼女を抱きかかえ、落ち着くのを待って次のステップに歩を進めた。佐藤先輩はぼうっとした顔のまま、だが素直に言う事を聞いてくれている。
 白い、多分シルクの下着をスルスルと脱がす。途端、むわっとした女の香りが立ち込めた。下着を濡らす蜜が零れ、俺の手にまで垂れる。
「じゃあ、先輩。横になってくれるかな」
 畳の上に寝かせ、足を開くように言うと、彼女はふるふると震えながらもゆっくり股を開いた。愛液の量が多い体質なのか、股間はトロトロの蜜で溢れている。この分では畳が酷く濡れてしまっている事だろう。
「あ、あの……。そんなに見られると――」
「うん? ああ、ゴメンなさい。でも、先輩のココ、洪水みたいになってますよ」
「そ、そんな事……言わないで、下さい」
 スンスンと鼻を鳴らしてべそをかく佐藤先輩の姿。だが今は何もかもが刺激になってしまっているのか、ワンアクションごとに愛液が垂れて、留まる事を知らない。
「うん。じゃあ、先へ進みましょう」
 ベルトを外し、ズボンのチャックを開いてトランクスの中からペニスを取り出した。先輩は目をまん丸にして俺の物を凝視しているが、まぁ、そこは突っ込むまい。
 俺がズイと身を乗り出して覆い被さると、彼女は目を閉じてギュッと自分の着物を掴む。何があっても耐えようという姿勢は、正に古き良き大和撫子だ。ならば俺はその気概に答えよう。要するに痛そうでも最後までさせて貰おう。
 ひくひくと震え、淫らな露を零す先輩の秘所にペニスをあてがった俺は「行くよ」とだけ言って、答えも無いままに挿入を開始した。
「ひっ、……く」
 ズブと先端を埋める。丹念に愛撫した後とは言え、流石に痛むのか、先輩は顔をしかめた。だが止めない。そのまま俺はズブズブとペニスを彼女の中に埋める。途中の引っかかりをブチブチと突き破り、一気に根元まで。
「先輩。全部、入りましたよ」
「くうッ! ――ッ」
 随分痛むらしく、彼女の拳は着物を巻き込んで強く握られていた。だがそれでも、佐藤先輩は俺の声に正しく反応し、気丈にも笑顔を作った。
「先輩ッ!」
「――ひッ……く!」
 その、何としてでも俺を受け入れるという笑顔は強烈な破壊力があった。急激に俺の中で彼女を貪りたいという衝動が沸き起こり、もう止められない。
 佐藤先輩を強く抱きしめると、俺は一度強く彼女の唇を吸い、そして抽送を始めた。
「んッ、あッ! 福沢さんッ――あ、ぁ」
 突いては引き、突いては引く。狭い茶室に佐藤先輩の甲高い声が木霊する。狭く締め切られた空間という舞台が、妙に俺のボルテージを上げていた。お互いの肉がぶつかり合う音は次第に速く大きくなる。
 先輩の膣内の柔らかい肉を存分に掻き回し、絡みつく愛液と襞の感触を貪り食らった。細かく蠕動する彼女の中は温かく、か弱いようで、だが強く俺の物に吸い付いてくる。
 どれ程の間、我を忘れて動いていたのか。長いようではあったが、きっと短い時間だったろう。射精の衝動は限界まで引き絞られていて、気付いた時にはもう堪え切れなかった。
「先輩……ッ! もう、出します」
「ん、あッ――はい。ど、どうぞ……んッ、ぁ、く、下さい!」
 外に出すなど考えられなかった。そもそも頭の中は彼女の膣内を満たすことで一杯だったのだ。だから俺は最後に一つ、強く彼女を突くと、細い腰を抱きしめた。
「――ッ」
「あ、あ、中に……あぁぁ。福沢さんが、私の中に――」
 堰を切ったように精液が飛び出していくのを感じた。柔らかい肉の壷の中に、たっぷりと。背筋がゾクゾクと震える、この恐ろしいほどの快感。
 細い手で抱き返してくれる彼女の心遣いが堪らなく嬉しくて、俺は暫くの間、先輩と繋がったまま、茶室の静寂を楽しんだ。

