プリンセス スタディ

 

 王様と王に連なる一族は、それぞれが特技を持っている。
 国王はジャグリングが得意だし、王妃は竪琴で流行歌を弾くのが上手い。王弟はプロ顔負けの手品の腕を持ち、王太子はバナナの叩き売りで右に出る者はいない。第一王女は踊り子としてステージに立てるほどだし、太后のパントマイムは国内随一かもしれない。
 そして第二王女シルディーナ・フィル・クエーヌ様は現在、熱心に飴細工の修練を積んでいる。
 身内だけで集まった時に披露しあう事はあるが、臣下の前、特に貴族達に見せる事は決してない。勿体ぶっているわけではない。他国の王族を接待する時に楽しんで貰う為でもない。通常、これらの特技が日の目をみる事は、あってはならないのだ。
 下賎な大道芸人の技を、では何故、王族が身につけるのか?
 無論、気晴らしの為の趣味などではない。これらは最悪の場合に備えての訓練なのだ。最悪の場合とはつまり、一時的に国を追われた時である。他国との戦争で城を落ちのびた場合を想定しているのだ。或いは他国に赴いた際、不意の襲撃を受けて護衛の騎士たちと離れた場合にも役に立つ。
 まさか王族ともあろう者が、道端で見事な芸を披露して金を稼ぐなど――ありえまい。そんな思考の隙を付く、王族ならではの緊急用特技なのである。
 国王との親交も厚い公爵級の大貴族にすら秘密なのは、特にそういう連中こそがイザという時に最も脅威となるからだ。実の所、真に警戒すべきは貴族達によるクーデターなのである。秘密裏に他国と結んで戦を起こし、城詰めの兵士が前線に赴いた隙を狙って反乱を企て、自らが王に成り代わる。現王朝もそんな経緯をもって興されたのだ。決して歴史書には残らないが。
 だから王族たちが身につける特技は、本当に一部の者しか知らない。本人と、貴族籍を持たずに叩き上げた宿老とも言える大臣、それに常日頃から身の回りの世話をする僅かな供回りの者。それくらいである。
 教授役は、やはり貴族籍を持たず一生を王族の世話に捧げる供の者が行う。先ず自分で習得し、それをお教えするのだ。
 俺もまた先祖代々の王家使用人の末裔であり、小さい頃から芸を仕込まれた。仕えるべき方に秘密の特訓を行い、イザという時には芸人一座として振舞うのだ。俺は特に露天販売系に強い。焼き鳥屋、ジュース売り、啖呵売。そして飴細工。
 今現在も、城で下人をやりながら第二王女に先生と呼ばれる仕事をしている、のだが。実の所、教えているのは飴の売り方だけではない。
「んっ、あ! はぁ……ハァ。あ、あんッ。気持ち……良い、ですっ」
「姫様。大分、お慣れになられましたね」
「は……いッ。んぁぁ、そなたの、んっ。お陰で、あ、ああッ。んぁぁ」
 人目につかない王城の一角、かつては王族内の危険分子や表に出せない白痴の子が幽閉されていた事もある尖塔の最上階。そこにしつらえたベッドに着衣を乱したシルディーナ姫が横たわり、俺は彼女の股間を下着越しに舐め上げていた。
「ああッ! んぁあ……ん、私――の体が……あ、熱く。んっ、んああ」
「姫様。今少し、堪えていただけますよう願います」
「んぁ、あっ! は、は……い。んっ、くぅ、んんっ」
 そっとベッドに乗り、切なそうに悶えている姫を抱き起こす。そして俺はワザとゆっくりと、白いドレスを脱がせ始めた。背中の紐を解き、そうっと体を撫でながらドレスを緩めていく。そのジンワリとした刺激に涙を浮かべる彼女だが、コルセットに包まれた胸の、特に先端を指が掠めると高らかに悲鳴を上げた。
「ん、んあぁっ。やああーッ! お、お願いです……い、一度、んっ、果てさせて。くぅっ、あ……あッ!」
「ダメですよ、姫様。もう少し頑張って下さい」
「で、でもっ。ん、あっ! 私、もう……耐え切れませ、んぁぁ」
「恐れながらシルディーナ様。それでは客に叱られますぞ」
