文化の夕暮れ

 

 秋の日はつるべ落とし。
 流石にストンと太陽が消えるわけではないが、10月も半ばになると日が暮れるのも早くなる。
 俺こと高町和人はうんざりとした顔を隠そうともせず、ジャージ姿で校内の長い廊下を歩いていた。目指すのは体育館の奥にある、その名も体育倉庫だ。
 それなりに盛況のうちに終わった文化祭。その後片付けをしているのである。
 写真部所属の俺が、何ゆえ体育倉庫に用があるのかと言えば、それは頓狂な先輩の尻拭いに他ならない。『何かしら面白い展示方法をしたい』と言い出した部長が、体育倉庫から玉入れの籠を持ち出し、その中に写真のパネルをぶち込むという暴挙に出たのである。確かに斬新ではあったが、見物人の感想は特に振るった物ではなかった。
 先輩はやりたい事をやって満足げではあったが、片づけを押し付けられた下級生としては溜息しか出ないというのが実情である。
 そんなわけで重い鉄籠を持って体育倉庫まで来たのは良いのだが、俺はそこで更に頭を抱えた。

『元通りに片付けておく事』

 という張り紙を見たからである。
 こんな物、適当に放り込んでおけばいいと思っていた。が、元通りとなると話は変わる。既に大方の物がキチンとあるべき場所に納められていたのだ。良く使うボールの籠やライン引きなどは手前に、授業で偶に使うマットや跳び箱は中ほどに、めったに使われない予備の卓球台や同じく予備のバレーのネットなどは奥に。
 そして、1年に一度、体育祭でしか使われない玉入れの籠が収められるべき場所はというと、狭くて物が多いこの倉庫の最奥である。
 要するに、様々な物をどかして、奥の奥に玉入れの籠を安置し、もう一度退かした物を元の位置に収めなければならないのだ。
 なんて面倒な――と、愚痴を幾ら零した所で事態が勝手に片付く筈も無い。
 俺は溜息を一つ吐き出すと、先ずはこれとばかりに、重いボール籠を手に取った。
 物音がしたのはその時である。
「うん? 森下?」
「あ、高町君!」
 観音開きの重い鉄扉を開けて、1人の女生徒が姿を現した。手にベニヤで出来た看板を持っている。それはいい。それは問題じゃない。では何が問題なのかと言うと、彼女の格好が問題だった。
 体操服に、ブルマー。なのである。白い体操服には御丁寧にゼッケンで、クラスと名前が入っている。ブルマは勿論オーソドックスな濃紺。
 それ何てサービス? 等とは言えなかった。自称紳士であるが故に。
 何かと腰の重い公立の我が校だが、それでもブルマは数年前に廃止になっている。現在、女子の体操服はポロシャツにショートパンツだ。
「あー、森下。それは一体?」
「あ、うん。ウチの出し物で使ったの。喫茶店の宣伝用の看板に」
「いや、そっちじゃなくて。あー、お前さんの格好の方なんだけど」
「え? あ、……やだ。た、高町君」
 顔を赤らめて両手で体を隠したのは、森下恵理。俺とは結構古い知り合いだ。小中と同じ学校に通い、高校まで同じというから、もう10年の長さになる。と言っても住んでいる町内は違うので、いわゆる幼馴染みという物ではない。ただ学校が同じだっただけだ。
 しかしながら何度か同じクラスにはなっているし、高校入学当時は、そのよしみから結構会話を交わしてもいる。そんな浅いのか深いのか分からない縁だ。
 森下は気が弱く大人しい為に、小さい頃はからかわれやすかった。実は一度だけ、小学生の頃に骸骨の写真を見せられて泣いている彼女を助けた事があったのだが、それ以外に大したエピソードは無い。
「こ、これは……片付けの時に、汚れても良い服の方が良いと思って。そ、それで、中学の頃の体操服を」
「そ、そうか。いや、うん。制服が埃だらけになっても困るしな」
 森下は地味だ。趣味は読書、部活は歴史研究部、スカート丈は膝下、ソックスは白を貫いている。髪型は三つ編み二本を前に垂らした、いわゆるお下げ。何処から見ても女学生だ。昭和の。特に厳しい家に生まれ育った訳ではない筈なので、これはもう彼女本来の嗜好なのだろう。
 そんな森下だが、優れた点が一つある。大きな声ではいえないが『胸』だ。
 小学生の頃は痩せっぽちだった彼女は、だが中学に上がるとグングン成長。素晴らしい発育を為した。本人が地味なために余り話題にはならないが、知る人ぞ知る見事さである。
 今日のように一回り小さい服、しかも伸びる材質の体操服などを着られると、正直、目のやり場に困る程だ。
「あー、あれだ、うん。看板? それ体育祭で使うやつ?」
「う、うん。先輩がここから持ってきたって」
「うあ。それも奥の方だな。大変だぞ」
 彼女が持っていた看板は、本来は体育祭の入場行進の時にのみ使われるというレア物である。当然、置き場所は倉庫でも最奥に近い場所だ。
 うろたえる森下を宥め、2人でやろうと提案する。この際だ。非力な彼女でも猫の手くらいの力にはなるだろう。
「あ、ありがとう。高町君」
 まぁ、正直を言えば、同じ年頃の女の子に頼られて嬉しく無い筈もない訳で。くすぐったい感謝の言葉に照れつつ、俺は片づけを再開する。
 ジャージの上を脱ぎ、ボール籠の前にこれだな、と聳え立つ高飛び用の分厚いマットを床に倒した。

