昼下がりの決闘

 時は10月。良く晴れた土曜日の午後。授業も終わり、購買で買ったパンを食べ終えたのは、丁度時計の針が 1時を差した辺りだった。
 人気のない旧校舎、その3階の一番奥。演劇部の部室はそこにある。隣には科学部、そして文芸部、天文部と並んでいるが、どこもまともな活動をしていない ので空家も同然だ。だがそれは我が演劇部にも言える事ではある。一応、部員数15名という事になっているが、そのほとんどはフェイク。つまり幽霊部員だ。 まともに活動しているのは俺ともう1人、3年生の先輩だけ。
 それでも先週行われた学園祭は、先輩の友人に音響や照明などを手伝って貰い、2人で芝居をした。部外者に手伝って貰わなくてはならないのが、正直辛い所 ではあったが。
 ただ、舞台そのものは決して悪くはなかったと思う。衣装やセットは、どこから調達してきたのか随分立派だったし、講堂を借りられたお陰で設備も揃ってい た。
 にしても、客の集まりは悪かった。全校生徒を収容できる講堂に、入った客が30名足らず。ほとんどがカップルで、暗闇に乗じてイチャイチャを楽しむのが 目的だったようだ。後はそれ目当てで来た盗撮趣味の高田君と米田君。いずれも写真部で俺のクラスメイト。
「部長が卒業したら、廃部かな」
 窓から外を眺めて、パックのコーヒー牛乳を啜る。スカートにスパッツでランニングをする女子ラクロス部が実に微笑ましい。ヒラヒラと揺れるスカートが特 に。
 彼女達の姿が視界から消えると、俺は鞄から漫画を取り出した。学園祭が終わってしまうと、弱小演劇部に出来る事は少ない。発声や寸劇などを自主的に行う くらいだ。3月になると卒業公演というものを1.2年生だけでやるのが恒例ではあるのだが、まあ今年は無理だろう。何しろまともな部員が俺しかいないのだ から。


/ 前編


「うーん。やるしかないかぁ」
 友人に借りたデスノートの3巻を読み終え、その余韻に浸っていると、先輩が思いつめたような表情で部室のドアを開けた。
 鳥居都子、3年。地味な顔立ちに眼鏡、髪は2つに分けてお下げを結っている。背は高からず低からず。だが目立たない容姿に反して、かなりはっちゃけた言 動で校内でも知られている、現演劇部の部長だ。演劇は好きだが面倒な稽古は嫌いで、むしろ裏方仕事に凝りまくる。そのくせ舞台には立ちたがるという厄介な 人でもある。まあ、打ち合わせと称して飯を奢ってくれたり研究会と題して映画を見に連れて行ったりしてくれる姐御肌な所があるので俺としては結構好きだ。
 で、今。その厄介な人は、入ってくるなり俺をじいっと見つめているのだった。頭の先から足の先まで、舐めるような視線で。そして腕を組んで一人、頷いて いた。
「まあいいか。コイツとなら」
 そう言うと、おもむろにつかつかと歩み寄り、長机を挟んで俺の正面に座った。
「聞きなさい、桜井」
「はぁ? なんでしょう」
「あのね。ちょっと困った事になったのよ」
「困った事、ですか」
 眼鏡をくいと押し上げ、いかにも困っているという表情を先輩はして見せた。この人は普段から芝居がかっているので、本当に困っているのか、担がれている だけなのか、分かりづらい。
「お金が必要なの」
「お金ですか。そりゃまた、難儀ですね」
 頭の中に警鐘がなる。今の内に逃げないとエライ事になるぞ、と俺の中の何かが叫ぶ。だが、ふと見ると、部室のドアの前にいつの間にやら椅子が数個さりげ なく並べてあった。逃げようとしても、あれをどかす内に捕まるだろう。なんて芸の細かい人だ。
「他人事みたいに言わないで。あんたにも関係あるんだから」
「え? 俺にも関係あるって……。な、なんなんです一体?」
「学園祭で舞台やったでしょう」
「は、はあ」
「あれが思ったより人集んなくてねー」
「ちょ、ちょっと待って下さい。俺にも関係あるとか、学園祭の舞台とか。話が見えないんですが……」
「再来週、生徒会の査察があるのよ」
