風邪ひき姉

 とある土曜日の昼下がりの事である。
 学校から帰ってきた俺は、自室に鞄を置いて普段着に着替えると、姉の部屋に向かった。
「姉さん、具合どう?」
 ベッドに横たわった姉は、呆とした顔をこちらに向けて熱い息を吐いた。
 昨日から風邪をひいてダウンしているのである。

 うー、と唸る姉に体温計を咥えさせる。
 その間、目を瞑って大人しくしている姉の顔を、俺はぼんやりと観察していた。
 身内の贔屓目を差っ引いても、姉の容姿は平均以上に整っている。だが肩の辺りで切り揃えられた髪は寝汗で乱れており、パジャマの隙間からちらりと見える鎖骨にもうっすらと汗をかいていた。それでも、いや、それだからこそ、横たわる姉はむしろ妙に艶かしくすらあった。
 暫くしてピピピという電子音が部屋に響く。体温計は38.2度を指している。
「あちゃ。まだかなり高いな」
 病院には既に行った筈だ。ウチの両親は共働きだが、昨日の午後に母が仕事を早退して連れて行ったと聞いている。
 そうなると俺に出来ることは限られていた。精々、ベッド脇に置かれた洗面器の水を交換し、タオルを絞って姉の額に乗せるくらい。母の書置きに従って、洗濯済みのパジャマの替えを持ってきたはいい物の、流石に1つ上なだけの姉を着替えさせるのは無理だ。俺は全く構わないとしても。
 換えのパジャマを置いて、さてどうしようと考えていると、姉が虚ろな顔でこちらを見ていることに気がついた。
「ぁ……熱さまし、あるんだけど」
「何だ。じゃあ早くそれ飲めよ。水持ってくるからさ」
 立ち上がって部屋を出ようとする俺を、姉はふるふると首を振って引き止めた。
「うん? 水いらんの?」
「……」
 コクリと、今度は首を縦に振る。そしてチラチラと勉強机の上にある小さな紙袋を視線で示した。
 病院で貰う薬の袋だ。我が家が昔から世話になっている近所の内科の。俺は特にどうという事もなく、それを手に取り、だが中身を見て絶句した。
 数種類の見覚えのある薬。これはいい。だがその中に一つ、一際目を引くロケット型の薬がある。これは――もしや。
「座薬?」
「……――ッ」

 見まごう事無く、全く持って見事なまでに、それは座薬であった。
 痔の治療以外では主に解熱剤として処方される、真っ当で効果的な薬である。が、正直な所、年頃の娘さんが使用するには少々難易度が高いと言わざるを得ない。
「あー、えっと。自分で?」
 一人でできるかにゃ? という意味を込めて姉を見やる。
「……――」
 だが向こうは無言でフルフルと首を振った。横に。
「参考までに聞くけど。昨日は?」
「お、お母さんが……」
 顔を鼻まで布団で隠し、涙目で俺を見て「うー」と唸る我が姉。
 唸られても困る。と言うか、俺に入れろと言っているのか、この姉は。
 禁断のアイテムと姉の顔を交互に見て、俺は葛藤した。

 そんな事をしたら――み、見えてしまうんですが。大変な所が、間近に。
 おまけに――さ、触ってしまうかもしれないんですが。大変な所を、部分的に。

 それでも――。
「俺が?」
 入れるんですか?