   /

 猫の手の方がマシだった。
 本人に向かって有体に言う訳にもいかないが、森下はまるで役に立たない。これはそもそも力仕事の現場に彼女を派遣した歴研の先輩とやらを責めるべきなのだが。
「ご、ごめんなさい……。私、不器用で」
「いやいや、いいって。女の子なんだから、力がなくて当たり前だろ?」
 クスンと鼻を鳴らす彼女は、高飛び用のマットの上に一時的に移動させておいたボールの籠を動かそうとして、見事に倒してのけたのである。結果、ゴロゴロと零れ落ちたバスケットボールを前に、森下は半泣きだった。
「こんな不安定な所に置いた俺も悪いんだ。ほら、うん。じゃあ森下はボールを元にしておいてくれ。な?」
「うん。……高町君」
「おうよ。どうした?」
「あ……ありがとう」
 素直に照れる。赤くなった顔を悟れらまいと、俺は後ろを向いて跳び箱に手をかけた。後ろで小さく「ふふ」と笑う森下。ちょっと悔しいが、微妙にストロベリーな空気に気分が悪かろう筈も無し。
 彼女でもボールの片付けくらいは楽に出来るだろうと、俺は跳び箱の移動に専念した。が、途端に耳に届くガタン、ドサリ、という異音。
 見ずとも分かった。森下は高飛び用のポールを倒し、それが天井近くの棚に当たり、置いてあったバレーボール用のネットを落としたのだ。きっと。
「あ、……んぐっ――!」
 か細い悲鳴に後ろを振り向いてみると、目の前に尻があった。
 ボールを入れる籠の中に頭を突っ込でいた為に、上から落ちてきたバレーのネットに挟まれて身動きが取れなくなってしまったらしい。慌ててネットの塊を退けてやったのだが、どうした事か、森下は籠に頭を突っ込んだまま動かない。
「た、助けて……」
 どうしてそんな体勢になっているのか実に不思議だが、彼女は右腕を背中のほうに回していた。左手でどうにか体を支えているが、自力復帰は無理らしい。爪先立ちになった太ももがプルプルと震えている。
 当然、早く助けてあげるべきなのだが。俺はもうどうしようもなく、目の前のブルマに目を奪われていた。
 正確に言うとブルマに包まれた森下の尻に。
 ついでに言えば、そこからにょっきりと生えた健康的な白い太ももにも。
 こちとら性欲を持て余し気味の健全な高校生である。誰もいない体育倉庫というシチュエーションに加え、こんなビジュアルを見せられたら、それは触りたくもなろうというものだろう。
「ふむ――」
 そういうわけで、極々自然に、俺の手は彼女の尻を撫でていた。「よし、触ろう」などと考えた上での行動ではなく、全くの無意識のうちに。
「え? あ、あぁ!? た、高町くんっ!?」

 後で思い返してみても、これはもう魔が差したとしか言いようが無い。

 気付いたときにはどうにも言い逃れ出来ないほど、俺は彼女の尻といわず太ももといわず、撫で回していた。
 むっちりとした太ももと、しっかりと肉が詰まって尚柔らかい尻の感触を、ものの見事に堪能していたのである。
「あ、あ、あ……。やめッ――高町、くん」
「うん? ――ッ! わ、悪いっ」
 パッと離れて両手を挙げるが、森下の状態を思い出し、すぐさま救助にかかる。
 籠の中に手を伸ばし、彼女の右肩と左脇を掴み、グッと引き上げる。
「と、とと――おおうっ!」
 だが、力任せに引っ張った結果、勢いがつきすぎて俺は彼女を後ろから抱きしめた格好のまま、そのまま倒れてしまった。
 目を瞑って衝撃に備えるが、固い床に背中を叩きつける事はなかった。倒れた先に、高飛び用のマットがあったのだ。想定した事態とはかけ離れているが、寝かせておいたのが役に立った。運が良い。
「ふう、危なかった」
 思わずホッとして、キュッと森下を抱きしめてしまった。
 流石に女の子。実に柔らかい体つきをしている。というか、むしろフニャフニャだ。他人事ではあるが、もう少し鍛えた方がいいだろう。

 誓って言うが、この時は本気で彼女の身を案じたのだ。
 いくら女の子といえど、人が生きていくうえで多少の筋肉は必要だ、と。

「あ、あ、あぁぁ……。たた、高町――くん。……ダメ」
 まさか左脇腹を掴んだつもりで、左の胸を思いっきり鷲掴んでいたとは思いもよらなかった。道理でフニャフニャなはずだ。