「はあ? ますます分からないッス。最初からちゃんと話して下さいよ」
 鳥居部長は、一つ大きく溜息をついて語りだした。

 要するに、部費の管理に問題があったらしい。
 我が演劇部がまともな公演を行ったのは、今年は学園祭の1回だけ。それに掛かった費用は当然部費で賄われる。立派な衣装やセットでお金が使われたとは言 え、たかだか高校生の学園祭である。大した額にはなっていない。だから、与えられた部費には、未だ結構な残高があるはずだ。それは顧問の指導の下、部員に 管理が任されている。これは他の部も同じで、大抵は会計係が帳簿をつけて入出金を管理する。ウチは弱小なので部長である鳥居先輩が全部やっているのだが。
 そして再来週、部費がちゃんと管理されているかどうか、生徒会のチェックがあるのだとか。
 問題は――結構な余りがあるはずの部費に、余りが全く無いという事。

「えええ? 何でそんな事に? ひょっとして使い込みでもしたんじゃ……?」
 部長はキラリと眼鏡を光らせると、ダンと机を叩いた。
「ええ、したわ。しましたとも! さんざ使い込ませて頂きましたっての!!」
「そこで逆ギレですかよ! 林田先生は何も言わなかったんですか? って、ああ。言わないんですよね、あの人」
「言わないのよ。歳も歳だから、こっちに任せ切り」
 無論、演劇部にも顧問がいるのだが。その林田教諭は御歳68。公立の学校を定年になった後、私立である我が校に赴任してきた、いわゆる老教師だ。古典を 専門に受け持つ以外は特に何もしない。ウチの顧問も名ばかりである。
「いやだからって、そんな。部費の使い込みなんて」
「しょうがないじゃない! 去年まではチェックなんてなかったんだもん。部費は分捕ったモン勝ち。後は各部で好きに使う。これまではそれが当たり前だった のよ! なのに今年に限って査察だなんて……。あー腹立つわ。何ていったっけ、あの嫌味ったらしい生徒会長は。クルマダ? クツズミ? とか言う奴! 闇 夜で後ろから刺してやろうかと思ったわ!」
「轡田(クツワダ)ですよ。てかそんな物騒な。……って、俺関係ないじゃないですか! 使い込みって部長がやったんでしょ!?」
 そこでニヤリと笑った先輩は、わざわざ席を移動して隣に座った。そして俺のネクタイを軽く引っ張りながら小声で囁く。
「桜井君。あんた何度か私に晩御飯奢ってもらった事あるわよね?」
「げっ! まさか……」
「そのまさかよ。随分豪快に頼んでたわね。奢りだって言ったら随分嬉しそうに」
「だって、それは、先輩が……遠慮するなって」
「本当に遠慮しなかった君が好きよ、私は。ステーキも食べたし、お寿司も食べたし、挙句いつぞやは松茸御前まで。映画も見に行ったわよねえ、デートみたい でお姉さん楽しかったわぁ」
「そ、そうっスか」
「桜井君は楽しくなかった? 私と一緒で?」
 彼女の顔は一層近くなり、唇が俺の耳に触れんばかり。流石に逃げようにも逃げられず、俺は固まるしかなかった。
「あ、えーと。そりゃまぁ……楽しかったンですが」
「そう!」
 先輩は笑顔でポンと俺の肩を叩いた。
「じゃ、共犯ね」
「……えええーーっ!」
 それはいわゆる善意の第三者という奴ではないのか、と思ったのは後の事だった。この時は焦っていたのだ。何にせよ、共犯者の烙印を押されてしまった俺に は彼女に従うしかなかったのだ。

「で、どうするんですか。再来週までにお金集めないとマズイんでしょ? 何か手があるんですか?」
「うーん。それなんだけどね。もう思い切った方法を取るしかないわ」
「思い切った方法?」
「そうよ!」
 おもむろに立ち上がり、何故かブレザーを脱ぎだす鳥居嬢。そしてブラウスまでも脱ぎ去って近くにあった椅子に掛ける。あっけに取られる俺の前で、そのま ま彼女は手を背中に回し、パチンとブラジャーのホックを外した。
 どれくらいか。多分数秒だとは思うが、予想よりずっと見事に育っている先輩の乳房に見惚れた後、俺はハッと自分を取り戻した。