 姉はプルプルと震えながらも、コクンと頷いた。
 これはもうやるしかないね。

   /

 のろのろと掛け布団を脇に退け、枕を抱えてうつ伏せになった姉は、少しだけ腰を浮かせた。元より熱でぐったりしているので、それが限界らしい。
 覚悟を決めた俺は横からそっと姉の腰に手をかけ、尻を持ち上げて膝を付かせた。
 布団の中に篭っていた匂いが鼻につく。決して嫌な物ではなく、むしろ俺の雄としての本能をダイレクトに刺激する女の匂いだ。
 汗まみれの男なんて近づくだけで鼻が曲がるのに、どうしてこう、女の子ってのはこんな状態でも良い匂いなのか。
 思わず唾を飲むが、本番はこれからだ。恐る恐るパジャマのズボンに手を伸ばし、思い切ってパンティごと、ゆっくりと下ろしていく。
 鏡で見る自分の物とは比べ物にならない程、白く綺麗な尻が徐々に姿を現した。
 女の子の服を脱がすというシチュエーションは散々脳内でシミュレート済みだったが、初めての相手が姉で、且つこんな形になるとは思いもよらなかった。
 震えそうになる手を必死に押さえ、俺はついに姉のパジャマとパンティを膝まで下ろしきった。
 否が応でも目に入ってしまう。姉の、女性器。
 ピタリと閉じられた割れ目と、その向こうにある歳の割に薄い陰毛。
 更には上方に、今作戦の舞台である小さな窄まりが。
 姉の香りを感じた時から既に半勃ちだったペニスが「出番ですか?」とばかりに固くなる。
「ねぇ、早く……して」
 か細い声で姉は先を促すが、俺は固まったまま動けなかった。
 こちとら健康な青少年である。真っ白な美尻と、初めて見た女性器を目の前に、どうして監察もせずにいられようか。
 しかも相手は血の繋がった姉である。生まれて十数年を共に過ごし、でも決して手の届かない存在だと思っていた姉である。
 この背徳感――。
 口の中に唾が溢れてしまうのも仕方ない、筈だ。
「ぁ、あの……早く、薬」
「へ? あ、悪い。今」
 自分の大事な所をじっくりと弟に見られていると悟った姉が、流石に泣きそうな声を上げる。それで我に返った俺は、口の中の唾を音を立てないように飲み込み、慌てて例の座薬のシートを手に取った。

「じゃあ、入れるから」
「……うん」
 魅惑の薬の一粒を手の平に乗せ、指で摘んだそれを慎重に姉の菊座にあてがう。そしてそのまま軽く押し込む。が、――入らない。
 ピタリと閉じられた門が異物の侵入を懸命に防いでいるのだ。
「ま、まだなの――?」
「あー、もっと力抜いてくれないと入らないって」
「うぅ……。ううぅぅぅ」
 どうにか力を抜いた姉だったが、俺が薬を入れようとすると、肛門がギュッと閉じてしまう。
「ほら、もっと力を抜いて。な?」
 そっと手を伸ばして姉の白い尻に触れ、リラックスさせるつもりで優しく撫でる。

 後で思い起こしてみると、俺はこの辺りからおかしくなっていたらしい。
 どう考えても俺がやっていたのは愛撫の類だ。

 一旦座薬を置き、しっとりと汗をかいた滑らかな尻を掴むように、だが力はいれずに手の平全体で撫でる。
「ぁんっ、――な、何で触って……」
「リラックス、リラックスだって」
 まぁ、実の弟に尻を撫で回されて落ち着ける筈も無いのだが。この時の俺はそれが最善だと思ったのだ。下心抜きで。

 固く閉じた菊門の周りを、マッサージのようにほぐし、或いは柔らかな臀部を優しく揉む。
「あ、ぁ。はぁ、んッ」
 そんな事をしていると、姉の体から力が失われていくのが見て取れた。
 頃合や良し。
 すっかり力が抜けたと見た俺は、再び座薬を取り、姉の菊門に当てた。スムーズとはいかないが、最初のような抵抗もなく、ツプと座薬の頭が入る。
「んぁっ、ぁ。――そんな、いきなり……。う、うぁぁぁ――」
「あ。ゴメン姉さん。入れてるから」
「ぅ、ぁああ。やだ……やだぁ――、ん、んくッ!」
 途中まで入れると、門はキュッと窄まり、一気に座薬を飲み込んだ。
 ミッションコンプリートである。めでたい。
 目出度いのではあるが。目の前の光景はむしろ「愛でたい」と言うべきシロモノだった。
 姉の閉じた陰裂から、汗以外の体液がうっすらと流れ出ているのだ。
「ぁ……ぁあ――」
 更にあろう事か、姉の吐息は妙に切なげだ。
 ここまで来て、漸く俺は姉の状態を理解した。

 か、感じてらっしゃったのか――ッ!

