Kleptomania

 大学生も3年目になると結構暇が出来る。最も去年、一昨年と真面目に単位を稼いでいればこそ、ではある が。仲間内でもノートを借りるより貸す方が圧倒的に多い自分は、だから毎日結構な暇を持て余していた。
 その日も、2限の西洋美術史と3限のゼミを終えた後、ポッカリと午後の予定に穴が開いてしまった。2月、3月の休みの間、短期雇いのバイトを集中的に やったので、遊ぶ金くらいは十分にある。だが遊びに行くにしても1人では面白くない。
 結局、する事も見つからず、自宅に戻ってのんびりとゲームでもやる事にした。
 父親は外資系の製薬会社の研究員で、ここ数年外国の研究所に勤めており、帰ってくるのは偶の休暇くらい。母親は遠の昔に離婚して、今は全く音信がない。 兄弟姉妹はいないので俺は広いマンションに、ほぼ1人住まいだ。
 時は五月の連休明け。恋人でもいれば気兼ねなく引っ張り込めるのに――。俺は溜息をつきながら帰宅の途についた。

 さて。人は面白いもので、余りにも衝撃的な場面に出くわすと、その一瞬は脳が上手く働いてくれなくなる。例えば火事とか、或いは地震とか。滅多にある事 ではないが、殺人事件を目撃した時とか。

 もしくは、隣の奥さんがウチの棚のCDを物色しているのを見た時とか。


 虚ろな目つきで俺の部屋においてあるCDを一つ一つ手にとって眺めている隣の奥さん。俺は最初、その光景が何を意味しているのか分からず、荷物を置いて 部屋を出て、台所で冷蔵庫からペットボトルのコーラを出して一口飲んだ。そしてリビングに行ってテレビをつけ、ソファーに座ってからようやく気付いたの だった。
 隣の奥さんがウチに不法侵入しているという事実に。

 ぎょっと目を剥き、驚いて立ち上がると、廊下から大きな物音が聞こえた。リビングを出てみれば――多分、急いで逃げようとして転んだのだろう――彼女が うずくまって鼻を押さえていた。
「あの、葉山さんの奥さんですよね?」
「――!」
 基本的に気が小さいのか、彼女は恐る恐る顔を上げると、俺の顔を見てブルブルと震え、最後には泣き出してしまった。

   /

 癖、なのだという。幼い頃からの。

 葉山さん夫婦は去年の暮れに、このマンションに引っ越してきた。余り愛想は良くないが真面目そうな旦那さんと、可愛い感じの大人しそうな奥さんの組み合 わせ。旦那さんは出張の多い仕事らしく、昨日の朝も重そうなスーツケースを引きずる姿を見かけた。奥さんはと言うと、朝のゴミ出しなどで顔を合わせたりす ると、ちゃんと挨拶もするのだが、余り人付き合いのいい方ではなく、いつも部屋に引き篭もっている。という話を以前、エレベーターの中でここの住人同士が 話しているのを耳にした。

 泣いている葉山の奥さんをリビングに連れて行ってソファーに座らせ、紅茶とクッキーを出す。嗚咽が小さくなったのを見計らいってお茶を勧めると、彼女は 素直にそれを飲んだ。
 落ち着いた所で、話を聞く。
 驚いた事に、彼女には盗癖があるのだとか。
 ここに引っ越してきたのも、前に住んでいる所で、隣の家に侵入したのがバレてしまったから、らしい。以前入られた家の人は、驚きはしたが彼女の旦那さん とも話し合って、警察沙汰にはならずに済んだそうだ。だがその話が近所に伝わってしまい、結局、逃げるようにしてこちらに越してきたとの事。
 彼女の癖は大分前からの物で、子供の頃は親や姉妹の私物を密かに盗み、自分の机に隠したのだという。少し大きくなってからはスーパーやデパートで万引き をして補導された事もあったらしい。そして結婚してからは隣の家に、というわけだ。
 ただ、盗むといっても現金や高価な品を狙うわけではないらしい。今も昔も。安い物で鉛筆一本くらい。今まで手にした最も高価な物でも、どこにでもあるよ うな目覚まし時計なのだとか。
 この癖は家族や旦那さんも知る所であり、今までに何度かカウンセリングも受けたそうで、「ストレスが高じて衝動的にやってしまう事だから、自分なりのス トレス解消法を見つけなさい」と言われて色々と試してみたが、結局未だに癖は直っていないとの事。