「ん……んーっ! でもっ、でもッ。体が、言う事を……んぁっ、きかぬのですっ」
 腰や脇腹などをサワサワと指先で撫で回しながらドレスを脱がす。次いで、狂おしげに身悶えする姫を押さえつけてコルセットを緩め始めた。下を見れば、股間を覆う布は俺の唾液とは無関係にシトシトで、細く白いおみ足が露に濡れている。
 全く、良くもまあエッチに育った物だ。この講習を始めてまだ一ヶ月だというのに。
 スンスンと鼻を鳴らして俺を求めようとする王女の姿に、俺は内心でニヤリと口を歪めた。
 教えているのは、体の売り方だ。
 例の秘密特技の一環であるから、高級娼館などでの立ち回り方ではない。道端で男を誘い、一晩幾らで体を売る街娼の教育だ。詰まる所、ひたすら男の欲望に身を任せる訓練である。勿論だが、倫理的にどうこうというのは最初から口に出してすらいない。姫様には「人には肉の快楽がある事」と「その交わりが一般的な商売になっている事」くらいしか知らされていないのだ。彼女は、これが子作りの方法である事すら未だ教えられてないのである。
 だからシルディーナ姫は、俺のする事を素直に、何の疑いも持たずに受け入れてしまった。最初こそ破瓜の痛みに泣きわめいたが、性感を体で覚えるや、むしろ俺の講習を心待ちにする始末である。
 来年には――輿入れが決まっているのに。
「あっ、あっ……ぐす。ねぇ、お願いだから……私を」
「分かりました。でも明日はもっと頑張るんですよ?」
「ん……っ、はぁ。え、ええ、そうします。だ、だから……んっ。早く」
「はい。姫様」
 コルセットを外し、程よく、そして美しく膨らんだ乳房を愛撫する。と、ついに泣きが入った。文字通りポロポロと涙を零し、一国の王女が城勤めの下男に哀願を始めたのだ。手引きしたのは自分だが、実に簡単な姫様である。愛液でビッショリになった下着を脱がせながら、俺はそっと彼女の唇を吸った。
 さて。とある大国に輿入れが決まっているシルディーナ王女に、こんな『特技』を仕込むのはアリなのかナシなのか? 答えは勿論ナシである。処女性も重要事項の一つである王族の嫁入りだ。当の本人が処女でないのは困った事態であろう。にもかかわらず、彼女がこんな教育を受けさせられているのは、これが陰謀だからに他ならない。
 王族には、王族同士で相争うケースを想定して、本当に誰にも――父王や実の母である王妃にも喋ってはいけない、秘密の秘密の特技がある。そう吹き込んで、飴細工の修練の傍ら、体の性的開発をしているのだ。婚姻話を潰し、嫁ぎ先の国と我が国の関係を悪化させるために。
 結婚が決まっているのに姫様が閨の作法はおろか、子作りの方法すら教えられていないのはこの辺に関係している。無垢である事を求められているのだ。体だけでなく知識の方も。それがシルディーナ様のイメージを保つ為なのか、嫁ぎ先のリクエストなのかは知らないが。
 因みに陰謀の仕掛け人はウチの国、随一の公爵様である。何というか、王家の秘密特技の存在はとっくにバレバレであった。
 公爵にどんな思惑があるのかは分からない。ただ現実問題として我々使用人一族はいつの間にか公爵家に抱き込まれ、その手先になっている。密かに王を暗殺するのも簡単に出来てしまうのだ。そして差し当たり、現在下っている指令が『第二王女シルディーナ様の処女性を奪い、肉欲に溺れさせる事。何なら妊娠させちゃうとモアベター』なのである。
 そこで当初から飴細工を教え、姫様本人とも親しい俺が実行犯として白羽の矢を立てられた。ぶっちゃけた話、首尾良く事が進んだ後、俺は密かに始末されてしまう可能性も高いのだが。まあ仕方ないかな、という思いはある。因みに表向きの犯人は、公爵とライバル関係にある伯爵家の次男坊で、姫様の護衛を勤めるエリート騎士になる予定らしい。そっちの逆アリバイ工作も俺が絡まされているから事実だ。捨札は最小に、そして効率は最大に。流石は王族にとって最大の脅威である。えげつないったらない。