 やるべき事は既に終えているので、本来なら姉に服を着せてゆっくり寝かすべきなのだが、それは俺の若さと冒険心が許さなかった。
 俺の目から見て菊座より下。最初に見た時と比べて僅かに開いた肉の花弁を、指でそっと押してみる。
「あ、んっ! そ、そこはッ……」
 姉は熱の所為もあってか、身動きがとれないらしく、なすがままになっている。
 調子に乗った俺は、太ももから臀部にかけて幅広く撫で回した。時折、親指で掠めるようにクレヴァスをなぞる。
「ぁん、だめッ。そ、そんな事されたら――んッ……」
 そんな風に繰り返し下半身を撫で回す内、姉のか細い声が次第に甘くなってきた。
 俺は俺で興奮が高まり、ズボンの中の物がいっそう硬くなる。
「ね、姉さん。……可愛い」
「なッ! あぁぁ、んぁっ。わ、私――」
 切なげに身をよじる度に姉の秘所は湿り気が増し、今でははっきりと愛液と呼んで差し支えない物になっていた。
「凄い。姉さんのここ、濡れてる。と言うか溢れてる」
「ぁ、ぁ、ぁ……。ッだめ――。言っちゃ、だめぇ。あぁっ……」
 閉じた陰裂から零れた愛液が、ツツツと糸を引いて垂れ下がる。思わずゴクリと唾を飲んだ。
 わが姉ながら、何てエロいんだ――。
 俺は我を忘れてその光景に見入ってしまった。
 ふるふると震える白い尻。シミ一つない綺麗な太もも。膝まで下げられたパジャマとパンティ。そして、はしたなく涎を零す秘裂と、愛液に濡れる淡い陰毛。
 枕を抱いた姉の吐息は荒い。だが今は熱の苦しさより、切なさに甘く悶える物の方がずっと強い。

 ヤバイ――。
 と思ったときには遅かった。
 俺は姉の熱がうつったように上気した息を吐き、気付いたときにはズボンとトランクスを下げ、硬くそそり立った一物を曝け出していた。
「ね、姉さん。もう一つ入れるから」
「ぇ……? う、嘘でしょ? だめ……よ」
「そんな事言っても、姉さんのココ、凄い事になってるし」
 人差し指で濡れた秘所を割れ目に沿ってなぞると、姉の膝はガクガクと震えた。
 蜜の量も格段に増え、触った指に絡みつく。
「あッ……ぁぁっ。だめぇ……んっ、んぁぁ」
 さっきから下半身を触られまくっていた姉は、ダメとは言いつつも、完全に出来上がっていた。
「じ、じゃあ、入れるから。力抜いて」
「んっ――ふぁッ! あ、ああ、だめ。……だめ」
 否定の言葉とは裏腹に、姉は僅かに足を開く。それをOKのサインと受け取った俺は、膨張しきったペニスを姉の秘裂にあてがい、腰を掴んでズブと埋め込んだ。
「あ、あ! あぁッ、は、入ってくるッ。ダメなのに、ダメなのにぃッ!」
 見た目の柔らかそうな印象とは逆に、姉の内部は酷くきつく、そして何より熱かった。まるで焼きたてのステーキ肉(国産)でしごかれているようだ。
「あ、あンっ! だめッ、それ以上は――、うぁぁぁ! ヤダぁ、おかしくなるぅッ」
 狭くて熱い姉の柔肉を掻き分け、俺のペニスがズブズブと埋まっていく。
 途中、強烈な抵抗感があったが、ここまで入った以上は止められない。掴んだ姉の腰をグイと引っ張り、俺はついにペニスを根元まで埋めた。
「うわぁッ! 姉さん、す、すげえッ気持ち良いっ」
 入れているだけだというのに、とてつもない快感がペニスに走り、それだけで射精しそうになる。
 姉の膣内で痛いほどに締め上げられ、でもそれが全て気持ち良さとして伝わってくる。その間も、愛液の分泌は留まる所を知らず、姉の肉壷は加速度的にトロトロになっていく。
「動く、よっ! 姉さんッ」
「あ、ああんッ! あんッ、んっ。だめ……、わ、私、壊れるぅっ」
「ね、姉さんっ。……姉さんッ」
「はぁっ、アっ――あ、あぁぁッ」
 ゆっくりと味わおう。なんて頭の片隅で考えていたが、直ぐにそれは吹き飛んだ。一度半ばまで引き抜いて、また押し込んだ後はもう止まらなかった。
 姉の腰を痕がつくほど強く掴み、乱暴に引き寄せてはまた突き放す。
 白い尻が赤く染まるほど強く、何度も何度も自分の腰を叩きつけた。
 接合部から弾き飛ばされた蜜が、顔にかかるほど激しく、俺は姉の体を貪り食らった。
 だが、それも決して長くは続けられない。我慢はとっくに限界に来ているのだ。最早いつ爆発してもおかしくない。
「出すよッ! 姉さんッ、出すよッッ」
「あっ、あぁっ……だめぇッ、中は……あ、あああッ」
「ご、ゴメンッ! 無理!」
「だめッ! あ、あああッ――んッ! だめ、なのにぃ……」
「うああっ、姉さん! 姉さんッ!」
「ぁ、あーー――ッッ!」
 がむしゃらに腰を叩きつけつつも、全力で射精感を堪えていたが、ついに俺の堤防は決壊した。頭が真っ白になり、溜まりに溜まった欲望が勢いよく姉の膣内に放たれる。
 自分でも信じられない程の量の精液が、ドクドクと流れ出ていくのを尿道に感じた。
 精液を最後の一滴まで搾り出し、余す事無くたっぷりと姉の中に注ぐ――その間の、全身を駆け巡る快感は凄まじく、いっそ吐きそうな程だった。