 うな垂れて鼻を啜りながらじっとしている隣の奥さん。薄手のブラウスに、やはり薄手のカーディガンを羽織っている。お腹の辺りに何か入っているようで、 微妙に服の様子ががおかしい。
「あの、服の中に――?」
「っ!! ……はい」
 ビクッと震えて、その部分のボタンを外すと、出てきたのは一枚のCDだった。アルバムではなくシングル。北京生まれの歌手が歌う某大作ゲーム8作目の主 題歌。ゲームはともかく、歌が好きなので買った。MDにもMP3にも落としてあるので、CDがなくなったからといっても困る事はないのだが。いい大人が不 法侵入に窃盗、となると「ごめんなさい」で済むものでもない。
「警察に……」
「ッ!! お、お願いです! 警察には――言わないで……」
 奥さんは、ひっ、と叫ぶように顔を上げた。
 こちらとしても、ブルブル震えてべそをかいている彼女を警察に突き出すというのも面白くないし、夢身が悪くなりそうだ。
「はぁ、まあ、通報したりはしません。けど、ね。旦那さんには」
 そう言うとホッとしたようだったが、旦那という言葉を聞くと、再び固くなった。妻の仕出かした事なので夫に報告する。こちらとしても最大限の譲歩だが、 彼女は青くなって首を振った。
「あ、お願い……です。夫には、夫には」
「あのね、奥さん。俺も別に言いたいわけじゃないんだけど。子供のいたずらじゃないんだから、ここで俺が説教して終わりってわけにもいかないよ」
「……でも、でも。……ごめんなさい。謝りますから」
 そう言って彼女は泣きながら頭を下げた。確かに、以前の事で引越しまでしているのだ。旦那さんは真面目そうな人だから怒るだろうし、ひどく嘆くだろう。 内緒にして欲しいと頼むのも分かる。
 コメツキバッタのように頭を下げている姿を見ると流石に哀れになり、今回限り、という事で俺は許してやろうと思った。――が。
 葉山の奥さんの次の一言で気が変わった。

「――何でもしますからっ!」

   /

 葉山桂子さん。歳は恐らく27、8。だが可愛らしい顔立ちで、実年齢よりずっと若く見える。前述の通り既婚だが、子供はいない。性格は大人しく、日中家 にいることが多い。その所為で全く日焼けしておらず、顔もそうだが、頭を下げたときに見えたうなじは抜けるように白い。長い髪はリボンで一つに纏められ、 背中に垂らされている。白いブラウスにピンクのカーディガンを羽織り、ベージュのロングスカートの下にはストッキングを履いていた。
 恋人もおらず、暇を持て余す大学生が「何でもします」の一言で不埒な考えに走ってしまうのは、むしろ必然だと思う。少なくとも俺はそう思いたい。
 子供の頃、弱い奴をいじめるなどという行為には全く興味がなかった。だが今、この状況において、俺の中で嗜虐心がにわかに目覚めた。

「何でもする、と言いましたか」
「――あんっ!」
 おもむろに桂子さんの隣に腰を下ろし、彼女の背中を人差し指でツーッとなぞり上げた。
 彼女は、突然の俺の行為に、動揺して言葉を失っている。
「言いましたよね?」
「んっ! ……あ、あの……」
 今度は肩甲骨の辺りを触れるか触れないか程度に指を這わす。彼女は逃げようとしたが、俺はそっと肩を抑えた。それだけで桂子さんの動きは止まる。
「何でもする、と言いましたよね。葉山桂子さん」
「は、はい。――言いました」
 良し、認めさせた。俺はニヤリと笑い、彼女の顎を持ち上げ、顔を近づけた。
「俺の言う通りに、何でもしますよね?」
「……あ、あぁぁ。や、やぁぁ。止めて、下さい」
「分かりました。じゃあ止めます」
「は? あ、はい……」
 パッと手を離し、俺は立ち上がって電話の受話器を取った。
「そこに居て下さいね。今から警察呼びますから」
「え? あ、あああ! あ、あ、け、警察は」
「嫌ですか?」
「は、はい」
「じゃあ、ご主人の勤め先を教えてください」
「あ、あの……。今、出張してるので……」
「それでも構いません。ご主人の上司の方に伝えてもらいましょう。『君の奥さんが盗みを働いたそうだから、直ぐに帰って来い』ってね」
「――っ! お、お願いですから。そ、それは!」
 彼女は取り乱して俺の脚にすがり付く。俺は受話器を置いて、再び桂子さんの顎を片手で持ち上げた。
「俺の言う通りに、何でもしますよね?」
「………はい」
 長い逡巡の後、彼女はゆっくりと頷いた。