 女の子座りで半泣きの森下は、暫くの間涙目で俺を見上げた後、うつむいて肩を落とした。
「あ、あの……。い、痛くしないで」
 クスンクスンと鼻を鳴らし、両腕を胸の下で軽く組んだ彼女は、あろう事か、すっかり観念していた。
 瞬間的に『俎上の鯉』という言葉が頭に浮かぶ。
 いやいやいや。だめだだめだ。俺がすべきなのは目の前の魚を好きなように捌く事ではない。尻を触った事を謝罪し、乳を掴んだ事は誤解であると釈明するのだ。誠意を持って、心から。
「森下――」
「……んッ!」
 ポンと彼女の肩に手を置いて「ゴメンよぅ」と言うはずの俺の口は、だがその意に反して別の言葉を吐いていた。
「優しくするから」
 正にミラクル、としか言いようが無い。

 あれだ。覚悟を決めた女の子を前にして「違うってのHAHAHA!」などと否定するのはむしろ失礼に当たるのではないだろうか。と、本気で思ってしまったのだ。この時は。
 そう思ってしまったのだから、これはもう美味しく頂くしかない。

 この驚愕の展開を前に、数年前から俺の脳内に設立された脳内司令部の動きが活発化した。俺が敬愛し、信頼を置く脳内司令を始めとした脳内幕僚達が、脳内資料を片手に作戦を練ってくれるのだ。『好機を逃さず正面突破。隙を見て体操服捲れ』
 了解です!
 俺は真ッ正面から手を伸ばし、片手で森下の頭を撫でつつ、もう片手で彼女の乳を下から掬うように揉み始めた。
 この肉の柔らかさよ――。
 改めてその乳房を手に取り、欲情よりも先ず感動を覚える。おっぱいは偉大だ。
 思わず平伏して拝みたくなる衝動に駆られるが、そこはやはり若さである。俺は更なる感動を求め、頭を撫でていた手で彼女を横抱きにし、乳を揉んでいた手で体操服を捲り上げた。
「はん――ッ! そんな、いきなりッ……」
 体育倉庫の無骨な蛍光灯に照らされた森下の上半身。うっすらとかいた汗が白い肌をいっそ艶かしく見せていた。だがやはり特筆すべきは飾り気の少ない白いブラジャーである。
 大きい――。
 体操服姿だと胸の下に影が出来るというその乳房。それを包み込む下着は、それだけで何か異様な存在感があった。
「ぁ、ぁ、ああッ。さ、触るの? さ、触るんだ……」
 胸の形に合わせて、そっと手を置いてみる。だが悲しいかな、五指を伸ばして尚、俺では彼女の胸を包み込むことが出来ないのだ。
 いや、嘆くなかれ。そうだ、嘆くことは無い、俺。
 包み隠す事はブラジャーにしか出来ないが、俺はこの乳を揉んで擦る事が出来るじゃないか。
「そうだろ? なあ――」
「え? ……え? 高町君?」
 妙に真面目な顔で自分の胸に話しかけられて、森下も困ったろう。大変に混乱しているようだが、こちらは別に困っていないので良しとする。
 そして次のステップへ。