「ぁ、ぁ、あ、姉さん……」
 射精が終わった後も、俺は暫く姉の膣内にペニスを奥まで差し込んだまま、セックスの余韻に浸っていた。
 女の体内に精液を注いだ雄としての充実感。その相手が実の姉というゾクゾクする程の背徳感。そして大きな仕事をやり終えた後のような、程好い倦怠感。
 総合すると、このまま死んでもいいと思うくらいの満足感。
「ん、はぁぁぁー……」
 ペニスを姉の中に入れっぱなしのまま、俺は目の前の汗と愛液に塗れた尻を軽く撫で回す。未だ小刻みに可愛らしく震え続ける姉の体。俺はそこから離れる事が何よりも惜しかった。

「姉さん。気持ち良かった……って、――姉さん?」
 姉は枕を抱いたまま、目を閉じてハァハァと相変わらず荒い息を吐いている。よくよく見れば全身の力が抜けていて、酷くぐったりとしていた。
 まるで病人のようだ――と思った。
「うお、しまった!」
 いや、まるで、所の話ではない。姉は38度の熱があるれっきとした病人である事を思い出し、俺は慌ててペニスを引き抜く。
「うあ、何かエライ事に……。ちょ、姉さん。姉さんっ」
 急いで、且つ慎重にベッド仰向けにさせる。姉の股間からドロリと流れ出たセックスの証拠が目に焼きつきそうではあった。
 俺の精液と、姉の愛液。その2つに混じる破瓜の血。
「ね、姉さん、初めてだったのね。は、ハハ。いや、俺もそうだったんだけど」
「――……」
 苦しげな姉に、わざと冗談めかして話しかけたが反応がない。ほっぺたを軽く叩いて呼びかけても無反応だった。
 どうやら本格的に失神しているようだ――。
「あ、あーッ! ど、どうしよ!?」

 どうにもこうにも気を失ってしまった以上は俺がどうにかするしかない。
 一先ずティッシュで出来るだけ2人分の体液を拭取り、脱がしたパンティとパジャマを上げ、布団をかける。
 次に、急いで部屋を出て階段を駆け下り、軽くお湯を絞ったタオルと乾いたバスタオルを用意。取って返して布団を捲り、意識がないままの姉を全裸にさせた。尚、つけていると窮屈だったのか、ノーブラである事に今更だが気がついてちょっと動揺。
「うッ!」
 アレな体液は勿論だが、汗まみれのまま病人を寝かすのは良くないという判断だが、ほんのりと赤く染まった姉の裸身は、正直魅力的に過ぎる。
 ムクムクと頭をもたげようとする欲望を必死の思いで押さえつけ、俺は濡れタオルで姉の体を丹念に拭いた。
 じっとりと汗をかいた乳房を固唾を呑みながらも丁寧に。足を開かせて、陰部に残るセックスの痕跡も、やはり丁寧に。
 必要以上の事は決してせず、ただ脳内メモリーに記録映像を残すだけにして姉の全身を綺麗にし、残った水分をバスタオルで軽く拭取った。
「で、あー。……服、服」
 部屋の片隅に置いておいた猫プリントのパジャマを手に取り、着せようとしてハタと気付く。
 ――先に下着だぁ。
 タンスを漁り、その一番下の段にあった下着を取り出す。何気に勝負下着もあって、一瞬手に取ろうとしたが、思い直して木綿の柔らかいヤツを選んだ。元よりノーブラだったのでパンティだけを穿かせ、乾いたパジャマを着せる。
 後は寝かせておこう、と思ったのだが。あれだ。布団が――大変な状態になっている。
 これはシーツだけ変えてもしょうがない。
 俺は姉の体を部屋の隅に横たると、布団を自分の部屋の物と取り替えた。
 そして、姉を抱き上げてそっと寝かせ、ようやく一息つく。