「せ、せ、せ、先輩! 出てます、チチ出てますってば!」
「いいのよ。あんたも乳くらいで慌てるんじゃない」
「いや、だって……」
「いい事? 私達はね。一週間で100万稼がなきゃならないの。分かる? 100万円よ」
「はぁ!? 何スか100万て! 部費ってそんなに貰えるモンなんですか!?」
「まさか!」
「じゃあ、100万て」
「色々あるのよ。アレとか」
「すげえ気になりマス!」
「気にすんな! 男だろ。チンポついてるんだろ! てか見せやがれこのやろう」
「わああっ! ちょっと! 何するんですか」
 俺の腰目掛けて飛び掛り、ベルトを外そうとする。こちらも抵抗はするのだが、揺れる胸が手に当たって、はっきり言ってそれ所じゃなかった。向こうもそれ が分かっているのか、わざと俺の手に胸を押し当てているようだ。そしてひるんだ隙にベルトを外され、俺はズボンとトランクスを一片に脱がされてしまった。
「ひんっ! 何て事するかなっ、この人はっ!」
「今からそんな事でどうするの。あんただって舞台でソレ出すんだから」
「へ? って、はあああ? どんな芝居やるんですか一体!?」
 先輩は乳丸出しのまま、人差し指と親指を立てた。いわゆる指鉄砲だ。それをこちらに向けて「バキューン」と言う。
「西部劇」
「西部劇て。変ですよ、チチとコレが出る西部劇なんて」
「甘いわ」
「甘いて」
「最終的には全裸になるから」
「最終的には全裸ですかよ」
「うん。舞台で本番ショー」
「……はぁ?」
「だから。舞台の上で生本番」
「なまほんばん?」
 ホンバンショー。聞いたことあるような無いような不思議な単語を耳にし、俺は思わずポカンと口を開けた。無論、局部は晒したままだ。
 そんな俺に、先輩は子供に言って聞かせるように、一語一語を区切って簡潔に説明してくれる。
「あんたと、アタシが。舞台の上で、セックスを、するのよ」
「先輩と、俺が。舞台の上で、セックスを、するんですか?」
「そう」
「………」
「………」
「………」
「………」
 窓を開けたままだったので、風がひゅるりと吹いた。白いカーテンが揺れる。俺と先輩の普通は見せちゃいけない所も揺れたような気がした。それくらい妙な 沈黙だった。
「はあああ!? ななな、何言ってんスか! セセセ、セック……ス、スって」
「"セックス"よ。滑舌良くはっきり言いなさい。演劇部員なんだから」
「で、でも、何だってそんな事を。おかしいですよマジで」
「しょうがないじゃない! こうでもしないとお金なんて取れないんだから! 学園祭の二の轍は踏めないの! しかも100万よ、100万。私が駅前に立っ て「ねえオジサマ」とか言ったって一週間で100万は無理なの! だから見世物をやるしかないのよ。幸い私達は演劇部。チケット一枚1万円で全校の男子生 徒に売り捌けばなんとかなるわ!」
「チケット一枚1万円……。てか学園祭の二の轍って?」
「ああ、お金取ったのよ。あの時はチケット1枚500円だったけど」
「金取ってたんですか!? 道理で客が入らなかったわけだ」
「そうなの。本気でお金集めようと思ったら、やっぱりヤルしかないの。分かった?」
「そんな無茶苦茶な」
「いいのよ。無茶が通れば道理は引込むんだから」
 冷徹な顔で、上半身裸の眼鏡っ娘は言い切った。やべえ、この人本気だ。くらくらする頭を抑えつつも、先輩とHできるのは嬉しいかも、と思ってしまう自分 が少し悲しかったような気がしないでもない。
 いずれにせよ従う以外には選択肢はなかった。

「で、桜井。あんた経験あるの?」
 むんずと俺のネクタイを掴み、何故か喧嘩腰で迫る鳥居嬢。眼鏡に光が反射して不気味だ。
「……いや、無いッスけど。先輩は?」
 こんな事を提案してくるくらいだから、当然それなりに経験があるのだろう。
「無いわ」
「無いわて。今俺が、"それなりに経験があるのだろう"ってモノローグで」