『体勢を変え、広範囲に戦線を拡大』という指示を受け、横抱きにしていた彼女を今度は後ろから抱きかかえ、俺はマットの上に座り込んだ。
 後ろから胸を弄びつつ、下半身方面にも――文字通り――手を伸ばしていく作戦である。
「あっ……。そ、そんなに、優しくされたら……あ、んッ」
 力を込めず、ゆっくりと胸やら腹やらを撫でつつ、彼女のうなじから顎にかけてのラインにチュッチュと唇を這わす。
「あ、あんッ。――あ、高町、くん……。あ、ぁ」
 時折ブラジャーの上から乳首を指でさすると、森下は切なげに、だが甘い吐息を漏らした。まったりした愛撫は効いているようで、彼女の体から次第に力が抜けてくるのが分かった。
 ならばもう少し進んでも良かろう。俺の脳内司令官がGoサインを出してきた。これは『ブラジャー剥いで生乳触れ』の指令に他ならない。
 ゴクリと唾を飲む。この恐るべき魔物を解き放てと、そうおっしゃるか――。
 他ならぬ脳内司令の厳命である。これはもう従う以外に他は無い。
 俺は森下の背中に指を這わすと、慎重にブラジャーのホックを探った。布地の上を左から右へツツーと人差し指を移動させる。
「んあああッ! せ、背中ッ……だめ。ぁ、あ、ああッ」
 が、妙だ。おかしい――。無いのである。背筋の辺りにあるはずの、ブラジャーのホックが。彼女の乳を覆う下着は、いわゆるスポーツタイプの物ではない。飾り気は少ないが、極々普通の清楚な白いブラジャーである。ならば――そうか。
 フロントホックッ!!
 やってくれる。まさかこの森下が大人しい顔で裏をかいてくるとは。
「あ、え? ――うあああああんッ」
 思わず下から上へ背筋を指でなぞってしまう。特に意味はなかったが、彼女の反応は顕著だった。背中、かなり弱いらしい。覚えておこう。
 気を取り直して。
 俺は彼女の体操服を鎖骨の辺りまで捲り上げ、左手で固定。右手で双丘に挟まれたホックを摘む。俺の意図に気付いた森下が、その光景に軽く息を呑む。
「あ、……た、高町君――それは」
「森下。コレ、外していいか?」
 目に涙を溜めて逡巡する彼女の額に、そっと口付けなどをしてみる。急な動きで怖がらせないよう、ゆっくりと頬擦りをして、もう一度尋ねた。
「外して、いいか?」
「……」
 コクン、と思いの他素直に、彼女は頷いた。
 作戦遂行まで後僅か。そう、このホックを外すだけだ。外し方が分からない、等という愚は犯さない。こんな事もあろうかと、以前よりインターネットでフロントホックブラの外し方を研究していたのだ。
 正に備えあれば憂い無しである。
 ゴクリ、と固い唾を飲む。その音に森下がピクッと震えた。彼女としてはこの先の光景に思いを馳せて俺が唾を飲んだのだと考えたのだろう。まさかフロントホックが無事外れるかどうかで緊張しているとは夢にも思うまい。
 まぁいい、まぁいい。
 いざ――勝負。
 摘んだホックを押すようにして真ん中から折る。その状態で右側を上にスライドさせる。プチ、と軽い音がホックを挟んだ指の隙間から響いた。
 僕にも出来た――!
 そう感慨にふける間もなく、ブラジャーは綺麗に左右に分かれ、二つの丘が零れ出た。
 ふるん、ふるん……ふるん――。
 俺はその光景を一生忘れることは無いだろう。それほどまでに、目に焼きついた。森下恵理の乳房が。揺れながら姿を現したその瞬間が。
「ほぅ――」
 余りの感動に思わず溜息が出る。これほどの眼福、この先どれだけ長く生きても、二度とは味わえないだろう。
 しかしながら若さは残酷である。見ているだけで満足と言えたのは僅かに数秒。次の瞬間にはもう、それだけでは飽き足らなくなっている自分がいた。
「あ、あ……うひゃあ! んぁんッ」
 そっと森下の脇腹を撫で、徐々に手を上げ、その豊かな胸を手で掬う。片乳房に片手では収まらない彼女の胸。トロみのあるお湯を詰めた水風船のような感触に、脳内司令部はお祭り騒ぎ状態だった。
 撫でろ。揉め。掴め。摘め。舐めろ。吸え。捏ねろ。捻れ。優しく。激しく。
 命令系統は乱れに乱れ、どの指示に従っていいのか分からない。俺が最も信頼を置く脳内司令は行方知れずで、脳内麻薬に侵された脳内幕僚達がそれぞれ勝手に好きな事を喚いている。困ったのは前線勤務の指十本である。だが、いざという時頼りになるのもやはり前線の兵士達だ。彼らは度重なる演習で培った能力を発揮し、独自行動を取り始めたのである。