 事の背景は以上だ。要するに俺は『秘密の秘密の講習』と偽って、王女様を徹底的に可愛がってしまえばいいのである。見張りと人払いに関しては他の者が担当しているから問題ない。そもそも王族しか立ち入りを許されない塔で、仮に王や王太子がフラっと現れても「現在、姫様が例の特訓中です」と耳打ちすれば不審にすら思われない。実際、並行して飴細工も教えているのだ。後は本人がうっかり口を滑らさないかどうかだが、うっかり発言をしないような教育は洗脳同然に施されているのが王族である。ほぼ心配はあるまい。
「では姫様。おみ足、開いて頂けますか」
「はぁ……んっ。こ、これで、いいですか? ん、んぁ」
「はい。じゃあ、挿れますよ。力、抜いて下さいね」
「んーッ! はぁ、は――ぁ、ああッ! あぁ、私の……中に、んああぁぁ」
 全裸になった姫様を仰向けに寝かせ、両足を大きく開かせる。そこへ俺は覆いかぶさった。そして硬くなったペニスを彼女の性器に当て、蜜を擦り付けてからヌプと先端を埋める。堪らず歓喜の声を上げる姫様の顔は、心底嬉しそうにほころんでいた。
 蝶よ花よと育てられてはいるが、やはり雁字搦めの生活を強いられる王女様である。対外的に友と呼ぶ貴族の令嬢はいても本当の友達などいない。身の回りに侍り、本音を漏らせるのは極度に限られた人物だけなのだ。その一人であり、屈託なく信頼できる男に丁寧な愛撫を受け、女性器一杯に快感を注がれるのは至上の幸福だろう。その行為の意味を理解し、男が酷い裏切り者である事を知るまでは。
「んああッ! あ、あ……っ。くぅ、んぁ。良い、気持ち……良いです。ん、はぁ」
 無垢で純真な心はそのままに、姫様は身悶えして快感に震えている。最早、無垢でも純真でも無い膣内は蕩けるほど熱い蜜で溢れ、恐ろしく繊細な襞がペニスに擦られてゾワゾワと蠢いていた。
 可憐な花と他国の住人にまで唄われるシルディーナ姫ではあるが、ベッドの中では一人の女である。だがそれでも流石と言うべきか、姫様は快楽に喘ぎ悶える姿さえ可憐で美しかった。真っ白な雪のようの肌が上気して紅を纏い、金砂の髪は千々に乱れて目も眩むばかり。上品にフワリと膨らんだ乳房は最高級の生クリームよりも見た目に甘そうだ。その先端でプクりと存在を主張する薄桃色の乳首は、本人が作る下手な飴細工など比較にならないほど綺麗で繊細である。
「やんっ。んっ、んあぁ……あっ、奥に――私の奥にまで、んっ。そなたの、物が」
 今正に口いっぱいにペニスを咥えている性器も、やはりどこか並の女とは一線を画していた。薄めながら生え揃った恥毛すら髪と同じ色で工芸品の輝きだ。男の味を知り、涎を垂らして俺の物を頬張るようになった陰唇も、穢れなき処女の印象を未だに損なっていない。清らかなまま淫らに、欲望を楚々と、行儀よく貪るのだ。邪気のない子供のような顔を陶然と歪ませて。
「あ、あ……あっ。奥、が――こじ開けられ、て。んぁ、あ――」
 そんな王女様の膣内を遠慮なく肉棒で味わい、細い腰を掴んで抽送。髪のように細く、だがプディングよりも柔らかい襞がネットリした蜜と混ざってペニスに絡みつく。入れてジッとしているだけで堪らない心地良さだ。
 ゆっくりと深く潜り込むと、最奥の壁が待ち焦がれていたように吸い付いてきた。ギュッと細い腰を押さえて僅かにペニスの角度を変えて突くと、熱くて厚い肉の壁が上下左右に少しずつ広がる。子宮に至る細い道が開き気味になりつつあるのだ。
「あ……あっ。かはっ、んぐぅ……。ふぁああっ! だ、ダメです――抜いては、いけませ……んっ、あ。あっ!」
「姫様。客に注文をつけてはいけませんよ」
「んあぁっ。で、でもっ! でも……んっ、わ、わた……くし、やぁぁッ! もう、もうっ」