「メタな事言うのは止めなさい。あんたずっと私と行動してたでしょうが。私に彼氏がいない事くらい知ってるでしょ」
「はあ、それはそうなんですけど」
 確かに、地味だしキテレツな事ばっかり言ってるので、彼氏がどうこうというのは似合わない人ではある。週末も、家にいるか俺を引っ張りまわすかのどちら かだ。
「聞きなさい桜井。今、私は残酷な運命に弄ばれて18年間守ってきた処女を散らす事になったの。可哀想な私。でも行きずりの男や、金持ってるけど脂ぎった おっさんはイヤ。だからね、私は選んだの。どうせならずっと一緒にいた人がいい。私の忠実な下僕。私の言う事を律儀に守る忠義の者。私と同じ罪を背負い、 私と同じ道を歩む。そう、桜井芳弘。光栄に思いなさい。私はあなたなら処女をささげてもいいと思ったのよ! 文句はないわね? もしあるようならベルサイ ユへいらっしゃい!」 
 彼女は胸の前で両手を組んだり、その場でくるくる回ったり、俺をピシッと指差したり、口に手の甲をあてて高笑いしている。後で考えれば、この人なりに緊 張してテンパッていたのだろうとは思う。だがこの時は、何て変な人だ、としか思わなかった。
「ベルサイユて……」
 どこから突っ込んだらいいものか分からず、取り合えず最後の言葉に反応しておいたが、彼女はお気に召さなかったようだ。俺のネクタイをぐいと引っ張り、 再び喧嘩腰になった。
「何よあんた。ピチピチの女子高生が処女をあげるって言ってるのよ? あんたならいいってのも嘘じゃないんだから。まさか断ったりしないでしょうね?」
「いや、まあ先輩がそう言うなら……」
「じゃあ嬉しいですって言いなさい! 言わないならこの格好で職員室に逃げ込むわ。それで「桜井君に乱暴されました」って泣きついてやるんだから!」
「それは勘弁してください。……って、えーと……」
「えーと?」
「あ、はい。嬉しいです。本当に。先輩の事、結構好きだから」
 そう言うと彼女は、ホッと小さく息を吐いた。その瞬間だけは、いつもの強引で理不尽な先輩のものではなく、やはり彼女もか弱い女の子なんだなと思わせる に相応しかった。
「先輩……」
「桜井……」
 話の経緯がこんなんでなければ、俺は先輩を抱きしめて甘い言葉の一つでも囁いただろう。流石に局部を晒しながらでは格好がつかないが。
 それでも嬉しそうに先輩は俺を見つめた。
「じゃ、早速ヤルわよ」
「って、はぁああ? もうちょっとこう、ムードとか作りましょうよ! てか今からするんですか!?」
「何甘い事いってるの! 私達には時間がないのよ。査察は再来週。今日明日で準備して、月曜には第一回公演を開くんだから。それにチンポ丸出しでムードも 何もないじゃない! デリカシーって物が分かってない男ね」
「そ、そっちだって乳丸出しじゃないですか!」
「いいからホラ! 早く勃てなさい! 私も濡らすから」
「うっわ、情緒とか欠片もないっすね」
 とは言うものの。目の前で女子高校生がスカートを脱ぎ、秘所に手を当てているところを見れば、やはり健康な男子高校生としては素直に体が反応してしま う。
 基本的にインドア派の先輩は肌も白く、華奢で無駄な肉も付いていない。ストレートに言えば綺麗だった。2本のお下げが揺れて、乳首を掠めるのも見ていて 生々しい。それが良く見知った顔の彼女であれば尚更だ。
 上着を放り捨て、ネクタイを外し、俺は一歩近寄った。そしてゴクリと唾を飲む。
「せ、先輩。あの……手伝いましょうか?」
「んふふ。本当は自分が触りたいだけでしょ? なら、ちゃんとそう言いなさい」
 今まで聞いた事もなかった艶めかしい声で、体を見せ付けるように先輩が言う。
「う、……はい。先輩、触りたいです」
「ん。いいわよ。好きにしていいわ。さ・く・ら・い・くん」
 恐る恐る手を伸ばす。真っ先に触ったのはやはり胸だった。普段何気なく見てても余り気にしなかったが、結構大きい。平均を軽く上回ってるんじゃないだろ うか。掴めば手に余り、揉めば心地よい弾力があった。自然と息も荒くなる。