「あっ、あっ、ぁ……。そんな、激し――んッ、くぅ……」
 下から掬った森下の豊かな乳房を優しく撫で、そして揉みしだいた。効果ありと判断するや否や、徐々に荒く、リズミカルに。加えて重要戦略ポイントたる、桜色の突起に対し白兵戦を開始。指先で彼女の乳首を押し上げ、擦り、摘んだ。そしてこれが絶大な戦果を上げる。
 森下は目に見えて震えだし、鼻に掛かる甘い声が倉庫中に響いた。
「あ、ぁ、ダメ……。ッ! た、高町、くんッ! あ、あっ――あぁッ!」
「うん? お前、ここ弱いのか?」
「やッ、そ、そんな事……ん、あんッ! ふ、ああ……」
 凄く弱いらしい。重点的に乳首を責め立てると、彼女は目に涙を溜めて身をよじった。切なげな甘い悲鳴はいよいよ高く、口から零れた唾液を啜る事もままならない。
 この前線兵の大攻勢に、お祭り騒ぎだった脳内幕僚達は一斉に静まり返り、固唾を呑んで事態の推移を見守った。しかし、その隙を突いて脳内司令が復帰、前線の十指に戦闘行動の即時停止命令を発したのである。
 余りに急激に高まった快感の為に、森下は呼吸すら覚束なくなっていたのだ。嬌声の合間に短く「ひゅ、ひゅ」と苦しげに空気を吸い込んではいるが、とても足りていそうにない。後10秒も続ければチアノーゼを起こしていただろう。
 人は愛撫で死ねるのか――。一つ勉強になった。
 停止命令に従い、俺の指は胸から撤退、両肩に陣取って優しく彼女を支えた。復帰した脳内司令は素早く幕僚をまとめ、早くも次の指令を送って寄越す。即ち『謝りつつ、甘く囁け』と。
 了解。
「ゴメンな、森下。苦しかったろ? ほら、息吸って」
「はぁ……はぁ、た、高町……くん」
 よろよろと差し出された手を、軽く握ってやり、呼吸を促す。森下は何度か浅い呼吸を繰り返した後、一度大きく肺を膨らませ、ゆっくり息を吐き出した。不足だった酸素を与えられた森下のトロンと垂れ下がった目には、妙に信頼の篭った瞳が宿っている。苦しめたのも俺だというのに、彼女は安心しきった様子で力を抜き、その身を預けてきた。
 流石は俺の敬愛する脳内司令である。指示の的確さは古の軍師クラスだ。次はどうしましょう? 『愛撫を再開。下乳から下腹にかけて。可能なら最重要ポイントの偵察』
「ラジャー」
「……?」
「いや、なんでもないぞ。それより……続けて良いか?」
「あ、ん……はい」
 完全に弛緩している森下を後ろから抱き締め、指示通り下乳を撫でる。途端、倉庫に響く彼女の甘い声をBGMに、俺の指はそこから降下。柔らかく滑らかな彼女のお腹を、虫が這うように、じわりじわりと撫で擦った。
 あふあふという断続的な吐息を顎に感じる。そのくすぐったさに僅かに頭を傾げると、彼女は俺の首筋に口を付け、小さな下でチロチロと舐めてきた。
 何と小癪な。拙いながらも反撃をしているのだ。このブルマお下げは。
 俄然燃え上がったのは血気盛んな前線兵士である。手の平をピタリと当て、彼女の腹を円を描くように撫でまわす。最初は小さく、だが徐々に範囲を広げて。
「んッ! はぁ……。んッ、あ。あ、気持ち……良い」
 鼻に掛かる陶酔の声。横隔膜の辺りが特に好きらしく、その辺を撫でると森下はうっとりと目を細めた。俺はそこに手を当てつつ、もう片手で下腹を探る。ブルマの厚い布地に覆われたその場所に優しく手の平を置き、細かく上下左右に撫でる。
「んはぁ……。あぁぁっ……」
 彼女の吐息はいっそう甘く、熱くなる。弱い電流が体中を痺れさせているかのように、森下はピクピクと全身を震わせた。
 腸と、女の子なら子宮がある場所である。およそ生物の雌であるならば、本能的に外界から守ろうとするポイントだ。ただでさえ人体の急所。そこを撫でられていれば身動きも取れまい。
 細かく震えながらも脱力し、森下は最早なすがままだ。見事に彼女の反撃を封じ込めた俺は、気付かれないようにニヤリと笑い、心の中でガッツポーズ。
「ふあぁぁッ。た、高町くん……そこは――ッ!」
 左軍で横隔膜周辺を押さえつつ、下腹に展開していた右軍を一気に降下。俺は最重要ポイントである森下の秘所に指を走らせた。流石に悲鳴が上がるが、それ以外の抵抗は皆無だった。彼女の両腕はだらりと垂れ下がったまま動かない。
 ブルマーは既に粘性の水分でしっとりと濡れている。これを好機と見たのか、脳内司令から鋭い指示が飛んだ。『左右両軍は自己判断にて断固攻めよ』