「口開けて」
 素直に従い、軽く開いた彼女の口に、俺は右手の人差し指を差し込んだ。
「舐めて」
「……んっ、んん……んっ」
「もっと。舌を動かしてさ」
「んっ、んんんっ! んんっ、んっ……」
 隣の奥さんが自分の指を一所懸命に舐めている。つい今朝までは予想もしなかった事態に、俺は酷く興奮した。同時に、我ながら酷い事やってるなとも思った が、ここまで来た以上は止まらない。止まらないったら止まらない。
 上から左手を伸ばし、カーディガンとブラウスの間にそっと入れていく。そしてさわさわと胸に触れた。着痩せするのか、思ったより大きいかもしれない。
 胸に手を当てられた彼女は、ビクっと大きく震えて、口の中にあった俺の指を結構強く噛んだ。
「んっ! あっ! んぐっ」
「――っ。痛っ」
「あ、ああ、あ……」
「噛んだね? ホラ、血が出てる」
「う、うう。あ、はい。……ごめんなさい」
「消毒してもらわないと。あなたの唾で」
 言うが早いか、俺は血が出たままの指を、再び彼女の口の前に突き出した。
「あむ、……ぐ。んっ、んんっ」
 錆びた鉄の味が広がるのが嫌なのだろう。顔をしかめるが、だがさっきよりも丁寧に俺の指を舐め上げる。
 ちなみに左手は胸から離していない。むしろ指の腹に少し力を入れて、軽く揉んでみた。
 きゅっと目をつぶったが、今度はじっと動かずに大人しくしている。
「そのまま上着脱いで」
「んっ……」
 小刻みに震える手で、桂子さんがカーディガンを脱ぐ。俺は俺で左手を胸から離し、白いブラウスのボタンに手をかけた。そして上から順に外していく。
「んんっ! ――っ! ――っっ!」
 俺の顔を見上げ、何事かを訴えていたが、構わずにボタンを外した。スカートの中にしまわれた裾の部分も引き出して、全て。
「どうしました? 口が止まってますよ?」
「んっ、んーーんっ……。んっ、んっ」
 前をはだけさせると、やはり白いブラジャーが顔を覗かせた。レースのついた清楚な感じのものだ。うぶな女子高生のようだが、この人には似合う。
 俺は彼女のお腹に左手を這わせ、掌全体を使ってそこをさすった。ついでに口の中には中指を入れて、計2本の指で桂子さんの口腔をゆっくりと掻き回す。
 そのまま暫く、彼女の口と肌の感触を楽しんだ。
 ピチャピチャという淫らな音と共に、さっきまで青ざめていた彼女の顔は、次第に紅潮してきた。下着越しに胸を触っても驚かず、逆に吐息が甘くなる一方。 目がとろんとなり、行儀良く自分の太股に置かれた手は、時々指を伸ばしてさするような仕草をしていた。

「んっ。――あっ……」
 俺が右手の指を口から抜くと、彼女は短く、だがはっきりと名残惜しそうな声を上げる。
 指と口の端の間に、唾液の橋が架かる。それは直ぐに切れて、俺の指に纏わりついた。
「指、綺麗にしてくれるかな?」
「ぁ……はい」
 両手で俺の右手をそっと掴むと、桂子さんは舌先で2本の指を丁寧に舐める。指の股を舌が這うと、ぞくりとする。俺の中に、もっと彼女が欲しいという感情 が生まれた。
 唾液を舐め取られた指を、三度彼女の顎にあてがう。
「立ってくれるかな?」
「……」
 桂子さんは無言で、ゆっくりと立ち上がった。俺は後ろに立ち、はだけたブラウスを脱がせる。抵抗はまるでない。むしろ自分から手首のボタンを外したくら いだ。
「スカートも脱いで」
「……はぃ」
 後ろから手を回し、軽く抱きつくようにして耳元で囁く。やはり素直に彼女は従った。
 ホックを外し、ジッパーを下ろすと、スカートがパサリと床に落ちた。