「はぁ、……先輩。凄いです、柔らかくて」
「――あっ! んっ。……そう? ふふ、ありがと」
 手だけでは飽き足らず、顔を近づけて先端を口に含む。固くなった乳首を甘噛みし、桃色の乳輪を舌でなぞった。
「あんっ、んっ。桜井っ! んふふ、子供みたいよ……」
 先輩は笑ったが、それを気にする余裕もない。俺は夢中で胸を揉み、口で吸い、舌で舐めた。
「んっ、胸ばっかり……。他の場所も、触って――」
「あむ。んっ。はい」
 リクエストに答え、俺は緊張で震える手を腹や背中に這わせた。ただ胸から離れるのが惜しいので、そこには顔を押し付けて頬擦りをする。本当に幼い子供み たいだ。
「んんんっ!」
 背筋に沿って撫で上げると、彼女は大きく震えた。足からふっと力が抜けたようで、倒れそうになる。俺はとっさに抱きとめた。そのまま手近にあった椅子を 引き寄せて座り、膝に先輩を乗せて愛撫を続行する。
「ふっ、ふあっ! さ、桜井っ! あん、んんっ」
 きっとお世辞にも上手いとはいえない動きだったとは思う。だが先輩はそれでも甘い声で悦んでくれた。それが嬉しくて、俺は全身を擦り付けて彼女を抱きし めた。
 膝が濡れている。何故か頭も濡れていると思ったら、先輩の涎だった。
「先輩っ、はしたないですよっ。上も下もダラダラ涎を流して」
「んっ、ああっ! あんたが、そうさせてるんでしょ……。あああんっ」
 秘所に手をやればトロトロの愛液が一杯で、それは俺の足を伝って床を汚していた。指で秘裂をなぞり、穴と思しき場所を押せば、その度に蜜の量は増える。
「ひゃあああっ! ……ねえっ、ねっ。脱がして! 脱がしてっ」
「はいはい。今脱がせてあげますよ。せ・ん・ぱ・い」
 彼女の我が侭は今に始まった事じゃないが、こんな事なら幾らでも応じたいものだ。俺は先輩の足を揃えさせ、薄いイエローのパンティーを片手でゆっくりと 下ろした。
 途端、タラタラといやらしい液が太ももを伝う。片足だけをパンティーから抜かせると、それは面白いようにくるくると縮まって、もう片方の足首に絡まっ た。少し考えて、俺はそれを抜き取って机の上に置いた。そして自分もYシャツを脱いで放り投げた。
「ほら先輩。これで2人とも素っ裸です」
「あっ、あっ。ぜ、全部脱いだのねっ、んんっ! あんっ、そう。舞台でこの格好になるのよっ! 私達」
「全部見えちゃうんですよね。こことかも」
「――ひっ! ひゃああ! んんっ、……そうよ、全部見せるの。皆に、全部、見せるのよっ!」
 秘唇を割り、小さな突起を指でつまんだ。仰け反り、叫び声を上げる彼女は。だが「見せる」と言う度に愛液の量が増える。
「ひょっとして、見せるの好きなんですか?」
「――っ! そんな事、ない。これは仕方なく……。ああんんんっ」
「でもほら。"見せる"って言う度に溢れるんですよ。先輩のいやらしい露が」
「違っ……私、人にこんなの――見せるなんて。ふああっ、ああっ!」
「また増えましたよ。もうびしょびしょだ。もしかして、見られながら自分でした事あるんですか?」
「ひんっ、ひんっ。そんなの、した事ないっ! んっ、んああぅ」
「じゃあ発見ですね。俺もびっくりだ」
 先輩に露出嗜好あり。凄い事実が発覚してしまった。ただ俺も興奮している辺り、自分も同じ穴の狢なのかも、とチラッと考えたが気にしない事にした。この 人と同じなら、まあいいやと思ったからだ。これが一時の気の迷いなのかどうかは後で分かる事だろう。
「んっんっ、ねえ! 私、もうっ!」
「うん、じゃあここに寝て下さい」
 先輩を抱き上げ、長机の上にうつぶせにさせる。愛液で濡れそぼった白い尻がひどく淫らだ。
 少し顔を近づけ、入れるべき穴の位置を確認する。初めては分からない事が多いと言うが、なるほど。そこは想像より若干下の方にあった。傷などつけないよ うに慎重に指を入れる。
「ここで、いいんですよね?」