「うッ! あ、ああッ! だめッ……あ、やぁぁ」
 ガンホーと叫び、横隔膜から離された左手が、森下の乳房を鷲掴んで絞り上げる。右手はブルマ越しに彼女の割れ目を探り当て、中指で愛液がにじむ程擦った。
 それでも森下の両腕は動かない。いや、だからこそ、フルフル震えるだけで動かせずにいるのだ。
 後ろから乳房をグネグネと揉みしだきながら、ブルマの湿った部分を執拗になぞり上げる。
「うんッ! あ、あッ! うあンっ……。ぃい、んぃッ」
 厚い布地越しの愛撫が次第に物足りなくなってきたのか、森下は横目で哀願するように俺を見ている。太ももは開いたり閉じたりを落ち着きなく繰り返し、そのたびにブルマの隙間からは二チャリ二チャリという淫らな音がした。
 ブルマの厚い布地でも吸い取れないほど、彼女のそこからは愛液が溢れてきている。太ももまでしっとりと濡れている事が、薄暗い倉庫内でもはっきり分かった。
「エッチな子だな。森下は」
「やぁ……。だって、んッ――た、高町君が。ぁ、あ」
 極軽い言葉責めに、森下は甘ったるく切ない息を吐く。俺は一旦右軍を引き上げ、濡れた指を彼女のへその辺りに擦りつけた。続けて白い腹から手を滑らせ、ブルマの、そしてその下のパンティーの中へ右手を侵入させる。
「ん――?」
 途中の茂みは案に反して戸惑うほど薄い。さわさわと未発達の陰毛を掻き分けると、直ぐにスリットの上部にたどり着いた。
「んああッ! ぁぁぁあ……、た、たかま――ち、く……んッ」
 うっすらと開いた陰裂にそって指を下げ、半ばを過ぎた辺りで少し潜らせる。途端、森下はガクガクと体を震わせ、甘い悲鳴を上げた。
 目は焦点を結んでいないようで、トロンと垂れ下がっている。半開きの口からは涎がたれていた。どうも達してしまったらしい。
「森下、はしたないぞっ、と」
「ん、んくぅ……。あ、ん、んむ――」
 顎にまで垂れた彼女の唾液を舌で舐め取り、そのまま口腔内へ。彼女の口の中を舌で掻き混ぜ、唇をピタリとくっつけて溢れる唾液を全て吸い取った。
 ――うむ、初キッス。
 この記念すべき一大勝利に、体中から歓声が沸く。脳内では祝賀会やパレードの準備が始まったが、流石に脳内司令は冷徹である。『更なる武装解除を行え』
 要するにブルマとパンティーを脱がせ、と言っておられるのだ。
 俺の全身に緊張が走る。森下は既に軽い絶頂を迎え、スンスン鼻を鳴らして快感の余韻に浸っている。正直、ここで止めても良いいのだが――。
 やはり脳内司令官の命令は絶対である。
 確かに我が軍の主砲は装填準備を完了し、一度は砲撃を行わないと撤収できそうにない。俺は覚悟を決めて、カッと目を見開くと、森下の腰に後ろから両手をかけた。
「脱がして、いいか?」
「……っ。……」
 何を意味する言葉なのか、彼女にも分かっている筈だ。森下は、潤んだ目で俺を暫く見つめ、やがて無言でコクリと頷いた。そして健気にも、俺の膝に下ろした腰を自ら浮かす。
 一度唇を吸い、彼女の口腔に深く舌を侵入させ、丹念にその温かい口の中を掻き混ぜながら、俺は森下のブルマを下着ごと掴んだ。そのままスススと捲っていく。森下の手は俺の腕を弱々しく掴んでいたが、抵抗の意思はないらしく、ただ怖いから触っているだけのようだ。
 ブルマとパンティーから白い尻が解放された時点で、俺は彼女の腰を元通りに下ろさせた。濡れた秘所が、膝に直接当たり、それだけで主砲が暴発しそうだ。
「あ、あぁ……やだ、私、こんな格好で――」
「大丈夫だ。可愛いぞ」
 彼女の足を揃えさせ、ブルマを上方に向けて脱がしていく。当然、彼女の足も天井を向いた。恥かしげに両手で顔を覆う森下。しかしながら足を寝かせたままだと、前方へ向けて脱がさねばならず、それでは手が届かないのだ。
 愛液に濡れたブルマは彼女の白い足に涎のような痕を残して足首に到達。俺は手を伸ばして、それを最後まで抜き取った。尚、靴下と上履きは履かせたままである。
「足、下ろすからな」
「はい……。あっ、あの、やぁ――やああ!」
 自分でも恐ろしい程優しげな声を掛け、俺は彼女の脚を両手でゆっくりと下ろしていった。――左右に開きつつ。
 大切な場所が丸見えになってしまい、あまりの羞恥に、森下は顔から両手が離せない。恐らくは真っ赤に染まった彼女の顔を見られないのは残念だが、正直、俺の視線はテラテラと光る股間に釘付けなので、結果的には余り変わらなさそうだ。