 上下の下着にストッキングという、ひどく扇情的な格好になった桂子さんは美しい。
 吐息は熱くて甘い。白い肌は上気して赤みが差し、ゆるくウェーブした髪が首筋に数本だけ張り付いている。
 下腹の更に下、両足の付け根の中心部。そこは湿ったようにストッキングの色が変わっていた。
「あああっ、んっ――」
「濡れてるね。感じてたんだ」
「……やぁぁ、だめぇ……。あんっ、ああっ」
 その部分を右手で触ると、確かな湿り気があった。彼女は弱々しく足を閉じ、背中を軽く丸めて身をかがめようとする。だが左手でブラジャー越しに乳首を擦 ると、今度は逆に軽く仰け反った。
 立ったまま胸と股間の2点を指で弄り続ける。桂子さんは暫くは身をよじったり仰け反ったりしていた。だが、股間の蜜が増えてくると、立っているのが辛く なってきたようだ。後ろ手に俺の腰を掴み、足をガクガク震わせている。
 俺は手を離し、そして彼女を支えるように抱きしめた。
「ソファーでいいかな?」
「……あ、あの……」
「ベッドの方がいい?」
「は……い」
 完全に観念した桂子さんは、抱き上げると俺の首に両腕を回し、自分から抱き着いてきた。耳元にかかる吐息は、まるで俺の脳髄に直接吹きかけられているよ うだ。

 自分の部屋はごちゃごちゃと散らかっているので、親父の寝室に行った。ここはホテルのように物が少ないし、なによりセミダブルのベッドが置かれている。 最後に使ったのは3日前だ。もっとも俺が気分転換にこの部屋で寝ただけだが。昨日、布団を干してシーツを洗ったお陰で埃もなく、綺麗で快適だ。
 まぁ、ここで隣の奥さんを抱こうとは夢にも思わなかったが。

「あ、あ。んっ――」
 ベッドにそっと寝かせると、桂子さんは切なげに身をよじった。
 俺はシャツを脱いで上半身裸になると、彼女の唇に自分の口をつけた。触れて離すだけのキスから始まり、ついばむようなキス。耳を甘噛みし、首筋を舐め、 額とまぶたにキス。そして口を割り、舌を差し入れ、遠慮なく口腔を蹂躙する。彼女も舌を伸ばし、互いの唾液を交換し、絡めあう。
「はんっ!」
 顔を離し、髪を軽く撫でると彼女はブルッと体を震わせた。そして大きく息を吐く。
 キスだけで軽い絶頂を迎えたようだ。
 瞳は潤み、じっと俺の顔を見つめる。
 背中を起こしてやり、俺は白いブラジャーのホックに指を掛けた。
「下は自分で脱いで」
「……はい」
 手を前に出させ、後ろからゆっくりとブラを外す。白く、だが上気した乳房が現れ、俺は目を奪われた。形が良く、それなりに大きい。張りはあるが柔らか い。先端の乳首だけは固く、そして真っ赤に充血していた。
 俺はその柔らかい乳房を揉みながら、彼女の手によってストッキングとショーツが下ろされる様をつぶさに観察していた。
 ひどく淫らだ。彼女の秘裂から溢れた蜜で下着が糸を引いている。それだけに留まらず、たっぷりと流れる愛液はたちどころにシーツに染みを作った。
「あっ。あっ、あの……。脱ぎ、……ました」
 濡れたショーツとストッキングを力なく放り、桂子さんは哀願するように俺を見上げる。
 その顔に嗜虐心をそそられ、俺はわざと手を彼女の体から離した。そして顔から足先まで、視線だけで彼女を犯し、耳元で囁く。
「……随分濡れてますね、葉山さんの奥さん。旦那さん今日の朝、出掛けたんでしょ? 昨日はしなかったんですか?」
「う、あ。……昨日は、お仕事で、疲れてたみたいで……。あんっ!」
 人差し指だけを触れるか触れないかの距離で、届く範囲の全てに這わせる。
「それは昨日だけ? 一昨日は? 最後にしたのはいつ?」
「あっあっ、あぁっ! ――んっ! それは……。んっ、んんっ!」
「ねえ、いつ? 旦那さんと最後にしたのは」
「あ、ああっ。……んっ、んっ! ……もう、随分、……前ですっ。あ、あっ」
「え? そうなの?」
「う、うぅ、うあ。……ひっ、ひん。ひんっ――」
 旦那さんと最後にしたのは、もう随分前。そう言うと彼女は体を反転させて正面から抱きつき、泣き出してしまった。
 桂子さんの頭を撫でて、俺は続きを促す。こうなれば全部聞きだすつもりだ。
「どういう事? 答えて、桂子さん」
 俺の胸にすがりつき、子供のように泣きながら彼女は少しづつ話した。