「んああっ! 指っ、指が。……あんんっ。そっ、そうよ、そこでいいの」
「入れますよ?」
「んっ、お願いっ! あ、ゆ、ゆっくり……ね」
 既にこれ以上ないくらい勃起したペニスを秘裂にあてた。そして両手の指で開きながら、ゆっくりと腰を押し出す。濡れているとは言え、流石に狭い。
「う、うううううっ!」
「先輩? 大丈夫ですか? その、無理なら……」
「大丈夫、大丈夫だから止めないでっ! んっ、はあ、ああっ」
 苦しそうな彼女の声に気がとがめたが、止めるなと言われた以上は進むしかない。多少無理にでも俺はペニスを押し込んだ。
 ギチギチと鶏肉の筋を剥がすような音と感覚。だがそれは例えようもない甘美なイメージがあった。鳥居先輩の処女膜を、今、俺が破っている。
 きっと脳内麻薬が過剰な程分泌されている事だろう。彼女の膣内は狭くて苦しかったが、ペニスからは快楽しか伝わってこない。先輩が上げる呻き声も、何処 か遠く、良く聞き取れなかった。
 やがて全てが埋まり、俺は達成感と征服感に満たされた。このままでいたい、でも動きたい。そんな二律背反の衝動に襲われる。
 ぼうっとしたまま、俺は先輩の中に挿入した心地よさに酔っていた。と、急に腕に痛みが走る。気付いてみれば、彼女が爪を立てていた。急に現実感が戻り、 視覚と聴覚が回復する。
「っ! ゴメン先輩っ。今」
「ダメっ!! 動かないで、……そのまま。そのまま、ちょっと待ってて」
 酷く痛むのだろう。先輩は目に涙を溜めて堪えていた。言う通りにじっと待つ。だが思い立って片手を伸ばし、背中を撫でる。ゆっくりと、落ち着かせるよう に。
「あ、んっ。それ、いい。――続けて」
「はい」
 上から下に、首元から腰の辺りまで。優しく擦っていると、不意にペニスへの圧力が和らいだ。全身の力を抜き、彼女はぐったりとまどろむように目を細め る。暫くそうやっていると、次第に甘い声が戻ってきた。
「んっ、んあっ。んんん、気持ち良い。――背中、気持ち良い……」
 幸せそうに言ってくれると、やはり嬉しい。だが膣内の柔肉が蠕動を始めるに連れ、動きたいという衝動を抑えきれなくなってくる。
「先輩、動いていいですか?」
「ん。いいよ。でもゆっくりに頼むわね」
 腰を掴み、ほんの少し腰を引いた。それだけで恐ろしいほどの気持ちよさだ。あっという間に果てそうだった。
 足を踏ん張り、奥歯を噛み締めて抽送を開始する。既に一杯一杯で、気を抜けばその瞬間に射精してしまうだろう。
 腰を引き、そして進む。引いて、入れる。徐々にスライドは大きくなり、膣口までカリを下げ、また全部を埋められるようになった。
 でも今はそれが限界。もう、持たない。
「先輩っ! 俺、もう!」
「んっ、ふっ。ん、いいわ。いいわよ、好きな時に出して。んっ」
「中に、中にいいんですかっ! このままじゃ……」
「いいの! いいの、中に出して。私の中に、君のを全部! はうっ、あああん」
 それを聞くなり、俺は腰を振るスピードを上げた。中に出していいと言うなら遠慮はいらない。このまま体に身を任せてしまおう。
「あ、ん、んあ、くうぁーーーっ!」
「先輩っ!」
 脳髄から大きな振動が腰に流れ、吐き出されるように俺は射精した。彼女の膣の中に、たっぷりと。ドクドクと精液が流れ出す感覚がいつまでも続くような錯 覚を感じた。こんなのは初めてだった。これがセックスなのか。
 全てを出し終わった後も、そのまま動けなかった。手は先輩の尻を掴んだままで、ペニスは中に入ったまま。
 いけない。またぼうっとしてしまった。恨めしげな彼女の声が耳に届いて、俺は名残惜しいとは思ったが、腰を引いた。
 ズルリとペニスが引き抜かれ、同時に俺が吐き出した精子と、先輩の破瓜の証である赤い血が流れ出た。
「うーっ。桜井っ!」
「あ、はい。何でしょ?」
「動けない。何とかして」
「んあ。はいはい。分かりましたっと」