「や、やぁ……見ないでぇ――」
 手触り通りの薄い恥毛は愛液に濡れ、倉庫の蛍光灯を反射してキラキラ輝く。僅かに口が開いた秘裂は、正しく涎を垂らすように淫らな液で溢れていた。『開口部の様子を見よ。同時に主砲解放』
 網膜に写る光景で意識が溶けかけていた俺に、脳内司令の渇が飛ぶ。そうだ。見惚れている場合じゃない。
「んッ! くぅッ! ……はぁっ、ああッ」
 右手を伸ばし、中指をクレヴァスにあてがうと、それだけでトロトロの愛液が絡みついた。少しだけ陰唇を開き、ツプと指を刺す。一度絶頂を迎えているだけに、酷く敏感になっているのだろう。森下の反応は顕著だ。
 俺は手早くジャージをずらし、主砲を引っ張り出した。ブルンと飛び出したその衝撃で、思わずペニスに緊張が走る。いけない。ここまで来て自分の手の中に暴発したら脳内司令部が揃って自刃しそうだ。
 当方に一刻の猶予も無し。彼女の方は完全に出来上がっている。ならば――! 脳内幕僚は全員でサムズアップ。司令も『Go』と頷いた。
「森下……入れるぞ」
「……」
 彼女からは返事も抵抗も無い。ただ、僅かに腰を上げただけだ。これはOKの意思表示に他ならない。
 後ろから腰を支え、主砲を彼女の秘裂に接触させる。愛液が亀頭を包み、誘うように絡みついた。射精の衝動が沸き起こる。だがまだだ。まだ入り口をノックしただけだ。
 森下の腰を持ち上げ、挿入しやすいポイントを探る。やがて彼女の体がやや前傾した辺りで、ペニスの先がヌッと埋まった。
「あああッ! は、入って……んッ、んあッ!」
 ここ――! 森下の中に埋まったペニスの先が異様に熱い。これが女の子の体の中の温度か。と、感心するほどの余裕がある筈もなく。俺は暴発を抑えるだけで手一杯だった。
 今は彼女が気力で腰を浮かせているが、それも長くは持ちそうにない。来るべき衝撃に備え、俺はグッと奥歯を噛んだ。
「あ、あ、ああッ! だ、だめッ! ……ッ、ひッ!」
 ついに堪えきれなくなった森下が力を抜く。寂しがり屋の地球が発する重力に引かれ、彼女の腰は惑星中心核に向かって降下した。俺のペニスに貫かれつつ。
 ズブズブと埋まっていく主砲。熱い。とてつもなく熱い。指一本も入るのかというほど狭い柔肉のトンネルをそれでも掻き分けて、俺のペニスは森下の中に埋まっていく。
 潤滑油として分泌された多量の愛液が無数の襞を濡らすが、かと言って初めて男を受けれる彼女の狭さが変わる筈もない。それでも止まらず、俺の主砲は森下の処女を奪い、最深部へと侵攻した。
「い、いたッ! ……痛、い。ぁ、あッ。う、あ、ああああ!」
 地球の重力は残酷で、破瓜の痛みに泣き喚く彼女を40kg強くらいの力で引き下げていく。座っているだけの俺が残酷なのではない。筈だ。多分。
 やがてペニスが根元まで埋まり、森下の膣内の奥、子宮口近くの壁を叩く頃。彼女は痛みに耐えかねて、取り乱したように体を揺すった。ど、どうしましょう、司令? 『急ぎ、動揺を止め、治安を復帰させるべし』
 ア、アイサー!
「森下、森下。大丈夫だ、落ち着け」
「やっ、やぁ! い、痛い。痛ッ……た、高町、くん」
「痛むか。ゴメンな。でも落ち着いて」
「んあッ、んッ! ……ぁ、あ」
「そう、ゆっくり。ゆっくりでいい。静かに力を抜いて」
「はぁ……はぁ。ふっ、く。――ん」
 変に動くほど痛いという事が分かったのか、俺に腰を抱かれて支えられると、森下は下唇を噛んで動きを止めた。そして恐る恐る力を抜く。
 ふうふうと荒く息を吐く彼女を動かさないように支えつつ、俺はその肩を抱いて事態の沈静化を図った。
「はぁ、あ。ご、ごめんなさい。私……」
「いいんだ。痛むんだろ? ――もう少し、このままで、な?」
 もう抜こうか? というセリフも用意できたのだが、脳内司令部全会一致で却下された。我ながら恐るべき団結力である。
「ん。もう、大丈夫。もう、い、痛くないから」
「そうか? ん。でも痛かったら言えよ? 直ぐに止まるからな」
「……うん。あ、でも大丈夫。今度は、高町君も最後まで……その」
「ありがとう。嬉しいぞ」
「んっ。……わ、私も――」
 この期に及んで紳士気取りが出来た自分を褒めてあげたい。脳内十字勲章の申請を行うが、司令からは『後で』とすげなく返された。それは兎も角。
 痛みを堪え、無理矢理笑顔を作った森下。もう彼女が愛しくてたまずに、思わず後ろから抱き締めた。