 膣の奥、子宮口付近を念入りに亀頭で擦ると、最近富にその辺りの性感が増した姫様は身を捩って強く悶えた。白く細い指で俺の肩や鎖骨を弱々しく掻き毟り、喘ぎ声が止まらなくなる。最早、唾液を啜る事も出来ず、口の周りから首筋にかけてまでベタベタだ。
 ペニスのカリで膣壁を擦りながら陰茎を引き抜き、一旦彼女の入り口まで戻ると、そのまま出て行かれると思った姫様が涙を零して「抜くな」と哀願してくる。高貴な顔がくしゃくしゃだ。それを甚振るように、俺は敢えて膣の浅い部分で緩い抽送を行う。
「うああっ。や、やぁッ! お、おかしく――なりそぅ、んああッ。もっと、奥に――んっ、挿れなさ……い。う、うぁぁ」
「ダメですよ姫様。街娼の訓練なんですから。何かお願いする時は、ちゃんと御教えした通りに仰って下さらないと」
 流石に王族だけあって、柔和で心優しい姫様も咄嗟の時は上から目線で物を言う。だが人徳も手伝って不快感などまるで無く、むしろ幼い子供が駄々を捏ねているようで可愛らしい。まあ、そんな事を考える俺こそが不敬不尊甚だしいのだが。
「ん、あ、あッ。お……お願いです。どうか、この卑しい女に……んっ、お情けを――あ、あっ、下さいませ。ん……はぁ、あっ」
「はい。良く出来ました」
 だからこそ、王女殿下の体を好き放題に抱くのもさる事ながら、そんなセリフを仕込んで言わせるのは背筋が痺れるほど刺激的である。もっと姫様が羞恥プレイに慣れてきたら雌犬とか言わせてみよう。そもそも夜の街角に立つ女にしては、先ず口調が丁寧過ぎるのだが。まあ、本当に街に立たせる事を想定しているわけでなし。
「んああっ! あ、また――奥まで、来た。んっ、んあぁ。嬉し……い。んっ」
 リクエストに答えてズブズブと肉棒を膣一杯に埋め、少しだけ引いてまた深く突く。と、狂おしげに歪んでいた彼女の顔も花が開くようにほころんだ。そしてそのまま目が焦点を失い、急激に息が荒くなる。如何せん限界のようだ。ここまで来ると放って置いても絶頂を迎えてしまうだろう。無論、どうせなら最高に気持ち良く果てて欲しいものだ。
 何より、かく言う俺自身もそろそろ我慢の限界である。彼女の手前、余裕を見せてはいるが、いい加減それもここまでだ。
「んぁ、あっ、ああッ! ふぁああ――っ。んっ、んぁ……あぁぁ」
 姫様の両足を抱えてそっと持ち上げ、こちらの腰に巻き付かせる。そしてやや前傾して膝を立てた俺は、引いては突く抽送の速度を徐々に上げていった。決して広くはない尖塔最上階の一室に、ジュプジュプと淫らな音が反響する。それ以上に甲高い王女の喘ぎ声と共に。
「ひぁあ、あッ! あ、ん――っ。わ、私……ん、んあああぁっ!」
 やがて細い体を振り絞って姫様が悲鳴を上げた。同時にウネウネと蠢いていた膣が収縮を始め、キューッと俺のペニスを絞り上げる。こちらも密かに唇を噛んで堪えていた衝動を解放。弓なりに反り返るシルディーナ王女の背中を抱きしめ、思い切り精液を放つ。先端を膣の最奥、子宮の入口に押し当てて。
「う、あっ。あ……入って、来ま――す。んぁ、あっ、熱い……」
 ドプ、ドプっと音を立てんばかりの射精感に俺は打ち震えた。それは姫様も同様で、胎内に注がれた精液を歓喜の表情で迎え入れ、絶頂の快感に体中をガクガクと揺らせていた。
 貪欲に子種を飲み込む膣は、ペニスを咥えて幾度もキュ、キューと締る。それに合わせるように彼女はゆらりゆらりと胴体をくねらせる。心の底から幸せそうな表情で、言葉も無く俺の首に抱きつき、身悶えしながら性の快感を堪能しているのだ。
「ん……んふ。んー、くぅ――ん」
 痙攣じみた膣の収縮が治まってくると、姫様の瞳にボンヤリと光が戻り、俺の顔が映し出される。優しく抱きしめて頭を撫でると、彼女は地位も立場も完全に放り出して目を細め、うっとりした表情で甘えてきた。建前上の目的である講習の事など、これっぽっちも頭に残っていまい。