 長机にへばり付いている鳥居先輩を両手でずらして、そのまま抱え上げ、さっき座って愛撫してた椅子に再び座りなおす。
「あ、うー。こんな、お姫様抱っこされても……」
「え? あ、違いましたか?」
「ん……いや、いいけど」
 そう言って拗ねたように顔を逸らす先輩は、素直に可愛い。でも爪を立てた所をもう一度引っ掻くのは出来れば勘弁して欲しい。痛いので。
「あの、先輩。それ、とても痛いッス」
「うるさい。私はもっと痛かった!」
「はぁ」
「……いいわねー、男は。最初から気持ちいいばっかりで」
「や、でも先輩も気持ち良いって言ってたじゃないですか」
「そりゃね。最初は良かったわよ。ん、その、撫でられてる時は。でも何よあれは! あんなに痛いなんて聞いてなかったわよ!」
「はあ、個人差もあるそうですし」
「くっ、この男はっ! わたしはね「あ、このやろう刺しやがった!」って思ったのよ! 思わず走馬灯見ちゃったの! 分かる!? 幼稚園時代の天使のよう に愛らしい私が頭の中で踊ってたのよ! アブラハムと7人の子供をっ!」
「えーと、1人はのっぽで後はチビなんでしたっけ?」
「そうっ、それよ! ……けど、うー。誤算だったわ。まだジンジンしてる」
 ほっとくとどんどんヒートアップしそうなので、俺は先輩を膝に乗せ、肩やら背中やらを撫でた。特に背中が好きなようなので、そこを重点的に。
「あっ、――んっ。……くんっ」
「手、動かすと痛みますか? 止めた方が?」
「んんっ。んっ、いい。……そのまま続けて」
 やはり背中がポイントのようで、目をつぶって大人しくなった。これは忘れずに覚えておこう。
 しかし舞台でセックスをやるなどと言っていたが、この痛がりようで出来るのだろうか?
「先輩。ホントにやるんですか? 1万円の芝居」
 彼女は暫く唇を噛んで考え込んだ後、カッと目を見開いて答えた。
「やるわ。やるのよ。それしか道はないんだから。使い込みがバレたら退学じゃ済まないのはあんたも分かるでしょ?」
「はあ、そうですけど。まぁ、いかがわしい舞台がバレてもただじゃ済みそうにないんですが」
「その時はその時だわ。見た奴全員道連れにしてやる! 事が大きくなり過ぎれば学校側も隠蔽に走るでしょ。私立だし。学校としての信用問題にもなるから」
 思わず天上を見上げた。えげつねえ。えげつねえよ、この人。本当にこの計画に乗って大丈夫だろうか。
「桜井ー。私達、地獄に落ちる時は一緒よねー」
 などと、裸のまま首に抱きついて言われれば男として、「……はい」と言わざるをえないわけで。どの道、俺の命運もこの人に任せるしかなかった。
「まあ、それはそれとして。痛むんじゃないんですか? それで舞台は辛いんじゃ?」
「そうなのよ。そこなのよ目下の所、問題は」
「どうするんです? 月曜でしょ? 第一回は」
「しょうがない。今日明日で出来る所までやるしかないわね」
「と言うと?」
「あんた今日ウチに泊まりなさい。それで私が気持ちよくなれるまでHするのよ」
「……ええと。女性が、その、本番で気持ちよくなるには、結構な回数をこなさないといけないって、聞いたことが」
「だから、その結構な回数をこなすのよ」
「………」
「………」
「マジすか?」
「マジよ」
 そう言うと先輩は俺の膝から降りて自分の鞄を漁り、ビニール袋から濡れタオルを2枚取り出して1つをこちらへ放った。これで体を拭けという事らしい。用 意がいい人だ。
 2人が使ったタオルに赤い血が付いているのが目に残った。

 放り出してあった服を着て、床を雑巾で拭く。それが終わると先輩はクイッと俺の手を引いた。例によって眼鏡が光るのがちょっと怖い。
「じゃ、行きましょうか。私のウチに。ああ、桜井はお家の人に電話しなさい。今日は知り合いの所に泊まるからって」
「……は、はい」
 嬉しい事は嬉しいのだが。何故か俺は、上機嫌で廊下を歩く先輩の後を、トボトボと付いて行った。気分はドナドナだった。



 ―――中編へ。

モ ドル