 要約すると。
 見合いで結婚した旦那は、真面目だが淡白。大きな不満こそなかったが、旦那が仕事で出張が増えるに連れ、夫婦間の温度は次第に冷えた。そこに来て、ある 日彼女の悪い癖が出てしまい、引っ越しせざるをえなくなった。以来セックスも途絶えたのだとか。
 彼女は自ら離婚を申し出たが、旦那は「外聞が悪い」と言って聞かず。「なるべく外に出るな」と言い残して自分はまた仕事に出るという。
 そして今日、偶々隣の家が留守にもかかわらず玄関の鍵が空いているのを見つけてしまい、悪い癖が再発――というわけだ。

 仕事人間てのは聞いたことがある。と言うか、俺の父親が正にそれだ。母親はあっさりと出て行ったが、大人しい性格の彼女はそれもままならず毎日悶々とし ていたのだろう。例の癖はストレスから来るという話だが、それはあれだ。ぶっちゃけた話、欲求不満という事なのだろう。
 なるほど、押して倒れたのはこういう事か。

 俺はすんすんと鼻を鳴らす桂子さんをおもむろに掻き抱いた。
 全身を愛撫する。胸を揉み、乳首を吸い、腹を撫で、秘裂をなぞり、太股をさする。受け身の彼女を思うままに扱った。普段の妄想通りに、したい事を、した い様に。
 彼女もそれを受け入れた。揉めば鳴き、吸えば呻き、撫でれば悦び、なぞれば喘ぎ、さすれば身をよじった。欲求を解消するように、恥も外聞もなく嬌声を上 げた。
 それなりに高級なマンションなので防音はしっかりしている。それに家は角部屋、隣の家の住人は俺の腕の中に居るので遠慮も配慮もいらない。
「ああっ! ん、んんあんっ! はっはぁっ、はあぁぁ――」
 長い事愛撫し続けたお陰で、桂子さんは軽い絶頂を何度も迎えた。だが、俺の方が収まっていない。ジーンズを乱暴に脱ぎ捨て、トランクスも放り投げる。
 先走りで濡れた先端を、俺は彼女の秘唇に擦りつけた。固いペニスに纏わりつく愛液が熱い。氷にお湯をかけたように溶けていきそうだ。ズボンの中で長い事 窮屈な思いをしていたので、それだけで出してしまいたくなる。
 我慢できなくなり、俺は彼女の秘裂を指で開き、ペニスの頭をあてがった。
「桂子さん、入れるよ」
「あっ、あっ、あ……。は、はい! ――んんああああっ!」
 ズブリと音を立てて突き立てられたペニスが、そのまま彼女の膣内に埋もれてく。この時を待ち焦がれていたのか、無数の肉襞が即座に絡みつくのが分かる。
 細かい蠕動が俺の物を中へ中へと誘う。やがてピタリと腰が合わさり、俺の全てが彼女の中に埋まった。ペニスの先端は奥の壁を軽く押し上げ、桂子さんは苦 悶と悦楽、どちらともつかない表情を浮かべた。
「あっ、あっ、……当たって、当たって、るっ。はぁっ、ああっ!」
「当たってるね! 俺のが、奥さんの子宮に」
「やぁっ……。言わないっ、でっ――んっ、んあっ」
 腰を引いて突き上げると、コツンという振動が膣内に響いた。その度に彼女はいやらしい絶叫を上げて悦ぶ。口から垂れる涎もそのままに。
「あぁっ、――いいっ、いいっ! あああんっ、……もっと! お願いっ」
「あっははは! 分かったよ、いやらしい奥さん。好きなだけ突いてやるっ」
 抽送を繰り返す度に彼女は乱れ、俺の首にしがみついて自分から腰を振った。ベッドのスプリングが跳ねて、ギシギシと音を立てる。だがそれ以上に大きい音 で腰をぶつける音は響いた。
「あっ、あっ、あっ! もう、はぁっ――ダメです、ふあぁっ、ふぁっ」
「はぁ、はっ、俺も、俺もだ。行くよ! 出すよっ」