 素で王女様に甘えられるのは素で嬉しいが、それはそれとして陰謀的思惑にも合致している。シルディーナ様の根の深い部分に、男への肉体的依存心を植えつけるのだ。
「はぁ……はぁ。んっ、そなたの手は……んっ、気持良いですね。ふぅ……んっ」
「恐れ入ります。姫様」
「ふふふ、畏まらなくて良いのです。んっ、あふ……。もっと、撫でて下さいな」
「はい。では、遠慮なく」
 言葉の上でこそ落ち着いているが、甘く鼻に掛かる声で愛撫を求める姿からは、肉の悦びにのめり込んでいる様子がありありと伺えた。ペニスを深く挿入したまま、クタッと力を抜いて身を任せてくる姫様を両腕で包み、背中や肩、そして髪を丁寧に撫でる。まだペニスは挿入したままだ。何が彼女の感覚を支配しているのか、その身に刻んで貰うのである。
「あぁ、何て――心地、良いのでしょう。んっ、はぁ……ふふ、ふふふ」
 ジワリと股間付近に温かい粘性の水分を感じる。まだ絶頂の余韻は継続しているらしい。膣の内部がモゾモゾと蠢いて肉棒にすがりついているのを感じた。丁度、姫様が俺にすがりついているように。余程、感じ入っているのだろう。こみ上げるような微笑みが浮かんでいる。そこまでナチュラルに喜んで貰えるとは光栄の極みだ。
 暫くの間その体勢を維持し、シルディーナ王女が心から満足した所でペニスを抜く。そしてゆっくり上体を起こし、俺はまだ硬度を保った肉棒を彼女の顔に突き付けた。
「さあ、姫様。最後の行程をお願いします。飴を売るのと同じで商売ですから、感謝の気持ちを忘れてはなりませんよ」
「はい。私の体を買ってくださる方に、お礼の意味を兼ねて綺麗にして差し上げるのですね」
 姫様も上半身を起こし、ペタンと女の子座りになる。そして目の前に差し出されたペニスを丁寧な手付きで支え、そっと先端に口付けた。行為に対する抵抗感は欠片もないようで、むしろ目を潤ませて愛おしげに肉棒を口の中に含む。
 教えた当初は戸惑っていたが、今では慣れたものだ。何を言わずともペニスを濡らす愛液と精液を舌で舐め、唇で吸い取り、味わうように喉を鳴らして飲み込む。先ずは亀頭から、次に顔をズラして横から陰茎をハムっと咥え、チロチロと舌先で撫でるように。
 祈りを捧げる聖女のように真摯に、穢れを知らない幼子のように無垢な顔で、夜の暗がりで客を取る娼婦のような行いに浸る、国の宝花と讃えられる第二王女――。決して幸せにはなれない不遇の姫君。遅くとも半年後には深い絶望に身を落とす彼女も、今だけは喩えようのない幸福感に身を委ねていた。
「んっ、ちゅ……はむ。んっ、んむ――んっ、んぁ」
「上手になられましたね、シルディーナ様」
「んく。ふふっ、そなたのお陰です。んっ、あむ……んっ」
 乱れた髪を軽く手櫛で梳きながら口淫の上達を褒めると、姫様は嬉しそうに微笑む。そしてペニスの付け根や睾丸周辺まで綺麗に体液を舐め取ると、再び先端を口に含んだ。今日の講習を名残惜しむように、少し寂しげな表情で。
「姫様、お口に出します。吐いてはダメですよ」
「ん、んっ。ええ、心得ております。んく……んむっ」
 そんな顔をさせているのが、他の誰でもない自分だと思うと背筋が震えるほどの興奮があった。裏切り、裏切らせている背信的愉悦とでも言うべきか。決して許されず、彼女本人を含めた多くの人を絶望に追いやる外道の快感だ。思わずゾワゾワとした何かが体中の神経を駆け巡る。きっと今の俺は大層酷い人相になっているだろう。
 それと同時に股間の快感も膨れ上がった。姫様の舌と唇で奉仕されたペニスが射精の衝動を抑えきれなくなる。俺は彼女を促して受け入れの体勢を取らせ、それまで這い回っていた舌が動きを止めたのを確認して姫様の頭をそっと支えた。そして腰の奥に力を込める。