「あ、あー。熱が上がってしまいましたーっ」
 眠っている姉の体温を計ってみると、体温計は39.4度という数字を表示していた。
 当然の結果と言えば当然の結果である。

   /

 姉の洗濯物を洗濯籠に放り込む。血のついたシーツを自分の部屋の押入れに隠蔽する。汗まみれの布団をベランダに干す。など等、思いつく後処理を全て終えた俺は、姉のベッドの横に置かれていた洗面器の水とタオルを換え、その後はまっとうな看病に専念した。
 酷く苦しそうな姉の寝姿に、一時は救急車も考えたが、暫くすると例の座薬が効いてきたのか、熱は下がり寝息も安らかな物になった。

 その後、帰宅した母に看病の様子を褒められるという冷や汗物のイベントをこなしつつ、今日という日は終わった。


 翌日。
 寝起きの俺が昼飯を食べていると、姉が寝巻きのまま下りてきた。一晩ぐっすりと寝て回復したらしく、顔色も良く、足取りも確りしている。
 むしろ俺の方が青ざめているだろう――。
 何せこれから姉を犯したという大罪の裁きを受けるのだ。ノー弁護士で。
「あー、お腹減った。ご飯まだある?」
 が、どういうわけか。姉の態度は極々普通だ。
 ギギギとロボっぽい音を立ててゆっくりと首を縦に振る俺を尻目に、昨日の晩に母が作った雑炊などを丼によそっている。
 そして、テーブルにそれを置くと、やはり普通に俺の隣の椅子を引いた。
「げ、元気そうでスね」
「うん? お陰様でね」
 だが何を思ったのか、立ったまま俺の背後に回り、おもむろにワシワシと頭を撫でてきた。
「優しい弟が看病してくれたから」
「い、いや。当然の事ッスよー。ハハハ!」
 これはどうした事か。姉は俺の事を責めるでもなく、増して昨日の事に触れるでもなく、ただ「えらいえらい」と俺の頭を撫で繰り回している。

 ひょっとして――熱の所為で、記憶が飛んでるのかッ!

「うん、まあ。元気になってよかったデス」
「そうね。『たくさん汗をかかされた』し『栄養もたっぷり取らされた』から、ねッ!」
「ぐはぁッ!」

 姉さんきっちり覚えてました――ッ!

 その瞬間まで頭を撫でていた姉の腕が首に絡みつき、容赦ないチョークスリーパーが極まる。おまけに体重をかけてギシギシいうまで首を捻られた。
「ちょ、ま、――死ぬ……」
「まったく。こっちは病人だってのにあんな事してくれちゃって」
「う。深く反省してます」
 三途の川がおぼろげに見えた辺りで、漸く解放されたが、姉の腕は未だ首に掛かっている。そうでなくとも反省してた俺は、素直に尻尾を丸めて恭順の意を表した。
「私、初めてだったのに……あ、あんなに乱暴にして」
「ほ、ホントごめんなさい」
「本当に反省してる?」
「はい。……心からデス。正直、刺されても受け入れる所存デス」
「むぅー」
 大変な事をしでかしたのは分かっているので、刺されても仕方ないというのは本心ではある。死にたくはないけど。
 だから姉の気が済むなら、何でも受け入れるつもりだ。
 だってのに――これまたどうしたわけか、姉は俺の頭を今度は愛しげに抱きかかえた。
「じゃあ、良し。看病もしてくれたしね」
「え!? あの、姉さん?」
「でもねッ」
「は、はいっ!」
「……次は、優しくしなさいよ。――んっ」

 そう言って姉は、俺のほっぺたに軽くキスをした。


 うは、――姉ちゃん大好き。



 ――了

モ ドル