   /

 数時間ぶりに狭い空間から出る。この解放感はひょっとしたら射精に似ているのかもしれない。いや、千利休は凄え。
 というバカ妄想をおくびにも出さず、俺は佐藤先輩へと振り返った。
「ゴメン先輩。最初かなり乱暴になっちゃって。痛かったでしょ」
「ふふっ。大丈夫ですよ。それに嬉しかったです、福沢さんが全身全霊を込めて、私と向き合ってくれたんですもの」
 日が長くなっているので分かりづらいが、もう夕方と言っていいほどの時間だ。ここに来たのが午後1時過ぎだったから、たっぷり4時間は篭っていたらしい。
 最初の一回を終えた後も俺たちは休憩を挟みつつ、茶室でのセックスを楽しんだ。
 ここは不思議な空間である。僅か二畳という限定された室内は、その圧迫感もあってか、一度火が付くと恐ろしくヒートアップしてしまう。だが逆に、気を抜いてまったりしだすと異様なほど落ち着くのだ。
 これが和の粋を結集させた茶室の魔力か。これからもちょくちょく利用させてもらおう。
「今日は、本当にありがとう御座いました。お茶、おいしかったです」
「いえ、こちらこそ。私にとって大変に有意義な一席でした。福沢さんには感謝してもしきれません」
「じゃ、先輩」
「はい」
「また、お茶、飲ませてください」
「あ……はい。次も、その、たくさん――おもてなししますから」
 楽しみにしています。というセリフを残して俺は気分良くその場を立ち去った。
 実際、うっとりした眼差しの和服美人に見送られて帰るのは、素晴らしく気分がいい。いやもう、木立を渡る風が気持ちいい良い事良い事。

 佐藤茜先輩への事後処理だが。正直、この人を他の誰かに渡すなど考えられず、思い切って自分の物にしてしまう事に決めた。新島の時とほぼ同じだ。言う事は何でも聞いてくれるし、俺以外の男に着いて行く事も無いという、御都合万歳設定。着物の似合う大和撫子が、もう丸ごと俺の物だというのだから風も爽やかに感じる筈である。
「さて、じゃあ帰るか」
「何処へ? 何の為に?」
「うおお! いや突然哲学的に聞かれてもッ」
 晴れ晴れとした顔で校舎へ向かう俺の前に現れたのは、数時間前に別れた筈の新島だった。何やら随分とどんよりした顔で、じとーッと俺を睨んでいる。
「ど、どうした? ちょっと怖いぞ」
「随分長いことお楽しみでしたね」
「え?」
 新島はまるで波打ち際に打ち上げられた半漁人のような動きで、のろのろと俺に巻きついてくる。うん、怖い。
「一緒に帰ろうと思ってさ、待ってたんだよ。大体私の時と同じくらいかなーと思ってさ、時間潰して戻ってきたんだけど」
「そ、そうなんだ……」
「待てど暮らせど出てきやしません、この男」
「いや、だって。ねぇ?」
「待ってる間、携帯で麻雀やってたらバッテリ切れるし」
「アプリの類は電気食うからね」
「ちょっと近づいてみたら、佐藤先輩すっごい気持ち良さそうな声出してるし」
「そ、外にいたんだ!?」
「我慢できなくなって思わず一人でしちゃったし」
「そ、外でするのはお兄さん感心しないな」
「気付かれたら私も引っ張り込まれて3Pかなー、と思ってちょっと期待してれば全然お呼びが掛からないし」
「いや、マジ分からんかった」
 そら恐ろしい告白をしつつも、ぎゅうぎゅうとしがみ付いてくる新島。ドロドロと、火の玉でも背負ってそうな雰囲気だ。まぁ、甘えられてると分かるので決して悪い気はしないのだが。
 後、3Pはちょっと興味あるかも。
「そりゃさ、私じゃ佐藤先輩には全然叶わないのは分かってるんだけどさ」
「い、いやいやいや。それは違うぞ、新島の。お前はお前で、佐藤先輩には無い魅力があるわけです」
「そう?」
「うん。いやもう、ホントに」
「……じゃあ、今から、してくれる?」
 新島は俺の胸にすがり、上目遣いで見上げてくる。明朗快活が売りのこいつが見せるそんな顔は、かなりの衝撃をもってハートにブレイクではある。
 だが――。
「悪い。今日は打ち止め」
「打ち止めがでたーッ!」
 佐藤先輩に全力を――文字通り――注いでしまったので。まぁ、事前に猪原先輩と一戦交えていたのもあるのだが。
 ギャース、と叫んで頭を抱え、地団駄踏んだ新島だったが、ひとしきり嘆くとさっぱりしたのか、おもむろに顔を上げて俺の腕を取った。
「むー。まぁ、いいけどね。でも、ちゃんと私も可愛がってよ?」
「お、おう。任せとけ」
 頬を膨らませた新島と人気のない林道を歩き、元の生活空間に戻る。
 因みに、例の鍵はしっかり形取りできたそうだ。なんでも、茶室のある建物とは別に離れがあり、そこで先輩の荷物一式を発見したそうで。
 余談だが、その離れには冷蔵庫があるキッチンと布団完備の6畳間があり、気付かれなければ寝泊り出来るとの事。これは良い事を聞いた。
 今後、役立てようと決心。

 と、そんな一幕を経て今日という日は終わった。
 部活の先輩を毎日のように可愛がり、気の良い友人や和服の似合う美人を自分の物にして。さて、こんな俺はいつか大きなしっぺ返しを食らうんじゃないか、と少し気になった。
 が、先に言ってしまうと、そんなしっぺ返しは全く無いのである。
 これはそういう物語だからだ。



 ――続く。

モ ドル