 びゅぅと精液が尿道口から溢れ出した。品良く僅かに口を窄め、シルディーナ様は出された物を一滴も漏らさないよう懸命に受け止める。そして細い首をコクリと鳴らして飲み込んだ。だがまだ口はペニスから離さない。そのまま先程の続きのようにピチャピチャと亀頭を舐め、口に残った分の精液と共に喉の奥へと送る。
「んっ、んー、んく。んぐ、あむ……んっ、んふぅ。どうです?」
「はい。ちゃんと飲めましたね。お見事で御座いました」
 俺に髪を撫でられ、うっとりと目尻を下げながら丁寧に男の物を舐め続けていた姫様は、それが磨かれたように綺麗になって漸く顔を上げた。実に機嫌良く、そして誇らしげにこちらを見上げている。まるで投げられた木切れを走って取ってきた子犬のようだ。
「ふふふ、違います。そなたの感想を聞いているのです。気持ち良かったですか?」
「ええ……それはもう。天にも登る心地でした。このまま命が尽きても構わないほど」
 だが俺の返答は少しばかり的を外したらしい。姫様がクスクスと可愛らしく笑う。これは最後に来て一本取られたようだ。仄かに苦く笑って参った事を認めると、彼女はニッコリと顔をほころばせた。
「うふ。死んではなりませんよ。そなたには、まだ教わりたい事がたくさんありますからね」
「はい。姫様――仰せのままに」
 これで本日の秘密特技講習は終わりだ。俺は予め用意してあった温水に柔らかい布を浸し、王女様の顔や体を拭う。まだ芯に残った熱が冷めやらないのか、彼女は乳房や股間部を触れられる度に悩ましげな溜息を漏らしている。だが一通り拭き終わると実にスッキリした表情になった。事実、スッキリしているのだろう。はしたなくも「んーっ」と伸びをする顔は公務の疲れも抜けて晴れやかだ。
 白い普段用のドレスを着せ、自分もササッと身繕いを整えると、俺は姫様を連れて尖塔最上階の部屋を出た。そして塔の半ば辺りで待機していた侍女に後を任せる。当然ながらその侍女も公爵の密命を受けた陰謀仲間だ。布で拭ったとはいえ、まだ情交の匂いが抜けていないシルディーナ王女を改めて湯殿に連れて行くのである。
 互いに軽く目配せしてから、姫様に頭を下げて別れを告げ、俺は例の部屋に戻って後始末を行った。ベトベトになったベッドを見ると今更ながらに自分のしている事に恐怖を覚えるが、まあ何にせよ俺は偉い人には逆らえない。どの道、なるようにしかならないのだ。であるなら、イザその時が来るまで精一杯王女様の体を楽しませて貰おう。
「あ、そうか。今日は夜会があるんだったか」
 時間を掛けて部屋を掃除した後、尖塔を出ると城の広間から賑やかな声が聞こえた。太后様主催の親睦会のようなパーティで、大掛かりな物ではないが若い貴族や上級騎士なんかが集まる予定だった筈。お呼びでない俺は城の一角にある使用人部屋に戻りつつ、渡り廊下の影から横目で華やかな広間を眺めた。
「おっ、流石は姫様。注目を独り占めだな……」
 その可憐な美貌を惜しげも無く振りまくシルディーナ第二王女は、やはり参列者の視線を集めている。柔らかい物腰に柔和な笑顔、だが清楚でありながら何処か艷めいた白い肌。音に聞こえた大貴族の子弟や、名うての騎士たちが次々に跪いてはポーッと見惚れていた。さもありなん。だが彼らは夢にも思わないだろう。
 可憐にして清楚を唄われる王国の姫君が、まさか今この時、胎内を満たす精液の温もりに頬を緩めているなどと――。
「あの笑顔、まんまイッた後の顔じゃないか。全く、困った姫様だ」
 体の奥に残った精液が揺れて、気持ち良くなって来たのかもしれない。ほんのりと頬を赤らめ、彼女は幸せそうにフニャと目を細めていた。本当に素直で嘘のない御方である。
 さて。そろそろ後ろの穴にも手を出してみるかねぇ。
 そんな事を内心で考えながら、俺はのんびりと使用人部屋への道を歩いた。ノッてきた姫様が夜会の最中に果てたりしませんようにと祈りながら。



 ――了。

モ ドル