「んんあぁ、あっ……な、中はダメです。そ、外にっ。――ひんっ」
「そんな事いっても、ねっ。離そうとしないぜっ! 足が、さっ」
「あ、あ、あ、あ、ああああっっ!!」
「っあ、む。――くっ!」
 桂子さんは突然小刻みに痙攣したかと思うと大きくのけぞった。俺は結局、ペニスを外す事が出来ず、そのまま彼女の膣内に精液をたっぷりと注ぎ込んだ。
 絶頂感が続いているのか、彼女は意味をなさない言葉を小声で上げ、プルプルと痙攣している。俺の物は咥えられたままで、出した精液が彼女の胎内に飲み込 まれていくのが良く分かる。
 と、少しだけ恨めしそうに桂子さんは俺を見た。
「中はダメです、って言ったのに……」
「足を離さなかったのは奥さんでしょ。ぎゅっと俺の腰に回してさ。離れようとしても離してくれなかったよ」
「そ、そんな事……」
 彼女は恥ずかしそうに目を逸らす。
「はははっ。いやらしい奥さんだ。隣の学生に抱かれてあんなに悦んで。自分から腰も振ってたしね」
「……やっ、ん。だって……」
「それにほら、布団だってこんなに濡れてる。コップ一杯じゃきかないよ」
「い、言わないでっ……。ひんっ――んっ。んんっ」
 目に涙を溜めて抗議される。その姿は、さっきの乱れようとは打って変わってしおらしい。俺は彼女の隣に自分の体を横たえ、軽く乳首をさすった。そして髪 を梳き、頬に触れるだけのキスを何度も繰り返す。
 それだけで桂子さんはうっとりとなって子猫のように甘えた声を出す。
「あ……。あんっ、あふ。――ん……。ん」
「可愛いな奥さんは」
「そんな事……。あ、んん」
「奥さんは、俺の言うこと何でも聞くんだよね? 確か」
「んっ、あ。……あ、はい」
 彼女の頭をそっと撫でながら、俺は耳元で囁いた。
「じゃあ。旦那さんが家に居ない間は、奥さんは俺のものだよ。いいね?」
「――ぁ。……はぃ」
 桂子さんは小声だが、確かに「はい」と言って首を縦に振った。
 俺は枕に顔を埋め、彼女に見えないように声を殺して笑った。
 隣に住んでる若くて可愛い奥さんが俺の物になると誓ったのだ。これは笑わずにいられない。旦那は年中出張で家にいないから、毎日のように好き放題彼女を 抱ける。飯だって作ってくれるだろう。
 どんな風に可愛がってやろうか、どんな風に苛めてやろうか。気分は正に有頂天だ。
 正面から彼女を抱きしめて、俺は再び愛撫を開始した。
「もう一度、いいかな?」
「はい……」

   /

 その後も、桂子さんは俺の言いなりだった。
 彼女は彼女で欲求不満などという事もなくなり、例の癖は出ないという。
 葉山の旦那さんは、どうも出先に恋人がいるらしく、家に帰ってくるのは本当に稀で、長くとも3日といない。彼は奥さんの変化に気付いたか気付かないの か、どちらにせよ興味がない様子だ。だが今の所、離婚も考えてないようで冷え切った夫婦関係は変わっていない。

 何を要求しても桂子さんは受け入れた。
 ピルを飲んでくれと言えば素直に病院に行ったし、口でしてくれと言えばたどたどしくも咥えた。流石に後ろを試そうと言った時は抵抗したが、最後には尻を 上げた。
 つい苛めたくなるような雰囲気があるので、時には調子に乗りすぎて泣かせてしまう事もあるが、本当に嫌がる事はしていない。彼女自身も毎日楽しそうに俺 の世話を焼き、そして受け入れてくれる。

 だから今日も、学校から帰って玄関を開けると。
「あ……、お帰りなさいっ!」
 隣の奥さんが裸にエプロン一枚で俺を出迎えてくれるのだ。



 ――了。

モ ドル