 後にして思えば、物にされていたのは俺の方だったのかもしれない――。

 さて。後は最後まで突っ走るだけなのだが。
 上の遣り取りをしている間も俺のペニスは彼女の中で間断無く刺激を受け続けている訳で。実際の所、既に始まってしまった主砲発射のカウントダウンを8か7くらいで止めている状態である。腹筋と括約筋に極限まで力を込め、必死に尿道の隔壁を閉鎖しているのだ。明日の筋肉痛は必至だろう。
「じゃあ、いくよ」
 返事を待たず、俺は森下の中からペニスを引き抜いた。そしてもう一度押し込む。その一挙動だけで脳内アラームが点灯。恐ろしい勢いで射精の衝動が沸き起こる。
「んッ! あ、ああっ……んあッ!」
 涙交じりの鼻声が更に俺の性感を高め、ついに前線の兵士達の暴走が始まった。
 俺の膝に乗った彼女の腰を強く掴むと、乱暴なまでの勢いで上下しだしたのである。かつて無いほどに硬度を増したペニスが、それこそ固い棒として森下の膣内を蹂躙。一切の遠慮を無くし、狭い肉のトンネルでピストン運動を展開した。
「あっ! んああ! くぅっ……あ、あああ!」
 この暴挙に、俺のみならず、彼女の言語中枢までもが破壊され、最早そこに人の言葉はなかった。ただ、パシンパシンという湿った肉がぶつかる音だけが倉庫に木霊する。
 だが狂乱は決して長く続くものではなかった。増大した射精衝動が臨界点ギリギリに達し、発射までのカウントダウンはコンマ数秒を残すのみ。
 急いでペニスを引き抜かなければ、膣内に射精してしまう! 俺は脳内司令に緊急要請を出し、両腕のコントロールを取り戻すよう求めた。が、帰ってきた指示は正に真逆――。
『尿道隔壁を開放、全弾装填。そのまま、子宮口目掛けて主砲正射』
 その恐るべき指令に、俺は戦慄を隠せない。な、何を言うのです司令! そんな事したら、――に、妊娠させてしまうかも知れませんよ!?
 だが脳内司令は指示を覆す事はなかった。それどころか、重々しく、迷いのない声で言う。『それこそ目的。我が悲願』
 やたら頼りになる脳内司令官の正体は、そう、俺の雄としての本能だったのだ! 乳首侵攻時の撤退命令や、主砲挿入時の治安維持など、一見理性的とも思える指示は、だが全て森下恵理という母体の確保と保全を目的とした物だったのである。
 その強制力は俺のあらゆる理性を凌駕し、彼女の中からペニスを引き抜く事を許さない。必死の抵抗もむなしく、なけなしの理性で結成されたレジスタンスは、だが次々に快楽の波に飲まれていく。
 うん、無理無理。古人曰く「本能には勝てない」のだから。
 全ての理性が霧雨に濡れる灯火のように消えると、ついに主砲に装填された数億発の弾丸が発射された。
「んあああッ! あ、ぁ、あーッ!」
 ドクドクと脈打って、俺の精液が森下の膣内に注がれていく。ゾクゾクと震え上がるほどの快感に、俺は背筋を震わせた。
 体中が満足感で一杯になる。セックスの味わいなんて、まるで理解できなかったかも知れないが、この底知れない充足感が、なるほど雄の本能を満たすという事なんだろう。
 森下は目を瞑ってぐったりとしている。俺は俺で急激に意識レベルが低下し、だがこれだけは離すまいと彼女の体を抱いたままマットに横になる。
 一斉に音が消えた体育倉庫に、ただ俺と森下の熱い吐息だけが漂った。

   /

 眠ってしまったかと思い、ハッと目を開けた俺だったが、2人してマットに倒れてから大した時間は経っていないようで安心した。
 遅れて目を覚ました森下は、自分の股間に残るセックスの痕跡に僅かに息を呑む。だが、次の瞬間には妙に安らかな顔で大事そうにそこを手で押さえた。何だか異様に生々しい。
 俺は運良く持っていたハンカチを、先ず彼女に差し出した。自称紳士であるからして。
「これで、自分の体拭いて。な?」
「……」
 上目遣いで首をかしげた彼女の手にハンカチを握らせると、森下は柔らかく微笑んで、だが先に俺の体を拭う。次いで自分。最後にマット。お互いの体液と、彼女の破瓜の血が小さなハンカチに吸い取られていく。だが全部とはいかないわけで、俺は仕方なく自分の上着で高飛びマットを拭いた。
 その間に、森下は脱がせられた下着とブルマを身につける。濡れてしまって気持ち悪かろうが、それ以外に着る物がないので仕方ない。
 やたら気さくな感じで『次はいつ?』などと尋ねてくる脳内司令を、「近いうち」とだけ答えて追い払い、ポーッとした顔のまま身繕いをする森下を、俺は抱き締めた。
「んっ。んふぅ……高町君」
 鼻に掛かる甘い声。胸板にすがる細い腕。こうなった以上、もう誰にも渡さない。コイツは俺のもんだ、と心の中で宣言。いつの間にかアロハシャツに着替え、ニヤニヤと笑う脳内司令を蹴飛ばし、もう奴には頼るまいと、やはり心の中で誓う。

   /

 俺達2人が体育倉庫を出ると、辺りは既に暗くなっていた。
 あの後、片づけを再開し、結構な時間を食ってしまったのである。まぁ、人が少なくなったお陰で、ブルマの濡れた森下を誰にも見つからずに更衣室まで連れて行けたのは幸いではあった。
 因みに、件のハンカチと俺のジャージの上着は、強硬に「私が」と主張する彼女に奪い取られた。エライ物を拭いた品である。もう帰ってこないかもしれない。いいけど。

 制服に着替え、2人連れ立って帰路に立つ。何となく暗黙の内に恋人っぽくなっているのが喜ばしい。責任取ってと言われたら、勿論と返す所存だが。
「森下。今更だけど、良かったのか? その、中に出して」
「あ……その、ね。頭の中で『そのまま彼を全部受け止めなさい』って声がして。……あ、あの。変だよね、こんなの」
「いや大丈夫。良く分かる」
 聞く人が聞けば引いてしまうようなカミングアウト。森下は自分の失言に脅えたが、うんうんと頷いた俺の様子にホッとしたようだった。どっこい、安心したのは俺も同じである。脳内にダメ司令を飼っているのは俺だけじゃなかったんだ。
 辺りを見計らい、人気が無いと判断したらしい彼女は、スッと俺の腕を取った。
 立ち止まって顔を見合わせる俺達。やがてどちらともなく微笑み、俺と森下は影を一つにして学校を後にした。
 触れ合った腕が、実に――暖かい。


 余談だが。
 やはりハンカチは帰ってこなかった。



 ――了。

モ ドル